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小説の資料+4 ブードゥー教とゾンビ映画

全体目次はこちら。

1.お品書き

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。
 本話は主に別所で書いている学園ホラーの関連資料(このエッセイで言うところの本編)です。この学園ホラーの話ってこっち持ってきてないんだよな……。
 このエッセイは小説を書くのにあたって、色々調べたところをブッパするお気楽エッセイです。にわかなので間違いが見込めますので、発見された方はお気軽にご指摘くださいませ。


2.ブードゥ教といえば

 さて、ブードゥー教って何で一番有名かっていうと、やっぱりゾンビ映画ですよね。と、書いてて今思ったんだけど、これって既に共通見解ではなく、すでにメタ的にゾンビという存在が認識されているような気がしてきたけれど、それじゃ話が続かないのでゾンビということにして先に進みます。
 振り返れば、今は既にゾンビはゾンビという独自のキャラクター性においてドラゴンと同様に一般化している気がしてきた。文化の浸透というものと共にロメロの偉大なうっかりに思いを馳せる。
 ともあれ、ゾンビ黎明期、つまりゾンビ映画が出始めた頃にはゾンビはブードゥ教と紐ずいていたので、今日はその話をします。
 なお、映画としてのゾンビの価値はそのうちこちらの映画エッセイで『『ドーン・オブ・ザ・デッド』で死んだゾンビ』という記事を上げているので、ご興味がありましたらお読み頂けるととても嬉しいです。今回の話と前半かぶるんだけど。

 さて、ゾンビ映画の走りはロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」です。これは今から見るとちょっと牧歌的なところもありますが、白黒の画面のなかでこれまでにない「死」への恐怖を描いたまさに金字塔といえる作品で、ここから現在に繋がる様々なゾンビが発生しました。
 スパイダーマンでヒットしたサム・ライミは、もともとゾンビ映画をたくさん作成していました。「死霊のはらわた」は恐怖のなかでも笑いがおこる名作です。サム・ライミと聞くと自分ははらわたイメージなんだけど、今はやっぱスパイダーマンなんですかね。
 なお、自分は足が速いのも遅いのも等しく好きですが、好みはルチオ・フルチのゾンビのです。フルチの映画は内容は微妙なんですが、ゾンビの質感等にこだわりがみられて、生々しくてとても好きです。

 さて、今回のテーマはゾンビ映画ではなくブードゥ教ですから、最初のゾンビ映画の話からしましょう。「恐怖城」又は「ホワイトゾンビ」と呼ばれる白黒トーキーの作品です。
 でも「恐怖城」ってタイトル、なんか違和感ないですか? どっちかっていうとゾンビじゃなくてドラキュラっぽい。まあそれも当然でありまして。

 「恐怖城」の製作は1932年です。
 主演は目力のすごいめっちゃイケメン(?)俳優ベラ・ルゴシですが、前年に「魔人ドラキュラ」のドラキュラ役で大当たりした人でし。
 当時はホラー映画ブームで、さりとてドラキュラやフランケンシュタインという古典ホラーは使い倒され、ニューカマーとしてやってきたのがゾンビです。
 そこでドラキュラ役のベラ・ルゴシを主演にすえ、解体途中のドラキュラのセットを流用し、フランケンシュタインのメイクさんを起用して作られたドラキュラ感あふれる低予算ゾンビ映画、それが「恐怖城」。
 なお、ルゴシは亡くなった時もドラキュラの衣装で埋葬されたという筋金入りです。私生活にまつわるアレコレもなんか哀愁あふれて面白いんですよね、ルゴシ。それも前述の映画エッセイの『『死霊の盆踊り』の恐怖』で書いてます。

 さて、タイトルどころか内容もあまりゾンビ感はありませんが、簡単にあらすじ。
 ハイチに新婚旅行に来たカップルが現地の地主に横恋慕される。地主はゾンビマスター(ルゴシ)からもらったゾンビパウダーを嫁さんにかけてゾンビにするんだけどちっともなびかなくて、マスターに文句いいにいったらゾンビにされちゃて、その後も色々あって結末は伏せるけどラストまでいってもなんだそりゃっていう話。

 文化の差かもしれないけれど、面白いかというとなんとも微妙。全体的に芝居がかった感じは嫌いじゃないんですが。
 でもやっぱりゾンビ感……ないよね?

3.生きているゾンビ

 さて、そもそもの誤解があるかもしれません。
 この映画「恐怖城」のゾンビは「死体」じゃない。「生きてる人間」です。そして作中のゾンビは基本的にハイチの砂糖工場で真面目に働いていて、人を襲ったりしません。

 では、そもそもゾンビとは。
 ブードゥー教はもともと現在西アフリカあったダホメ王国のフォン人の民間宗教に表面上キリスト教と結びついて成立した宗教で、ざっくり言えば自然や祖先を大事にする宗教です。
 ブードゥー教自体には厳しい戒律があったりするわけではなく、西アフリカから奴隷として連れてこられた際に宗教的弾圧を免れるために混ぜ合わされ、現在の姿になったと言われています。ですからアフリカのブードゥ教とアメリカのブードゥ教は少し違いがある。表面は仏教徒を装った隠れキリシタンみたいなものだろうか?
 映画で「ゾンビ」というイメージがついたので、ややもするとおどろおどろしい印象がありがちだけど、もともとは穏やかな信仰でした。今も信者数も多い。

 ブードゥー教では、真なる神様がどこかにいるけど、神様は基本的に人間に関与しないし、人間も神様に会えたりはしない。神様と人間の橋渡しをするのはたくさんのロアと呼ばれる存在です。ナーロッパでいうところの主人公周りにしょっちゅう出てくる大妖精なんかのイメージに近いかもしれないですね。
 ロアにも色々いまして、愛のロアとか海のロア、森のロアなど様々なロアがいます。この辺は日本神話やギリシャ神話も似た側面があります。
 ロアにも系統があり、日本神話に寄せて書けば和魂っぽいラダというグループと荒魂っぽいペトロというグループ、死神のゲーテがいます。アフリカとアメリカのブードゥはこのあたりでも違いがあるようです。未調査。

 さて、そろそろ本題のゾンビ。
 『ロアの神官』という役割の人がいて、歌い踊ってロアをおろし、神託や裁判をします。沖縄のユタと少し似てるかも。
 そして裁判の結果ゾンビの刑となった場合、ロアの神官が持ってるゾンビパウダーを使って刑を執行します。

4.生きているゾンビの製法

 ゾンビを作るゾンビパウダーの前にゾンビ化について考えてみます。
 ここでいう『ゾンビ』はいわゆるゾンビ映画の「死体がよみがえる」的ものじゃなくて、恐怖城の「犯罪者を砂糖工場で働かせる」的なほうのゾンビで、ゾンビパウダーをかけてゾンビにする方です。

 この効果をよく考えれば、ゾンビパウダーとは人を催眠状態にすることによって単純作業行わせる代物です。人をそのような状態に陥らせるためには、魔法薬を使う必要はありません。向精神薬等の薬を使えば実現可能でしょう。
 ハイチの刑法では「ゾンビの儀式を行ってはいけない」というのがあるそうです。検索しても出てこないので今もあるかはわからない。
 刑法に定められるためには、加罰の必要性と、何をすればその行為に該当するのかという要件の明確な定めが必要です。何が罪にあたるのか判断がつかなければ指標になりません。「ゾンビの儀式」や「魔法薬の使用」に該当するものがある程度具体化されていて具体的な恐怖を民衆に与えているからこそ、刑法で定められるのだと思う。

 そのゾンビパウダーの内容については、人類学者のウェイド・デイビスが調査しました。デイビスはゾンビ化の原因はフグ毒だと主張しましたが、懐疑的です。現在はデイビスが組成を調べたゾンビパウダーの中に含まれていたダチュラ成分がゾンビ化の原因だという説が有力と思います。

 ところでこのダチュラ、園芸店やホームセンターで普通に売っています。朝鮮朝顔のことです。朝鮮といっても原産は朝鮮じゃなくて南アジアで、「外来」という意味でつけられた朝鮮ですね。
 日本でもダチュラの誤飲や食中毒でたまに人が亡くなっていますが、ダチュラを摂取した場合に起こる副作用の一つに意識障害やかせん妄があります。様々な生薬類を組み合わせたのでしょうが、強制労働には使用効率が悪そうなので、何らかのノウハウがあったのかもしれません。なお、以前知人が誤飲(?)したところ恐ろしいバッドトリップを引き起こしたそうなので、くれぐれも誤飲にはご注意ください。

 ダチュラは江戸時代末期に華岡青洲が『通仙散』という名で麻酔薬として用いました。全身麻酔としては世界初で、現在も日本麻酔学会のロゴマークとしてダチュラが使われています。
 華岡青洲は主に乳がんの手術にこれを使っていましたが、当時の成功率(完全緩解かはさておき)はかなりのものだったようです。ちなみにこの通仙散は明治時代くらいまで使われていたので、僕の話の中でたまに検討に出てきます。

5.死んでないゾンビの製法

 次はゾンビ映画のゾンビです。これは人為的なものではないいわゆるフィクションなのですが、手元に『ゾンビでわかる神経科学』という医学書として使うのには物足りないけどキャッチーで詩的な本があるのでそれを引用してみよう。なおこの本でもゾンビ・パウダーについての言及もあるのだけど、フグ毒(テトロドトキシン)ベースなので、割愛します。イオンチャンネルの話。

 この本に出てくるゾンビは厳密には生きていて、大脳新皮質等のいわゆる大脳の表面上に存在する思考に関する部分は融解してその機能を低減させ、大脳基底核や運動野のみ生きているため、あのいわゆるゆっくりゾンビのムーブをするものだと捉えている。
 複雑な思考に基づく行動命令はできないが、単純な欲求(食欲)に基づく行動、例えば空腹に際してお肉を求める(客観的には人を襲う)行動はしうるということ。
 例えばパーキンソン病の患者は『リビングルームに行ってください』という定義をいくつか定めないといけない行為の指示には従えなくとも、『そのソファに行ってください』という『ソファ』と『行く』という単純な2つで構成された指示には従うことはできたりするそうだ。ただしパーキンソン病の原因は中脳黒質緻密質のドーパミン分泌細胞の変性なので、この本の前提とは少しずれているような。
 他にもどの脳機能でどのような行動までが可能か等、色々分析されているので、興味のある方はどうぞ。ただしアメリカのよくある自己啓発本ライクにテンションが高すぎて、読むのが辛い層は一定いると思われる(me too)。
 これを小説にフィードバックするためには、おそらく脳というかタンパク質を融解させるような物質(ただし骨を透過させる必要がある。放射線の類とすると基底部にもダメージがあるから駄目か)を製造して噴霧するのが一番だが、これだと空気感染で片っ端からゾンビになってしまうから、全員ガスマスクでも装備させない限りストーリーが転がせない。そうすると食物又は飛沫から体内に入り、一定時間経過後に血管から運ばれて脳組織を破壊しうるものを考えれば、噛んで感染というルートが使えるだろうか。
 いずれにせよ、新皮質が破壊されるような物質はいずれ全ての脳を破壊するだろうから、ゾンビになると短命な気がする。ん? mRNAワクチンで特定のプリオン病を発生させれば……あっ。

6.おわり

 明治時代の医者がよく話に出てくるので、わりと近代医学に興味があります。ゾンビパウダーかぁ。薬物を使って人を使役するようなものを考えてみようかな。作って使いそうなマッドな医者が一人いるから……。

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 小説はもってきてないですが、前述の映画の紹介エッセイの目次を置いておきます。こちらも好き勝手書いているので、ご興味がありましたら是非。

 ではまた。

#小説 #資料



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