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アンダルシア田舎を紅茶国田舎に持ち込む

28時間のてんやわんや旅から
落ち着きを取り戻した私は
慣れないセントラルヒーティングで
ぬくぬくとかゆかゆのうまいバランスを探している。


今回の訪問は
紅茶国田舎に触れることが目的だ。


滞在中、お天気が許す限り
一日一回は出かけるようにしている。

紅茶国田舎のある日。
空が高い。


通りには
犬のフンが落ちていない。

道を歩いていて
前からやってくる人がいる。
大抵の場合
どちらかが立ち止まって道をゆずる。
笑顔やお礼の一言を交換し
また歩きはじめる。

観光客をあまり見かけない。
地元の人が多いようだ。

アンダルシア田舎の発声に慣れているからだろうか。
あくまで非常に個人的でいて、そしてこの町に降り立ち数週間という
限られた時間の中でだが
この町のそれは例えば、
つま先立ちの左右屈伸運動
そんなイメージを
私に与える。

前からやってきたご婦人が言う。
車が多いから、一緒に道を渡ってくれないかしら。

すれ違う人々から
風に乗って
香水のにおいがふんわり漂う。

晴れた日は
嬉しそうに、そしてその存在感たっぷりに
花や木が太陽に向かってその手を伸ばす。
太陽にだけじゃなく、道路にも伸ばす。
それはもう、ええ
歩道に届きそうなほどに。

人間は半袖半ズボンになることもある。



アンティークショップの前を通りかかると
何やら気配を感じた。

窓越しに覗くと
ロバの絵があった。

額縁に入って
こちらを見ている。

気になりながらも
その日はお店に入らなかった。

翌日、そのロバと目が合った。

これはご挨拶だけでもしていかないと。

そう思ってお店に入ったが
98ポンドという金額に
ひっと息を吸った。

二日後、ロバはもういなかった。

ロバの写真は撮れなかったが
近隣の町で見かけた
昭和仲間。
ひどく興奮する。

週に少なくとも一度は
カフェで作業をすることにした。

まずは
水色のドアが印象的なカフェに入ってみた。

注文方法がわからない。

座っていればよいのだろうか。
それともレジに注文しにいくのだろうか。


アンダルシア田舎での生存術を使うことにした。

それはもう
いたってシンプルで


わからないことは聞く


このお店ではどうやって注文するのでしょう。
私、レジに行った方がよろしいんでしょうか。


あら、大抵はお店の人がやってきてくれると思うのだけど、今かなり混んでるからあなたが入ってきたことに気が付いていないかもしれないわ。しばらく待って、誰も来ない場合はレジに行って直接注文するのもありだし、面倒なら待っていたらいいわ。

隣のテーブルのお二人がにこやかに答える。

レジに行くと、今行くから待っていてねとお姉さん。
それを見ていたお隣のお二人が
よかった、来てくれるわね、と言ってほほ笑む。


紅茶をポットで頼むと
カフェオレを頼んだかしらと思うような大きなカップと
メロンサイズのティーポットがやってきた。
大きなティーカップを前に牛乳を一度にどのぐらい注ぐか悩む。
もたもたしていると、あっという間に紅茶は冷めてしまった。
その量の多さに、二杯目を飲むどころではない。

雰囲気も含めて味わう空間。
お店の窓から外を眺めるのも楽しい。

牛乳をお代わりするも
ちょうどよい塩梅になかなかならず。
お店の人もお客さんも親切だった。

その数日後
通りを歩いていると
ベーカリーから漏れてくる
なんともいえないよい匂いに体が吸い込まれた。

座る場所があるか聞くと
奥ならどこでも座っていいという。

大きなテーブルがひとつ空いていた。

こんなところに一人で座っていいのかしら。
いいに決まってるじゃない!、メニュー持ってくるわね、とお姉さん。

レジの前は、持ち帰り用のパンやパイなどを買いに来るお客さんで賑わう。

ポットの紅茶を注文すると、ちょうどよい大きさのティーポットとティーカップがやってきた。牛乳の量もいうことなし。

おいしいお茶に読書が進んだ。
そんなときはひとり言が増える。
ぶつぶつやっていたら1時間半経っていた。

途中、前のテーブルにやってきた3歳ぐらいの女の子が後ろを向いて座る。
視線の先に私をとらえたようだ。
彼女は朝ごはんを食べ終わるまで後ろ向きに座りこちらを見ていた。

彼女と入れ替わるように、犬と散歩中の男性がやってきた。
犬は私の足元でぴたっと止まる。
それを見たセニョーラが笑う。
子どもと動物は普段見慣れない形の生き物に敏感なんだろうか。
私が町を観察するように、町も私を観察しているのかもしれないなあ。

「さあ、ソーセージロールを食べようね!」

男性は犬にそう言って、お店を出た。

ソーセージロール、
犬が食べるんだろうか。彼が食べるんだろうか。

そんなことを考えながら歩いて帰る。

滞在中、おそらく何度も通うことになるだろうお店を見つけた日。


気取らない雰囲気が心地よい空間。
紅茶がおいしい。
目を合わせたかと思うとそらす、
それでいて声をかけてくれる店員さんがかわいい。


私はピーラーを探していた。

キッチンタイムを愛してやまない夫が
この半年、2回ほどしかまともに台所に立っていないという。

一人分作っても仕方ないですし
お昼は出ますから

それを聞いた次の日
私は野菜やら果物を買いに行った。

ピーラーはどこで買えますか!

腹というか全身から声と気持ちを響きわたらせるアンダルシア田舎からやってきた私の声は、ここではちょっと大きいようだ。

しかし、皆さん優しい。
レジのお姉さんのぎょっとした表情は
一瞬で緩んだ。

多分あそこのお店か、そうでなければちょっといったところにあるスーパーかしら!そうね、あそこがいいわ。えっとね、この道を渡って…。


こちらのシートは、魚料理にも使えますか。

この緑の野菜をはじめて見ました。どうやって食しますか!

これをオリーブオイルで食べようと思うんですけど、皆さんはいつもどうやって召し上がりますか。

肌ががさがさになってるんですが、これを使えば私の肌もつるつるになりますか!

ちなみにステロイドは入っていますか?そして、これとこれはどういう順番で使いますか。


はっきり言ってうるさい。

しかし、こうやって
聞かなくていいようなささいなことを
あえて聞いてみることにしている。

そんな風にして
この町のアイレを少しずつ味わっている。
ときにその勢いで
町の人をぎょっとさせながら。

晴れた日に。
日本を思う。
私の中での多分こっちが日本、
に向かって手を振る。



さて、当たり前なのかもしれないが
紅茶国はアンダルシア田舎より寒かった。

うすっぺらいマフラーしか持ってきていなかった私は
震えながら町のお店に入った。

店内をゆっくり歩いていると
壁のすぐそばにかけてあったピンク、青、黒、白などが入ったマフラーに呼ばれた。

手に取ってレジに向かう。

「かわいいわ」

「そうなんです。ただ、少し重いでしょうか」

私がそう言うと、お店の人は「かけてごらんなさいよ!実際に使ってみないとわからないから」と勧めてくれた。

首に巻いてみると
重いよりかわいいが勝った。

あまり暖かい服を持ってきてなかったものだから、この寒さに慌てて買いに来たこと、マフラーはあるけど見ての通りこんなに薄いから、もうちょっと厚手のものを買いたいことなどを話していると、後ろから声がした。

「あなた、ここはしょっちゅう天気が変わるわよ。そして、羽織るものは持っておくといいわよ」

私の後ろで順番を待っていたお客さんだった。


待たせていたことを詫び、マフラーを購入すべく店員さんに渡すと、
もうひとつ後ろから声がした。

「あなた、今買うなら、そのまま巻いていけばいいのよ。寒いんだからとらなくてもいいわ!」

別のお客さんだった。


紅茶国田舎にアンダルシア田舎の風が吹いた。

頬を緩めお店を出る私がいる。


この町は
花や木の
存在が大きい。


ピーラーを買った翌日、仕事帰りの夫が教えてくれた。
この間私が立ち寄ったお店に夫が行ったところ、あなたのパートナー、ピーラーがどこで買えるか聞きにきたのよ!、スウィートだわ、と言われたそうだ。

そうか。

私は、ピーラーを買いに行ったことが人の口から夫に知らされる町に来ているのだな。


ここでは、初めて会った人にべシートはしません。
しかし、あなたはあなたのまま過ごしてください。

そんな風に言うもんだから
私は野放しで
そしておそらく無意識的に
アンダルシア田舎と日本を紅茶国田舎に持ち込んでいる。

知らず知らずのうちに
日本はもちろんとして
アンダルシア田舎も私の行動や思考のベースに
入ってきていることに気が付いた今回の滞在。

そのうち私も
つま先立ちで左右に屈伸できるようになるかしら。

いよぉー!

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