1回バットがボールに当たったら終わりだよ
私が二刀流 壁打ちテニスをやっていた時のことです。
もう1つの壁の方で野球をやっていた スケガワ君チームが 、私の壁のところに移ってきました。
「スケガワ君どうしたの?」
「hideさん、ごめん 、こっち 使わせて!」
団体さんが向こうの壁を使わせて欲しいと言ってきたようです。
私は即座に イエス!
スケガワ君チームは3人。
2人を紹介しますね。
一人はスケガワ君と仲良しのクワハラ君。
彼は毎日のように運動場に来ていて、根っからの野球好き。
仲間と待ち合わせの時はいつも一番乗りで、絵に描いたような勤勉な優等生なんです。
もう一人は……名前がなかなか思い浮かびません。
名前をしっかり覚えてあげて、声がけしてあげることにしましょう。
お母さんが夕方5時にはよくお迎えに来ていて、さぞかしご両親に大切に育てられているのでしょう。
ひょろひょろっとした体格なので、しっかり食べて鍛えていったら大丈夫。
壁の左側の隅っこに立って、スケガワ君が思いっきりバットを振り抜きます。
スケガワ君は小学3年生で、ふたりは 4年生。
1学年下だけあって背は低いんです。
けれども パワーは負けていません。
熱血漢の塊です。
ボールが遠くの方に飛んで行くと、2人はそれを追いかけます。
その合間を縫って、スケガワ君とここぞとばかりおしゃべりします。
「ピアノは毎日やってるの?」
「うん、1時間やってるよ」
彼は頑張り屋さんで、ピアノのコンクールでもすごい成績を上げているんです。お母さんはピアノ教師。
彼 、面白いですね、左でも打ち出しました。
野球だけは右投げ右打ち。
字は右手で書くそうですが、絵は基本 、左手の方がうまく描けると言います。
野球以外の運動は左利き。
「僕たちの 付き合い、どれくらいになるかなあ」
「もうかれこれ 1年だね」
スケガワ君が私に聞いてきました。
「あれ どうなったの?」
「あれって?」
「コンクールとか……」
「あー エッセイのことね」
「5月に2本 、6月に1本、結果が出るよ」
エッセイストhideとして、noteのコンテストに応募したのを、スケガワ君に話していたんです。
彼の様子を見ていて、私はいよいよ ムズムズしてきました。
「1球だけでいいから、僕にも打たせてくれよ!」と、心の中で絶叫します。
私がここで踏み込まなければ、私と彼の関係は深まりません。
私はいつも彼に言っているんです。
「僕も君と同じ 子供だからね」
「僕たちは親友だからね」
もう我慢できません。
「スケガワ君、僕にも1球打たせてよ」
「うん、いいよ。でも、1回バットがボールに当たったら終わりだよ」
(しめしめ、交渉成立!)
1球目 空振り。
そして、2球目。
――カツーン。
3塁方向へのファウル。
(しまった、もうこれで終わりだ!)
3人が異口同音に言います。
「パワーはすごいな!」
もちろんそうでしょう。
だてに二刀流壁打ちテニスを、1日2時間やっているわけじゃありません。
ものすごく悔しいけれども、バットがかすっただけでも感謝しなければ。
「みんなありがとう!」
私からバットを受け取ったスケガワ君。
早速 元通り、ピッチャーのボールを打ち返し始めます。
私も 元通り、二刀流壁打ちテニスに戻ります。
(2026年5月18日 月曜日 晴れ)
