ラリーの幻想を剥ぎ取る ―― 脳内イメージの縮小を防ぐ「ステイ」の定義とリカバリー
あなたは普段、コート上でのロングラリーの練習は好きでしょうか。 「ボールが長く続く練習」や「お互いに気持ちよく打ち合う練習」が好きだというプレイヤーは非常に多いですし、多くのスクールや部活動において、ストロークのラリー練習こそが練習のメインディッシュであると信じられている節があります。 しかし、これほどラリー練習が愛されている一方で、いざ本番の試合になった途端、途中でラリーを続けることを嫌がり、強引にエースを狙って自滅してしまうプレイヤーが後を絶たないのは、一体なぜなのでしょうか。
率直に言いましょう。選手としてのキャリアを積んできた人間ほど、実は心の中で「あの生ぬるいラリー練習が大っ嫌いだった」という経験を持っています。 なぜなら、「あんなお互いに気遣い合ったボールは、実際の試合中には1球たりとも飛んでこない」からです。
・お互いにベースラインの定位置にどっしりと立ち ・サービスライン付近の、処理しやすい程よく浅いバウンドで打ち合い ・ボールの順回転(スピン)もそこそこに ・お互いが次の球を「打ちやすいように」コントロールしてあげる
これはテニスではなく、ただの親睦を深める「キャッチボール」です。身体を温めるウォーミングアップであればそれで十分ですが、強くなるための競技練習として考えた場合、ただ繋げるだけのラリーはすればするほど「試合が下手になる」という劇薬に変わります。
「試合で直面するリアルな球質を想定した打ち合いであれば意味はある。しかし、単に回数を続けるだけのラリーは、楽しいという感情を満たす以外にやる必要がない」
これが勝負のロジックです。もし、 スプリットステップ ・下半身にエネルギーを溜めるローディング ・体幹から手元へ伝える運動連鎖 ・正確なコンタクト ・打った後のポジション復帰(リカバリー) といった各パーツの動作確認や技術の微調整を行いたいのであれば、距離の短いミニラリーや、コーチからの正確な「球出し練習」を活用する方が、脳にかかるノイズが少なく遥かに効率的です。
もちろん、世の中には「テニスを純粋に楽しむこと」が最大の目的であり、ラリーが続く爽快感を求めてコートに足を運ぶ方がたくさんいます。商業的なレッスンにおいてはそのニーズに応えることが正解ですが、もしあなたの目的が「試合に勝つこと」にあるならば、ただ繋げるだけのラリー練習は、キャッチボール以上の意味を持たないと冷徹に割り切るべきです。
目的のないラリー練習がもたらす最大の弊害は、次の3点に集約されます。
・お互いに浅いボールばかりを打ち合うため、脳内のイメージコートが勝手に狭くなる。
・相手が打ちにくい嫌なボールを打ってこないため、予期せぬ変化への「対応力」が一切育たない。
・そもそも、自分がいま「何のために」このラリーを打っているのかという目的意識が完全に失われる。
かつて育成の現場で、お互いに気持ちよく打つことだけを強要する指導者に対し、「なぜトップスピンの効いた、深く、高く跳ねる生きたボールを打って、相手から嫌な顔をされなければならないのか」と疑問を抱いたことがあります。お互いの打球感を損なわないための忖度ラリーをいくら繰り返したところで、試合で勝てる実力が身につくはずがありません。
では、試合中に私たちが打つべき本当のラリーボールとは、一体どのような性質を持っているべきなのでしょうか。 それは、
・一発でリスクを冒して攻撃(エースを狙う)する場面ではない
・かといって、相手に甘いチャンスボールを与えるわけにはいかない
・自分から仕掛けはしないが、最悪でも相手から攻撃されない
・あわよくば、相手のエラーを誘うか、次に自分が攻撃できるような甘い球を引き出したい という状況で放たれるショットです。
私はこの、戦況を「最悪でも五分のまま停滞させる」ためのショットを、「ステイ」と呼んでいます。
具体的な球質は、以下の通りです。
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