「オフィスに戻れ」という号令が、プロフェッショナルの市場を再編しはじめている
コロナ禍以降、リモートワークは働き方の「標準」として定着するかに見えた。
しかし2025年に入り、グローバル大手企業が一斉にオフィス回帰(RTO)を命じる動きが鮮明になった。

JPモルガン・チェース、マッキンゼー、アマゾン、WPP——。
いずれも、ハイブリッドワークの柔軟性を謳っていた企業だ。
なぜ今、この動きが加速しているのか。
そしてコンサル・監査・税務のプロフェッショナルにとって、これは何を意味するのか。
単なる「働き場所」の問題で済まさないための視点を提供したいと思います。
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JPモルガンとマッキンゼーが示すRTO圧力の「質的差異」
今回のRTO波において、最も象徴的な事例がJPモルガン・チェースだ。
同社はロンドンだけで約1万4,000人の従業員を抱えるが、週5日フルタイム出社を全社方針として断行した。
社員から反対署名が上がり、物理的にオフィスに全員を収容できないデスク不足が生じるという混乱にも、CEOのジェイミー・ダイモン氏は揺るがなかった。
「若手銀行員はZoomの画面越しでは育たない。対面のアプレンティス・システムでこそ成長する」——これが彼の明快な論拠だった。
一方、マッキンゼーはより慎重なアプローチをとっている。

2024年秋、マイアミとボストンのシニアパートナーに対し出社強化の通知が出たが、公式発表は今なお行われていない。
同社が自ら実施した調査では「ハイブリッドワークが生産性向上と燃え尽き症候群の軽減をもたらす」という結果を示しており、方針の矛盾が内部で議論されているとも伝えられる。
この「断行型」と「模索型」の違いは、RTO圧力の背景にある経営課題の違いを映している。
金融機関は規制対応・監督責任・クライアント対応の即応性から、物理的な集合を不可欠とみなす傾向が強い。
コンサルティングファームは、プロジェクト単位のアサイン構造ゆえに、オフィスにいる必然性が業務の性格によって大きく異なる。
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プロフェッショナル市場における「評価軸のシフト」が起きている
このRTO波が業界にもたらす最大の影響は、人材評価基準の再構築だ。
JPモルガンのダイモンCEOが強調したのは、対面環境における「学習とメンタリング」の再評価だ。
これはファイナンスだけの話ではない。
コンサルや監査の現場でも、クライアントのオフィスに出向き、チームと同じ空間で呼吸しながら仕事をする「フィジカルなプレゼンス」が、ふたたびプロとしての基準として浮上しつつある。
リモートワーク全盛期に培われた「非同期コミュニケーション能力」や「セルフマネジメント力」は引き続き重要だ。
しかし今後は、そこに「対面でのプレゼンス」と「場を読んだ協働力」が加わることで、プロフェッショナルの総合評価が測られる時代に移行していく可能性が高い。

加えて注目したいのが、評価と昇進へのリンクだ。
デルやHSBCが出社日数を昇給・昇格の審査項目に組み込んでいるように、「出社できる人材」が優位に立つ構造が整いつつある。
アウトカムより「プレゼンス」が評価される場面が、特に中堅以下の層で増える可能性を否定できない。
「どこで働くか」が、機会格差を生む新しい軸になる
リスクとコインの裏表として、RTO加速はプロフェッショナルに新たな機会を開く。
オフィス回帰への適応力そのものが差別化要因になる:大手金融・コンサルで「出社を厭わず、現場での関係構築に長けた人材」は、ふたたび希少価値を持ちはじめている。
地方・中規模ファームとの差異が拡大する:グローバル大手がRTOを強化するほど、フルリモートやハイブリットを維持する中規模ファームとの間で、働き方による人材の選別が進む。
マッキンゼーのようなファームが「公式発表なき圧力」をかけているということは、完全にRTOに振り切れない柔軟さを残しながらも、上位パートナーから順に出社慣行を浸透させていく「静かな標準化」が進んでいる可能性を示唆している。
この流れの中で、プロジェクト志向のアサインを主体とするコンサル・監査人材にとっての機会は、「クライアント常駐への積極性」にある。
フルリモートが常態化した数年間で、クライアント先に深く入り込む「埋め込み型」の関与が難しくなっていた。
RTOの波は、この現場密着型のプロフェッショナリズムを再び評価軸に引き戻す契機になる。
そこに自分の強みを接続できるかどうかが、今後の市場価値を左右する分岐点になりうる。
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オフィス回帰時代に求められる「プロとしての再定義」
今起きているのは、単なる「どこで働くか」の議論ではない。
JPモルガンのダイモン氏が示したように、大手機関が求めているのは「場を共にする覚悟のあるプロフェッショナル」だ。

マッキンゼーが自社のデータで認めているように、ハイブリッドにもメリットはある。
しかしその「ハイブリット」は、かつてのような「出社か在宅かを個人が選ぶ自由」ではなく、「組織が設計した枠組みの中で柔軟に動ける能力」へと再定義されはじめている。
コンサル・監査・税務のプロフェッショナルにとってこの変化が重要なのは、クライアントそのものもRTOへと移行しているからだ。
クライアントが週4〜5日出社するオフィス文化に戻れば、アドバイザーにも同等の「場への投入」が期待されるのは自然な流れだ。
「どこにいても仕事ができる」というスキルは維持しながら、「どこにでも出ていける」という機動力と、「場を活かした関係構築力」を同時に持つ人材——それが、次の5年で市場で評価されるプロの姿に近づいていく。
RTO圧力は、働き方の制約ではなく、自分のプロとしての輪郭を問い直す契機として捉えることが、今この局面での正しい問いかけかもしれない。
加えて、RTOが加速する中で見落とされがちな視点として「若手育成コストの可視化」がある。
JPモルガンのダイモン氏が若手の成長を対面環境の文脈で語ったように、マネジメント層にとってRTOは単なる出社要件ではなく、組織の再生産能力への投資でもある。
コンサル・監査ファームにおいても、スタッフからシニアへの成長速度がリモート期間中に鈍化したという声は少なくない。
この「育成の空白」を埋めることができる中堅プロフェッショナルは、次のサイクルで組織の中核を担う存在として、より大きな裁量と責任を与えられる可能性がある。
RTOの波は、中堅層が自らの価値を組織に再提示する絶好のタイミングでもある。
出社することで生まれる偶発的な対話、廊下での立ち話、クライアント先での即興の相談——こうした「非構造的なインタラクション」が生み出す価値は、数字には現れにくいが、信頼関係の構築と案件の深化に直結する。
リモートで見えにくくなっていたこの種の貢献が、オフィスという舞台が戻ることで再び評価される土台が整いつつある。
プロフェッショナルとして今問われているのは、「出社するかどうか」ではなく、「オフィスにいる時間をどれだけ戦略的に使えるか」だ。
その問いへの答えを持っている人材が、RTO時代の市場において一歩先を行くことになるだろう。
また、グローバル大手の動向は日本市場にも無縁ではない。
JPモルガンやマッキンゼーの日本法人においても、グローバル方針との整合性を求める圧力は着実に高まっていく。
外資系ファームや金融機関を軸にキャリアを積む人材にとって、本社の方針転換は遠い話ではなく、自分のパフォーマンス評価と直結する現実として向き合う必要がある。
RTO時代における市場価値とは、出社そのものに順応する能力ではなく、どんな環境でも高い成果を出せるという実績の厚みに宿る。
その実績を積み重ねる舞台が、再びオフィスという物理空間に広がっている。
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