【短編小説(恋愛)】お元気? 1800字
[HL:なんでだかわからないけど、別れた彼氏]
「ねぇ、元気? 何してた?」
頭の中であたしはそう声をかけていた。
随分久しぶりに寄ったクラブの端っこで、あなたを見つけたから。そう。でも私は見つけることを予測してた。ほんのちょっとだけ。確率としてはそれはきっととても低くて、だからきっと会わないだろうと思って、でもやっぱり心の中では願ってて、けど実際にはそんなことが起こるはずがないって思ってた。それに丁度今、気が付いた。
「ご注文は?」
「ええと、ラムコーク」
初めてみるバーテンダーが小さく会釈して、グラスを取りに戻る。ラムコーク。いつもは頼んだりしないけれど、きっとあの手元が傾けていたのはラムコークだったから。このクラブは全体的には薄暗くて、けどその中をピカピカまぶしいネオンが散らばって、その激しさにすべての色が色あせる。だからあの暗い液体が本当にラムコークなのかはわからないけれど、私の前に現れた細長めのグラスはあの人のグラスと同じだった。
やっぱり少し、苦い。そう思って振り向けば、もうあの席にはいなかった。誰も。
だからきっと、気のせいだ。この暗いクラブでは、人は全てシルエットに変換されてしまう。
その一瞬見えた角度があの人の影に少しだけ重なったってだけ。
思い出が少しだけよぎる。
彼と付き合ったのはもう3年も前。このクラブには一緒に何回か来た。いろんなレストランにいって、一緒に海にいって、それからお祭りにもいって。そういった思い出の場所は他の人と付き合ってた時も同じように行った場所だけど、何故だか今やけに思い出せるのはさっきその面影をみつけてしまったからかもしれない。あの時何を話してたっけ。そうだきっと、仕事の話と将来の話。将来の話といっても結婚しようとかそういう話は全然でなくって、だから週末はなにしようかとか、そんな話。
あの時話した少し先の当然訪れる未来。それは永遠に繰り返されると思っていた。けれどそう感じたのはきっと、そのうち終わることを予感していたからだ。
そう、私と彼は別れた。2年半ほど前。
結局その永遠は半年くらいしか続かなかったってこと。何が悪かったんだろう。いいえ、きっと何も悪くなかった。始まったときと同じように自然に終わってしまった。それは彼の転勤が決まったからでもあるし、その時についていこうとか遠距離でもつきあおうとか、お互いに思わなかったから。そして私はこのクラブからも自然と足が遠のいた。何故ならこのクラブに連れてきてくれたのは彼だったから。
何で別れたのか。それは別れる時期が来たから。
それで、よかったのかな。きっと良いも悪いもないよ。それがきっと、ただ単純にその時の私の未来だったってだけ。
私は後悔してるのかな。そう思いながら心と頭の中を振り返る。いいえ、きっと後悔もしていない。彼との関係はとても居心地がよかった。ただ、それだけ。そうだ、あの時もこんな曲が流れていた。名前はわからないけど少しだけ懐かしいメロディ。
そうして目の前のラムコークはしっとりと暗い色に私の表情を反射して、傾ければその表面に波紋が広がった。
私は、私たちはどこに向かっているんだろう。
歩いて、歩いて、ずっと歩いていてどこかに向かっている。
その間に出会って、出会って、いろいろな誰かと出会って、そしてまた一人で歩いていく。
けれどたまに、たまにね。こんな瞬間に少しだけ振り返ってしまう。
こんな風に記憶と繋がる懐かしいメロディーが耳の中に流れ込んできて、そしてそれに紐づいた光景を頭の上に浮かべる。
ただ、それだけ。
そして私は比べ始める。
過ぎてしまった時間は、どの程度の価値があったのか。
もう通り過ぎて届かないその過去と、過ぎてしまった分かれ道に。
後悔してるわけじゃない。後悔っていうのは過去を固めて丸めて大事に飾るかゴミ箱に捨ててしまうってこと。でも今、私はまだ彼を思い浮かべることができる。
だからきっと、将来彼に会ったとしたら、また新しく出会うことができるはず。
彼にもしまた会えたなら。
きっとそんなことはないだろうけれど、確かに彼と過ごした時間は淡く幸せだったんだ。随分久しぶりにここに来たのは、何かが懐かしかったからってだけ。
さぁ、また歩き出そう。
そう思って立ち上がり、振り返る。
「あれ? 久しぶり。元気してた?」
Fin
僕って基本的に恋愛感情ないから、恋愛小説ってこれでいいのかっていつも悩む。ならなぜ書くんだと思わなくもないけれど、僕的に恋愛も妖怪も非現実的という観点で特に違いがないから書くのに抵抗はないんだよな。そういうものかなと思って書いてるだけで。エア恋愛。
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同じくらい淡い感じの出会いかも。
