バードオンリー!360°鳥しか見えない!【鳥展@国立科学博物館】
鳥! トリ! TORI!
鳥、良いですよね。悠々と空を舞う姿、スラリとしたフォルム、色とりどりの羽毛、つくね。
人類が人類になる以前から居るのに、付かず離れずの距離感を保つ近くて遠い存在。
そんな鳥の総合科学展覧会が2024年は東京の国立科学博物館、25年は名古屋市科学館で開催されています。
この記事は東京展の思い出を会場写真と共につらつら綴り、あの羽毛にまみれた空間の雰囲気をお伝えしてみよう…という試みです。モフモフした気分になって頂ければ幸い。
展覧会の概要
正式名称は『特別展 鳥~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統~』。遺伝子分析に基づく最新の鳥分類の視点から世界中の鳥を紹介しています。
キャッチコピーは「一生分の鳥が見られる!?」。国立科学博物館が保有する膨大な数の鳥剥製から約600点(名古屋は400)を厳選展示だそうで、会場はどこを見渡しても鳥だらけ。一生見ることがなさそうな鳥の剥製もあり、鳥マニアにとってはここがそう、楽園です。
なお、科博では鳥の展示が頻繁に開催されている印象がありましたが、まとまった規模での特別展は初めてだそうです。これは意外。もっと頻繁に開催してもいいのに。
展示には一応章区分がありましたが、実際に見ていると最初の「鳥の基本コーナー」、後に続く膨大な量の「鳥類目別標本コーナー」に分かれている感じ。
会期末が近かったからか会場は相当な混雑っぷり。客層は幅広く、小学生連れの家族、鳥オタクの方々、生物学専攻の大学生、特に鳥が好きそうではないカップルの姿もちらほら。当日、お隣の西洋美術館はモネ展(超混雑)、近所の東京国立博物館ではキティちゃん展(怒号の飛び交う混雑)でしたので、向こうよりは空いてるよねな感じで皆集まってきたのでしょうか。
鳥分類学のパラダイムシフト
突然ですが、生物学における階級をご存知でしょうか?
詳細は知らずとも、教科書で木の枝のように分岐していく生物進化の図を見たことのある人は多いはず。そこに示してある
界・門・綱・目・科・属・種
などが生物学の分類階級で使うラベルで、生物の近さを考えるための基準になります。例えば人間ことホモ・サピエンスは
界:動物界
門:脊椎動物門
綱:哺乳綱
目:霊長目
科:ヒト科
属:ヒト属
種:ヒト(ホモ・サピエンス)
という分類です。現在ヒト種はサピエンスしかいなくて寂しいですね。昔は別種としてホモ・ネアンデルターレンシス種があったのですが、3万年ほど前にネアンデルタール人が絶滅して終わってしまいました。
話を鳥に戻します。鳥類は正式には 動物界 > 脊椎動物門 > 鳥綱 と分類されており、人類とは哺乳類オアノットの階層で分かれています(けっこう遠い)。
綱にはほかに両生・爬虫・魚・昆虫があり、○○類と言われたらピンと来るのに、なんで綱というのか。専門用語は難しい。
さて、鳥類の下位区分を見てみましょう。鳥綱の下にはどんな目があるかというと…

S. Wu, et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 121 (8) e2319696121, https://doi.org/10.1073/pnas.2319696121 (2024) より
うわぁぁ!
いやこんなん理解するのムリ。凄いバラエティに富んでるじゃん。生命大爆発ですよ
はい、次行きましょう。上図の目のひとつにスズメ目 Passeriformes という可愛い名前の区分があります。ここは現世鳥類約一万種のうち、6200種を含む超巨大グループだそうです(スズメってそんなに種類あるんかい)。というわけでスズメ目を詳しく見ると、…

カラスもウグイスもみーんなスズメ目の仲間だよ!
うわうわうわ、こっちもとんでもないことに!!
見てるだけで目がチカチカしてくるのですが、これ全部人間が手作業で作り上げて来たんですよね…鳥類に限らず分類学者の皆さんには尊敬しかありません。
しかし、悲劇(?)はこれだけでは終わらない。
かつて見た目や骨格の特徴で分類されてきた鳥たち。新種の発見も落ち着き、分類学も大分落ち着いてきたかな…と学者たちが一息ついた二十一世紀の初め、分類学会を黒船が襲いました。
そう、ゲノム解析(遺伝子解析)です。
見た目が似てる、骨格の特徴が一致するという区分を超えて、DNA配列という否定しがたい根拠を元にバンバン従来の生物学分類を塗り替えていくゲノム解析。
仲間だと思われていたタカとハヤブサは全然別の区分だった!
フラミンゴとハトは親戚だった!
天と地がひっくり返りそうな大騒ぎ、怒号の飛び交う分類学会。
とりあえず鳥類分類目録を早急に修正しなくてはならぬ…と使命に駆られた学者の皆さんの並々ならぬ努力により、全世界で鳥類リストが改められました。日本も勿論例に漏れず、ほぼ完全リニューアル状態でお出しされたのが『日本鳥類目録第7版』。業界の方々いわく「目録第6版以前のことは忘れてほしい」とのこと。
そのあたりの雰囲気は記事が色々ありますので、チェックしてみると面白いかも。
このように、一般人の知らないところで革命的な変更と混乱が起きているのが鳥類分類ワールドなんだそうです。
なお、『日本鳥類目録』シリーズの最新版は2024年9月に公開された第8版。ゲノム解析の結果を受けて大改定された第7版の正統進化版として、新たに分かった知見が追加されているとのこと。今回の鳥展もこのバージョンを元に企画されています。
会場の雰囲気フォト:入口付近
ここからは、科博 特別展示スペースの入口から会場内にかけて撮影した写真を紹介していきます。
まずは行列の出来ているチケット売り場で当日券を購入し、入場待ち列(45分)の最後尾へ。入場まで約10分の場所まで来ると、会場外壁に巨大パネルが見えてきました。

どれがどの鳥なのかは図録に解説がある。
特別展のメイン会場は地下にあるので、エスカレーターで降下。人のざわめきが響く地下室の入口では早速、鳥の剥製がお出迎え。


本当に小さい!
会場の雰囲気フォト:鳥の基本コーナー
科博の展示らしく、まずは鳥のお勉強からスタート。
そもそも鳥って何? 他の生物とどう違うの? という疑問に特に分かりやすくもなく、しかし工夫を凝らしたディスプレイで応えてくれます。分かりやすくない原因は専門用語がガチだからです。たぶん生物学専攻の大学生じゃないと理解できない。
生物の基本はまずボディから。というわけで鳥の骨格標本が並びます。

鶏の骨付き肉は内部も詰まってガッツリしてますが、飛翔する鳥の骨は軽量化を意識したスカスカ仕様。骨の強さを保つために日々カルシウムと向き合う我々人類とは発想が違います。
次に鳥といえば羽根!

目的別に羽根を分類した面白い展示です。鳥の飛翔スタイルには高速・低速や長距離用なので羽ばたかない・近距離用なので激しく羽ばたく、といった違いがあるそうで、目的に応じて羽根も尖ったり丸みを帯びたりするのだそう。飛行機とパラグライダーの関係をイメージすると分かりやすいですね。
ところでこの展示、羽根だけで胴体がいないのが生々しい。ちょっとだけホラーなのか、子供たちがガン見してました。
生物の進化系統における鳥のポジションも見ていきましょう。最近、恐竜と鳥類が親戚関係にあることになったと噂で聞いていましたが、さて、どうなってるのかな…?

図にはどう考えても恐竜みたいなシェイプのやつが混じってますね。羽毛のある恐竜から鳥類が誕生したというのは常識っぽいです。とすれば、フライドチキンって広義の恐竜料理なのか。テンション上がりますね。
ところで、この展示パネルの中ほどに位置する始祖鳥ことアーケオプテリクス、よく見ると現在の鳥類とは別系統になってます。始祖鳥くん、現生鳥類直系の祖先ではなかったと判明したようです。なんてこった。
さて、進化図の展示エリアの天井には異様な圧をかけてくる模型がぶら下がっていました。今回の展覧会の目玉、ペラゴルニス・サンデルシくんです。

Photo by Kyu3a, CC 表示-継承 4.0, URL
顔、怖っ!!!
ちょっとカモメっぽいのに歯がまったくカモメじゃない。
ペラゴルニス・サンデルシくんは約2500万年前に生きていた史上最大の飛翔生物(鳥)。広げると7メートルの翼を持っていたと推定される、2014年に学名登録された新種生物です。
今回の鳥展では、鳥類学者チームによって在りし日のペラゴルニス・サンデルシ実物大復元模型が制作されたそうで、展覧会の顔を担ってます。何故かぬいぐるみもある。シマエナガの方が人気に決まってるだろ頭上から巨大怪鳥に狙われるのってあまりない経験ですね…。圧がすごい。会場でも「歯並びコワイ!」「でかすぎ!」と大人気でした。

開翼すると7メートルもある。こんなのが空飛んでたら怖くて外出できない。
会場の雰囲気フォト:鳥類目別標本コーナー
ここからは、鳥綱に含まれる44の目に沿って標本を眺めていくコーナー。科博の誇る美標本、レア標本が目白押しです。



しかし実際には一夫多妻で子育てシーズンに別れるらしい。おいこらww

主にチベットに生息


これはおなじみ白色レグホン。足元に渦巻く長毛はお隣さんの。

自然状態でどうやって生きているのか謎

ポージングを工夫しないので、ちょっとアレな気分になる出来栄え。



緑豊かな皇居は野生動物の宝庫だったりする。



この頭飾り、天然ものなんですぜ
地味に残念だったポイント
その1:全体として楽しい展覧会でしたが、展示されている剥製の中にはしっかりホコリが積もってるものがあって心配になりました。保存とか大丈夫なのかしら…? まあ、貴重そうな標本はちゃんとガラスケース入りではありましたが。
その2:帰りに購入した図録は情報量たっぷりで大満足。…なのですが! 会場内で面白詳しい鳥トリビアたっぷりの「鳥のひみつ」を楽しく解説してくれたぬまがさワタリ氏の漫画が収録されてない!
「インドガン・マーヴェリック」とか「紫キジ部作、天皇の息子である光源キジの物語・光るキジへ」とか 怒られそう ギリギリのネタで観客を楽しませてくれたので、収録なしなのは残念でした。次回はぜひ入れてほしいところ。際どすぎてムリかも
まとめ
もう鳥と人しか見えない。
バードウォッチングとは別の軸から知られざる鳥ワールドを楽しむ骨太の企画展示です。東京展は終わりましたが、名古屋では絶賛開催中ですので、中部地方に住んでる or 行かれた方は覗いてみてはいかがでしょう?
