【創作大賞2025】ROOK⑤【エンタメ原作部門】
(ミコゼ視点)
「入江少佐殿、お身体の方は――お休みにならなくて大丈夫なのですか?」
「不甲斐ないとこ見せたな。銀次に解毒してもろたからもうなんともないで」
「……差し支えなければ、どういった毒だったのですか?」
「強制的に魔力を放出させた上に、産生も止めよるもんらしい」
「なるほど……菫外蜻蛉が隠しながら魔力を集め、紋羽織が入江少佐の魔力を食って召喚陣を起動したと」
「キンガイ?モンパオリ?」
「ステルス能力のある蜻蛉と、羽に刻まれた紋様を繋ぎ合わせて召喚陣を作る蛾です」
「ヒュッ……コホン、分かった。わかったから仕舞ってくれ」
「ところでなんでミコゼ少尉はそのトンボに気づけたんや?俺はこいつに刺されても気づかんかったのに」
「私は鳥ですので。秋津に住まう友人が教えてくれたのです」
「鳥……?」
「幸いにも、菫外蜻蛉のステルス能力は鳥の目には効果がないということです。私も過剰憑依すれば目視可能となります」
「……なるほど。ミコゼ少尉の獲得は我が国にとって幸運だった」
「帝国はその経験がありますれば、対応できたまでです。当時は皇国からの攻撃かと思っていましたが、よくよく考えれば『召喚術』はエルマーニュ共和国のお家芸でした」
「帝国でも?せやけどエルマーニュはアラドに対して――」
「はい、その通りです。元気なモグラがいらっしゃるようで」
「ハッハッハ……はあ、それがそこら中にいるかと思うとサブイボがたつな。はよ掃討せなあかん」
「はい少佐。白狐分隊による速やかな掃討が必要かと」
「具体的には?目視できるのがミコゼ少尉だけやと絨毯爆撃になるで」
「黒鉄中尉の探知術式をリンクさせることで精密射撃を――入江少佐を筆頭に、確か八社宮少尉らも光学系の術式を使用できたかと。あとは新島軍曹が範囲攻撃可能なようですね」
「……簡単に言いよる。俺はともかく双子がクソガキなん見てそれ言うてんのか?」
「人には誰しもクソガキであった瞬間があるものです。簡単な仕事を積んで役割を認識する、良い機会では?」
「一理あるけどもやな……わかった。閣下に許可を貰ってくる。偵察班は先に探知準備しといてくれ」
「承知しました」
***
「黒鉄中尉」
「はい」
「白狐分隊による害虫駆除作戦に備えるぞ」
「さっそく小官の出番ですね」
「今回自分はやれること無さそうです」
「そうなることを願いたいな不知火少尉」
「と、言いますと?」
「単純にこのサイズのトンボが体当たりしてきたらそこそこ痛いだろう。見ろこの発達した顎を――噛みつかれたら簡単に皮膚食い破られるぞ」
「うひぃっ」
「で、ででかっ!?」
「さて新島軍曹、閣下の許可次第だが貴官は花形だぞ」
「えっ!?自分が、ですか?」
「黒鉄中尉の探知をリンクし、範囲掃討を担ってもらう……予定だ」
「やったな虎徹、頑張れよ」
「俺が導いたるがな」
「あっ、はい!大役、ありがとうございますっ!」
「ところで隊長殿はいかがされるので?」
「私は目視できるからなぁ。上に逃げてきたのを適当に狩るか、術式の使えない屋内掃討のどちらかだろうな――ほら」
「こ、ここにもおるんですか!?」
「――俺、探知したなくなってきた。こんなんがそこら中にウゴウゴしとるんやろ?嫌やぁ、見たないぃ」
「見える方がマシなのでは?いると分かりながら感知できない方が私は嫌だがね」
「俺も隊長殿に同意です。繋さん、俺ともリンクしてくださいね。羽音もさせんとこんなんが近くにおるかもしれんなんて気が気じゃない」
「せやな」
***
『ミコゼ少尉、応答せよ』
「こちらミコゼ少尉。入江少佐殿、許可は得られましたか」
『掃討戦を開始する。俺が室内、屋外地上部を伊予と宵、虎徹は対空や』
「承知しました。黒鉄中尉に探知を開始させます」
『ミコゼ少尉、貴官は制空権を担ってもらう』
「……召喚主探しですか。これは私が一番大役ですな」
『出てくるとは限らんし、気楽にな』
「ありがたいことです。私が召喚主なら見つかるヘマするくらいなら切腹します」
『皆が皆、ミコゼ少尉のように出来上がった軍人とちゃうで。同じルークや。追い詰められれば隙も見せるやろ』
「最善を尽くします」
「聞いてたな?掃討作戦を開始する。不知火少尉は黒鉄中尉を護衛。目が潰されれば作戦は頓挫することに留意せよ」
「はっ、はい!」
「黒鉄中尉、頼んだぞ。万が一敵が目潰しに切り替えた場合は速やかに離脱せよ。合流を優先し立て直す」
「ええんですか?そしたら皆見えんくなりますよ」
「無線を密に。探知を切るタイミングが分かればいくらでもシールド張って籠城できるだろ――白狐分隊なら可能なはずだ」
「……簡単に言いますね。助かりますけど」
「新島軍曹」
「は、はい!俺はどうすれば!?」
「まずは肩の力を抜け。深呼吸」
「は、はい」
「探知術式を接続リンクしろ」
「ふぅ、はい……ヒッ!なんやこれっ、こんなにおるんですか!?」
「さて貴官は対空を指定されている。高所からの範囲攻撃がメインだ。屋内、地上部から追い込まれて上空に逃げる個体が主目的である。行くぞ」
「行くぞって、えっ!?わっーーヒィィ!!」
「……有翼で人一人抱えて飛べるもんなんですね」
「ありえん。普通は自分一人飛ばすのすらしんどいはずやで」
「頭が理解を拒みます。俺らとおんなしルークで、せやけど禄に術式組めんほどの魔力しかない。そんで今の指示や」
「ぐうの音も出ぇへんな」
***
(ミコゼ視点)
作戦行動中の白狐隊を高みの見物
召喚主探しと言っても、上空から見える範囲にノコノコト出てくるものだろうか?ここまで隠密に、着実に手駒を増やしてきたエルマーニュのルーク。なかなかの忍耐力だ。
『食べ納め食べ納め』
『虫はもう飽きたわ。今は瑞々しい果実が食べたい気分なのに』
『飢えるよかマシってね』
念のため近隣の友人達に声をかけて、基地内全域をカバーする。
食うに困らなかった日々が今日で終わるはずなのだ。
最後の立食会に招待しないわけにはいかない。
『ムカデ!ムカデ!味変きた!』
『どこどこ?』
突如カラス達が嬉しそうな声を上げ始めた。
百足……整備の施された基地内に百足が好んで生息するか?
こいつも召喚獣かーー
「新島軍曹、聞こえるか!ポイント203に範囲攻撃」
『えっ、ポイント203――で、できません!み、味方がっ、友軍がいます!』
「そんなところに友軍はいない。やれ!」
『しかしっ!確かにうちのーー』
「チッ」
――見つけた。
そう見ていいだろう。そしてこの無線が傍受されている可能性も浮上した。
トンボの大群が一斉に私に向けて飛来する。
組織だった阻止行動は私を見ていることに他ならない。
『なんや急に引いていきよった……どないなっとる繋』
『周辺のトンボが一箇所に――上空に上がっていく?……ハッ、ミコゼ隊長!』
無線からも様子が透けて見える。私に居所がバレたことに気づいて逃げるのに必死か。まあ当然、潜伏するなら皇国ルークになりすますだろう。新兵の新島に撃てないのも仕方がない、か。
――そのせいでシールド張れない私はこの大群に突っ込まなきゃなんねぇんだがな。
火属性の術式弾で気休め程度の間引きをしながら降下。それでも落とし漏れたのが掠っていく。
「なんでっ止まんないのっ!?なんなのっこいつ!早く早く早く!!開いてぇ!」
「ハッハッハ!飛んで火に入る夏の虫ーーってなぁ!!」
当然向こうはシールドで防衛してくるのであらん限りの精神的揺さぶり、という名のハッタリとともに一点突破の構えで急降下する。
――相手は子供だ。
本来なら簡単に防ぐんだろうが敵地にたった一人、見つかってしまった焦燥感は硬度形成能を大幅に削いでいた。
パキンと割れるシールド術式の破片を尻目に、召喚主の少女を回し蹴りで吹き飛ばす。
――着地と同時に何か踏んだな。
「投降しろ。皇国は子供にお優しい」
「がはっ――だれがぁ……《周れ廻れ数珠繋ぎ。今こそ開け、百足門!》」
「なっ――クソッ」
踏んだのは百足だった。
皇国の理念に配慮したのが間違いだった。優秀なヒーラーがいるのだ。迷わず流血を促すべきだった!
共和国のルークから這い出た無数の百足。
それこそ数珠繋ぎのように連なりあって円形のゲートを形作る。
少女の詠唱と共に銃撃を開始したが、残りのトンボに阻まれて有効打足り得ない。
頭から倒れゲートに飲み込まれていく少女に私は届かない――魔力があれば、術式が組めれば、あるいは捕縛できたのか。いや、それは言い訳に過ぎない。
少女のつま先が異界の門へ飲み込まれるに続きトンボもあとに続く。
ゲートを形成する百足はぐるぐると回りながらその円を縮め、端から門を潜っていく。
――やられた。
せめても嫌がらせで最後に残った百足を手榴弾で爆破させることしかできない。
『――応答せよ!ミコゼ少尉っ、聞こえるか!?』
「こちらミコゼ少尉です。敵、無線傍受の可能性を認めたため封鎖しておりました。大変申し訳ありません閣下」
『敵やと!?見つけたんか』
「……逃しました。これよりご報告に参ります」
『そうか……気にせんでええで。うちの誰にもできんかってんからな。むしろ誇るべきや』
何が「誇るべきや」。こんな失態――これはむしろ高度な嫌味か?
五体満足を狙ったがために失敗してるんだぞ。こんな失態あってたまるか。
(羽張視点)
ミコゼ少尉ならやってくれると信じとった。やはりある程度放し飼いにしとる方が想定以上の戦果を持ち帰ってくる。
こうなるとはよミコゼ少尉に分隊を持たせて白狐とハーピーの2分隊体制を取りたいところや。なんとか彼女の部下を引き抜いていきたい。
「羽張閣下、遅参申し訳ありません。ミコゼ少尉入室します」
「おう、ミコゼ少尉ようやった――なっ、何してんねん!真白っ!はよヒーリング!」
「はいっ!不知火はどうしてん。なんで治してこんかった!?」
「か、かすり傷ですので、そんな大袈裟な――私如きに」
ゾッとした。
全身の至るところから出血しとる状態で、せやけどなんともないといった風にそこにいる。
術式を使えないとは、こういうことか。
一つ一つの傷は小さなかすり傷でも、あのトンボの大群を突っ切ったのだ――そして所々に焦げたような跡すらある。
「何が如きや!お前は軍人である前に女の子やぞ!」
「……小官は任務を失敗した身です。治療を受ける権利はありません。この度は敵を取り逃がしてしまい、大変申し訳ありませんでした。何なりと処罰願います」
「失敗……処罰やと?」
傷だらけの頬を見るのが耐えられなくて、跡が残らんか心配で。
それを表に出した瞬間、凄まじいプレッシャーを感じた。生きた心地のしない重苦しい空気、いわゆる殺気というものだろう。
目だけが、あのラプターイエローが雄弁に語る――「ふざけるな」と。
「皇国の機密が漏洩しました。また入江少佐が倒れるほど魔力を食われたのです。その魔力は保管され、次の召喚に充てられることでしょう。秋津から追い出せても、他所で同じことをするだけです。その時には同じ手は通用しない」
「せやけど――」
ヒーリング術式を展開する真白の手をミコゼ少尉はやんわりと払う。
すでに出血は止まりつつあるが、十全ではない。しかしミコゼ少尉の気迫が真白を制止させる。
「生きて取り逃がすとは、そういうことです。私がしたことは敵に塩を贈ったことに近しい……油断しました。実力に見合わぬ最善を取ろうとした結果、最悪を招きました。我が身で償えるとは思いませんが、如何様な処分も受ける所存です」
淡々と述べられる指摘に身体が冷える。
確かにそうだ。ミコゼ少尉の認識は確かに皇国でも一致する。
ただ子供が、少年兵が成し遂げた戦果に対する評価には相応しくないと、俺はそう言いたいのだ。
「少尉、ミコゼ少尉よ。貴官一人が背負うもんやない。秋津方面軍は貴官への勲章を申請するつもりや」
「申し訳ありません。小官には何を仰られているのか理解できません」
「共和国のルークは、既に転々と渡り歩いてきた後だ。入江少佐に起きた症状は各方面軍でも確認しとる……今まで散々抜かれ放題だったのをミコゼ少尉は食い止めた。その功績はデカイ」
「……」
納得していない。諸手を上げて褒めてあげたいのに、ミコゼ少尉がそれを拒む。顔にはありありと悔しさが滲んでいる。ここまで思いつめるとは……いや、だからこそ『ハヤブサ』なのだろう。
「ミコゼ少尉、俺は無線聞いとったから知っとる。新島軍曹が動かんかったせいでその怪我やろ。俺もすぐに加勢しに行くべきやった」
「新島軍曹についての全責任は私にあります。彼が新兵であることを考慮しても、彼が従うに足る信用も信頼も私は持ち得なかった。私の落ち度です。ここが前線でなかったことだけが幸いでした」
「あー、やめや。やめやめ。害虫駆除作戦は大成功しました。発生源を排除できた上に今後の課題も見えました。そんでええやろ」
真白のフォローも打ち返して手詰まりとなったところで終止符を打つ。
「真白、ちゃんと治しきりや。これは命令や」
「承知しております」
***
(黒鉄視点)
掃討作戦の途中から通信が途絶えたミコゼ隊長は、その大役に違わぬ努めを上げていた。
うちに潜り込んどった件の召喚主を見つけて追い詰めたという。あと一歩のところを逃したというが、探知役の俺が見つけられなかった奴を見つけてんねやから何も言えへん。
「黒鉄中尉」
「はい」
底冷えするような声が俺を呼ぶ。
真白とは違うプレッシャーに冷や汗が止まらない。
「郷に入れば郷に従えとはよく言ったものだが、皇国では命令不服従に対する刑罰はないのか?我が国では銃殺刑だが」
「わ、我が国でも同等と認識しております」
「そうか」
感情の削がれた顔で淡々と紡がれる言葉。その中でラプターイエローの瞳だけが爛々と輝く。
人間ではないのかもしれない。そんなありえない考えが頭に浮かぶほど、ミコゼ少尉の纏う空気は俺らと相容れん。
用は済んだ。そう言うように俺に向いていた視線が切れ、虎徹に向かった。
それと同時にミコゼの手には銃が握られている。
「ヒッ」
「新島軍曹、私は慈悲深い……申し開きがあるなら聞こう」
なんで簡単に銃口を味方に向けられる?
なにが慈悲深い!
虎徹に向けられた銃口は寸分違わず心臓を指している。俺は虎徹を庇ってやりたいのになんにも動けない。足の裏は根っこが生えたように地面に縫い付けられてるし、喉が締め付けられて声が出ない。
「た、隊長殿……ですが自分にはっ、彼女が敵とはどうしても思えず……」
震える声で虎徹は弁明する。
「ほう?黒鉄中尉、私は見落としていただろうか……彼は貴き血筋だったか?私は不敬罪で斬首だろうか」
「えっ、は?い、いいえ隊長殿。新島軍曹は一般家庭より加護を賜った志願兵です」
一瞬何を聞かれたのか分からなかった。
何故今の虎徹の返答から虎徹の出自に関する質問が俺に飛んでくるん?
どこからどう見ても庶民の出やろ。その問はいったい何を裏に含んでんねん。
「だろうな。貴族の出自であればせめて身なりには気をつけるだろう……今回は貴国の道徳心の高さゆえ、軍人としての教育を施されなかった、そう判断しよう」
「は、はあ」
虎徹に向く銃口は未だ降ろされない。
「だが私の直下に入るのであればそれは許さない。皇国でのルーク教育がどうであれ、羽張閣下は帝国ルーク、ひいては我がハーピー分隊と同等の教育をお求めだ」
「は、はい」
俺が求め、そして羽張閣下がそう要請した。
ミコゼは確認した上でこれを強行している。ハーピー分隊と同等の教育というのは銃口を突きつけられながらされるものなのか?
そうでもしなければあれには成れないと?
「では新島軍曹、私が言わんとすることがわかったか?」
「はっ、はい。命令に従わないことは軍人としてあってはならない大罪である、と言うことでしょうか」
ようやく銃口が下げられた。
虎徹はホッとしたような顔で隊長殿の問に答える。
「そうだ。そしてこともあろうか、貴様は自分の感情で仕事を放棄した……」
「ほ、放棄などっ、そんなつもりは――」
「何が違う?私の命令に合理性を認めず、必要が無いと判断したのだろう?やりたくないから放り投げた……そう捉えられても仕方ない」
「っ!申し訳、ありません……」
無線は俺も聞いとった。
此度の召喚獣による襲撃を操ったであろう共和国の召喚主。それがうちの魔導衛生兵に紛れ込んどるなんて普通は思いつかん。そんで顔見知りともなれば躊躇もする。
虎徹が人に向けて術式を行使できなかったことは、虎徹が新兵であることも踏まえて仕方のないことと既に上層部では片がついている。
しかし帝国では許されない失態なのだろう。
「今回は、たまたま命令無視による損害が少なかった。よって不問とする」
「は、はい!ありがとうござ――」
「――しかし次があっては困るからな」
――パン!
ミコゼが虎徹から視線をそらし、これで叱責は終わった――そう思った瞬間に響く一発の銃声。
予備動作のない極小の動き。
虎徹が蹲って初めて俺は事態を把握する。
「ガッ、アアァ!」
「なっ!?隊長殿っなにを!?」
「虎徹!!」
パンパン!
2連の銃声
左大腿を撃たれて蹲る虎徹に俺と銀次は咄嗟に駆寄ろうとした。
しかし静止するように俺と銀次の足元に一発ずつ銃弾が撃ち込まれる。
「動くな。黒鉄中尉、不知火少尉、貴官らも命令違反幇助の疑いがあることをゆめ忘れるな」
「なっ!?」
――そうなるか。
視えている俺が命令の有用性について虎徹を後押しすべきだった。そういうことなのかもしれない。
「……新島軍曹、我が身に風穴が開く気分はどうだ?」
「ぐっ……うぅっ、はぁ……はぁ」
「何があろうとも、敗戦国の一軍人が戦勝国に対してまさか撃ちはしないだろう……そう期待したのか?銃口を向けられてなんと呑気なことだ」
「うっ、ぐぅっ……」
「真正面から銃口を向けられてなお防ぐことも敵わぬ……優先最下位である私と違い、弾丸など屁でもない素晴らしいシールドを展開できるにも関わらずだ」
蹲る虎徹を見下ろすミコゼの無感情さが逆に恐怖をそそる。
これが教育なのは分かる。攻撃意志を真正面に確認してもシールドを張れないのは確かにありえない。普通は意識の外からの攻撃を防がなあかん。
その点虎徹はシールド術式を展開する気の欠片もなかった。形成が間に合わなかったのではない。気づいたら撃たれていた――それは気づいたら死んでいることに他ならない。
「ルークとして最低限の責務も果たせぬ雑兵が、敵に情けをかけるなど言語道断である。貴様のようなアホの偽善が古参を殺すのだ……背中から撃たれてな」
「っ!」
「私は構わん。どうせ余命幾ばくもない……だが、貴様の甘さが仲間を殺すことになるのだとゆめ忘れるな。人を生かすのは殺すことより難しい……不知火少尉」
「は、はい!」
「ヒーリングしてやれ。私は自室に戻る。解散」
「虎徹っ、大丈夫か!?」
「は、い……」
「なんやねんっ、あない簡単に撃つやつがおるか!?」
ミコゼがその場を離れるや虎徹に駆け寄った銀次がヒーリングを開始する。
銀次はミコゼのやり方に納得しないようだ。
それもそうか。
俺はルークである以前に忍びの家系に生まれとるから理解が追い付くだけの話であって、一般の生まれで真白や羽張閣下に守られてきた銀次達に今すぐ受け入れろ言うのは酷な話や。
せやけどミコゼの言っていることは至極全うで、やり方はどうであれ最短で最効率の意識改革を達成したといって過言でない。
本物の戦場へ出る前にこの機会を得られたことは非常に幸運だったろう。
「銀次、虎徹、打診するなら早めにせえ。俺らの班は出撃が確定しとる」
「だ、打診、ですか?」
「辞めるなら早い方がええ。お互いのためにや」
「繋さんっ、なんで納得しとるんですか!?味方を簡単に撃つような人に誰が付いていくと思うん!俺らは真白さんの――」
――頭が二つあるのはよくないな。
現状白狐分隊内の独立偵察班で、便宜上ミコゼを隊長と呼称しているが白狐分隊としての隊長は真白であることに変わりない。早くハーピーにしてもうた方が指揮系統のみだれがなくなるやろけど、さて誰をつけるのかという問題か。
「人を生かすのは難しい。その通りやと俺も思う……真白の――皇国のやり方で出撃したら俺らは生き残れん。隊長殿も俺らを生かすことに必死なんやろ」
「生かすって……」
「隊長殿は我が国の価値観をよく勉強なされている。せやけど銀次、お前は帝国の価値観を知っとるんか?優先最下位がどういう扱いを受けるのか、知っといた方がええ。俺らにとってのネームドも帝国にとっては違うんやから」
優先最下位にできることはルークならできて当たり前。ミコゼのその言葉が頭をよぎる。視えてた俺は同じ成果を出せて当たり前。そんなことホンマにできるんか。
