【短編小説(SF)】玄関の先が行方不明 1500字
[HL:がちゃりと玄関を開けた先は……]
ガチャリとその玄関を開けば、見知らぬ部屋が広がっていた。
だから慌ててバタリと閉じて、手もとの鍵を確認する。 神津之助のフィギュアの付いた、確かに俺のキーホルダー。汚れ具合と神津之助の右耳が欠けていることからも、これは俺のキーホルダーだ。間違いない。だからこれが俺の部屋の鍵。
そうして左右を見回した。ここは❘逆城《さかしろ》団地3号棟の3階。そして目の前の扉には305号室と書いてある。
再び共通玄関に鍵をねじ込みアドレスを読み取らせれば、ロックが外れる音がした。再び恐る恐るノブを回し、音を立てずにゆっくり開いてみた景色は、先程と同じ部屋だった。奥で誰かが歩く音がした。
慌てて扉を閉める。
やはりこの中は俺の部屋ではない。けれどもこの鍵で開くということは、ここは俺の部屋のはずなのだ。
……そうだよな?
不法侵入? 誰が? 俺が?
確かめなければならない。俺は仕事で徹夜明けで、一刻も早く布団にダイブしたい。そうじゃなければ今ここで寝そう。
意を決してインターフォンに手をプッシュする。
「はい、どちら様ですか。宅配は頼んた記憶はないけど」
見知らぬ落ち着いた声。
宅配を頼む。ということは、声の主の部屋なのだろう。やはり。
「あの、そのですね、私の鍵であなたの家の玄関が空いてしまったのです」
「はぁ? まさか」
「本当です」
玄関を開けて現れた男は初めて見る顔で、不審げに俺を見て、めんどくさそうに自分の鍵で玄関を閉め、俺に玄関前を明け渡す。俺の鍵を差し込んで開ければ、先程と同じ見知らぬ部屋。隣で男がぽかんと口を開けた。
「……私の部屋ですね。逆城団地3号棟305。場所も間違いない」
「ええ。俺も同じ住所です」
こんなことが起こるはずがない。なぜなら俺が借りているのはこの鍵とゲート使用権なんだから。
「これ、あなたも困りますよね」
「ええ……知らない人と繋がっているのではちょっと。扉管理事務所で聞いてみましょうか」
団地の一階にある管理事務所で管理人は面倒くさそうに首を横に振る。
「俺の部屋は逆城団地3号棟305なんです!」
「それは登録データで確認がとれました。それとお客様の鍵の機能自体は問題はありません。問題はお客様の部屋のデータが抜けていることです。バックアップは取られてなかったんですか?」
「バックアップって……」
困惑した。
「当社は鍵と扉をお貸しするだけです。データ登録はお客様でやっていただいておりますので」
つまり不具合の原因は、俺の鍵に入っていたはずの俺の部屋のデータが消えていたことだ。
人口増加が著しい2286年現在、居住用スペースの確保が都市部の喫緊の課題となり、一つの共通玄関に対して複数の部屋を多重空間的に紐付け、管理鍵を挿せばその共通玄関と鍵で紐付けられた部屋が現在空間に接続され、自室に入れるようになっている。昔の立体駐車場の上階が異次元に設置されていると考えるとそれなりに近しい。
「じゃあ何でさっきの人の部屋に繋がったんです」
「直前の使用者だからですよ。鍵自体の性能は問題ないのですから、直前に使用した部屋に繋がっただけです。今後は直前の部屋に接続しないよう、社の方で対処します」
「じゃあ俺はどうすればいいんですか!」
鍵のHDをさらってみたけれど、俺の部屋の住所データに関連するデータ自体が根こそぎ削除されていた、そうだ。そしてセキュリティの関係上、管理会社は部屋のデータは所有していない。
「最近そういうウィルスが流行っているようですよ」
「何とかしてくださいよ!」
「保険に入られていますか?」
冷や汗がたらりと背中を伝う。事故なんて極めて確率が低い。だから、保険に入っていなかった。普通入ってないだろ?
「あなたの部屋がなにかの偶然でどこかの共通玄関に繋がった時、連絡が入るようにしておきましょう」
それは極めて低いどころか、天文学的な確率だ。膨大な多重空間の中から1つの部屋を探すだなんて。俺の部屋はどこに流れていったんだ。絶望で目の前が暗くなる。
「ちょっと、ここで寝ないでくださいよ」
Fin.
