🤣 思い出は笑い話
体育の時間
その時、私は中学生だった。
私の苦手な体育の授業。
中学から体育の授業が男女別となり、女子ばかりでの授業である。
その日は二人一組でテニスをしていた。
私は友人とペアになり、ラケットを振り回す。
友人はテニス部にも所属していてサーブも完璧だったが、運動音痴の私はサーブも返球も自分のコートでワンバウンドし、練習にもならない。
それでも友人は笑顔で相手をしてくれていた。
ところがある時、友人が放ったボールが高く飛び、フェンスの上のほうにハマった。
見上げるほどの高さでフェンスの菱形に見事にハマっている。
「ごめ〜ん」
友人が駆け寄ってくるが、私の後ろ側のフェンスなので
「大丈夫」
と答え、私はフェンスを登り始めた。
両手でフェンスを掴み、足先をフェンスの菱形に突っ込み、少しずつ登っていく。
やがてボールに手が届く位置まで登ると、ボールをフェンスから抜き取る。
ふと見下ろすと、足元で友人が私を見上げていた。
「はい」
私は友人に向けてボールを落とす。
投げずとも手からボールを離すだけで、ボールは友人の手の中へ収まった。
「ありがとう」
友人の声が聞こえたが、この時、私は大変なことに気付く。
私は高所恐怖症なのだ。
アカン!
フェンスを登っている時は良かったが、下を見たとたん、自分がものすごく高い所にいることを認識する。
おそらく足から地面までは1mくらいだと思うが、足から目までも1m以上はある。
都合、とんでもない高さに思えてしまったのだ。
私はフェンスにしがみつき、顔もフェンス側に向けて固まる。
「どうしたん?」
下から友人の声がする。
私が高所恐怖症で動けなくなっていることなど知る由もない。
恐る恐る、私は再び下を見る。
例えば、飛び降りても支障になる物は足元には無かった。
ただ、少し離れた場所から友人が不思議そうに私を見上げていた。
___やっぱりアカン!
私は再び、顔をフェンス側に戻して固まる。
「どないしたん?」
どうやら他の女子も事態に気付き、何事かとザワザワし始める。
その時
「どうした!」
体育担当の男性教諭の声がした。
なんで!?
この教諭は厳しいことで有名だった。
体育の授業中には決して笑わない。
私達生徒にも、それを説いた。
体育の授業中に笑いながらでは怪我のもとになる、という持論だった。
私はその先生の声に、ハッと我に返る。
___一体いつまでこうしているのか
そのうちチャイムが鳴ると休み時間、その次のチャイムが鳴ると、次の授業が始まる。
私は固まりながらも考えを巡らせる。
___このまま手足をフェンスから離せば、私の体は万有引力によって地面に落ちるではないか
先ほど、ボールが友人の手に収まったのと同じ原理である。
我ながら名案だと思った。
下を見るから怖いのである。
下を見ずにこのまま手足をフェンスから離せばいいのだ。
思うが早いか、私は両手両足をフェンスから離す。
次の瞬間、私の体は地面に下りる。
はず、だった。
だが、なぜか私の体は何かにぶつかり宙で止まる。
再び私はフェンスにしがみつくことになった。
___足元には何もなかったのに
不思議に思い下を見て愕然とする。
先生の顔面に私のお尻が載っていた。
やってもうたー
要するに、心配した先生が私の足元まで来ていたことに気付かないまま私が下りようとした為、先生は私のお尻を顔面で受けてしまったようだ。
先生は少しむせながらも、体を支えながら私を地面に下ろしてくれた。
「すいません」
ひとまず私は謝る。
恥ずかしさから、声は極端に小さい。
先生は
「お前、急に落ちてくんなよ」
と短く言う。
この時の先生の表情は忘れられない。
”笑いたい“という本能と、”教師たるもの笑ってはいけない“という理性が、顔の中でグチャグチャになっていた。
初めて見る、先生の困惑した表情だった。
先生は、とてもこの場にいられない様子で、私に背を向けて去って行く。
私は先生の後ろ姿を見送りながら、ある事に気付く。
___えらい静かやなぁ
先ほどまでザワザワしていた女子の声が、一切聞こえない。
どうしたのかと周りを見ると、みんな地面に突っ伏して笑っている。
もうテニスどころではない。
みんなラケットを放り投げ、声も出ないほど笑っている。
中には、笑いすぎて泣いている者までいる。
___絶対に見てたほうが面白いよなぁ
自分でやらかしておきながら、そう思う私である。
おわり
