旅のエッセイ お尻中心の生活

人はそれぞれ何かを核として、生活をしている。子ども中心の生活、学業優先の生活、仕事優先の生活。部活やサークル活動に力を入れ、体を動かす人もいれば、遊びを楽しむだけの時期や、恋人中心の生活を送る人もいて、人の数ほどそれぞれの生活スタイルがあるはずだ。
で、お尻中心の生活である。
私は過去二度に渡り、お尻中心の生活を過ごしたことがある。お尻中心の生活とは、そのままの意味で、尻のことだけを考えて暮らす生活スタイルのことである。

一度目のお尻中心の生活は、一昨年の年末のことだった。当時、ありがたいことにたくさんの仕事をいただき、多忙を極めていた。1週間の間に北海道、岐阜、大阪と出張が入り、ほとんど家に帰れない日々が続いていた。旅の仕事をしているので、出張は他の仕事より当然多いわけだが、それでもこのスケジュールは特別だ。寝る間も惜しんでというよりも、トイレに行く間も惜しんでという日々だった。
一ヶ月近くそんなことが続くと、当然疲れも溜まってくる。そんなある時、尻に痛みが走った。触ってみるとデキモノができていた。皮膚が弱い私は、未だにニキビや吹き出物が出ることがしばしばあったので、さほど気にせずにいた。しかし3日も経つと、その腫れはどんどん大きくなり、一週間を超えた時、激痛が走った。それはデキモノというよりも、バケモノになっていた。
大きくなり続けるバケモノ
しかし出張のスケジュールは変えられない。トイレに行く間もないくらいのスケジュールでは、当然病院にかかることもできない。私の尻のバケモノは、ちょうど尻と尻の間に鎮座し、座ると激痛が走る。歩いていても両尻に擦れて当たるので、もうどうしようもならない。
いちばん良い体勢は、斜めに寝るスタイルだ。斜めとは横向きで寝る形からさらに15°ほど体を起こし背中にクッションを入れ、肘で支えること。そうすると、体重がバケモノにかからず痛みを多少減らすことができた。


極狭のホテルは超快適空間
北海道のホテルは自分で手配したので、なるべく狭い部屋にした。通常、出張のホテルを自分で手配するときは、同じ価格ならなるべく広い、または大浴場があるなど、出張でもいかに快適に過ごせることを重視するが、今回の最良の選択肢は、部屋がなるべく狭いことだ。お尻中心の生活にとって、一番大切なことは、歩かず座らず、手を伸ばせば何もかもその範囲で済ませられることだ。
ホテルは実に快適だった。部屋は8平米と狭く、ベッドに斜めに横になると、全てが手に届いた。昼間撮影して夜部屋に戻り、パソコンにデータを入れて画像処理するときには布団を丸めて台を作り、斜めに寝ながら作業をした。備え付けのテーブルにも手が届き、トイレのドアにも手がかかる。部屋には電子レンジもあったので、斜めに寝ながら弁当を温め、冷蔵庫の出し入れも可能だ。なんという素晴らしい部屋だろう。私のしたいことが全て両手の範囲でできるコンパクトなサイズ感。ここで始まる4日間に希望が見えた。

尻だけのことを考えて生活する
お尻中心の生活は、生活の中心が尻なので、尻のことだけを考えて生活する。レストランはなるべく空いているところを選び、一人でも4人がけのテーブル席に座わる。なぜなら椅子を二脚使いたいからだ。普通に座ると痛いので、椅子と椅子を少し離してその間に座り、尻をフリーにすることが重要だ。
座る時にいちばん良いのがあぐら。これは適度に両足の付け根が浮き、尻にかかる負担が減る。そしてさらに前傾姿勢を保つことで、尻が少し浮くのだ。まとめるとお尻中心の生活のレストランの流儀は、ふたつの椅子の真ん中であぐらをかき、前傾姿勢でいることだ。側からみるとどうにもおかしな体勢だが、こちとらお尻中心の生活なので、人様にどんな風に見られようとも全く問題はない。


ようやく時間を見つけて病院へ
なんとか北海道の出張が終わり、わずかな時間を見つけて病院に行った。場所が場所だけに女医の先生がいるところを調べた。結局診断は、尻の細かい傷に細菌が入りそれが大きくなって通常なら免疫で治せることも、激務で免疫が下がり菌に対抗できなかったために大きくなったという診断だった。「抗生物質で治りますので、明日から劇的に良くなり、三日で完治しますよ。」と先生。せんせー! 涙が出るほど安心した。先生の言う通り、翌日からバケモノは急激に小さくなり、3日目からは通常の生活に戻ることができた。今後は忙しい時にも気をつけて、二度とお尻中心の生活にならないようにしようと誓った。
しかし、突然またお尻中心の生活はやってきた。
お尻中心の生活パート2へ続く
