夫のディズニーランド
日本にいた昨年夏、浦島太郎がすぎたため途中からnoteが止まっていた。
もう年が明けたが、少しずつ振り返っておこうと思う。
スペインから持ってきた食料と友人たちからの心のこもった野菜やお菓子に助けられた14日間の自主隔離期間終了後、念のため抗原検査を再度行ってからレンタカーで実家に向かった。
別棟に滞在し親の入院準備を手伝い、入院、手術、退院と無事に終わり、順調に回復したので私の食事当番役もそろそろ終わりでよいことになった。
病院の先生は、手術後に携帯から「あー、私です。今終わりましたー! はい、だいじょうぶー!」と明るい声で電話をくださった。
母のお墓参りもやっとできたのでほっとした。近所の人たちに改めて当時のお礼を言いに行ったら、窓越しに顔が見えたとたんわっと泣き出した人がいた。
突然のことにその心理的な距離感に驚いていると、その後次々にいろんな人から連絡が入った。
「今度からは私がお母さんせなあかんかなと思ってたんやけど、お布団ある? 足りないもんない?」
「野菜、玄関に置いとくから持っていき」
「子どものときこれ好きやったやろ? 懐かしい味やで」
「お父さんに言うといたから、唐草ちゃんに優しくするようにて。まあ無理やろうけど」
母の友人、親戚、近所の方たちから電話またはドア越しに言葉をかけてもらい、なんだここは、これじゃあアンダルシア田舎と同じじゃないかと思った。
子どもの頃確かに過ごした場所を歩きながら、近所の人たちとの触れ合いを通して、そうか、こういうもの全部含めて私にとっての故郷なのかと思いを改めた帰省であった。そういう意味では、私の故郷はまだあるようだ。
さて、前置きがまた長くなったが、いざ東京へ戻る。

夫は車の運転席で忙しかった。ちびまる子ちゃん好きであるから、出発して間もないころから清水、清水とうるさい。状況的にも時間的にもお金的にもどこにも寄らなかったが、清水のサービスエリアでお茶だけは買いたいと言う。免許を持っていないため今回ばかりは夫の思うままであるが、山を背景にお茶の入った包みを大事そうに抱える夫の写真を数枚撮ってあげた私は心が広い。
そんなことをしていると、数年前に青春18きっぷを使って友人と3人で行った清水のことが思い出される。夫はこのときも大はしゃぎで、ちびまる子ちゃんランドからなかなか出てこず、友人と私を疲れさせた。

東京で、彼は「私のディズニーランド」と愛してやまない場所を3回ほど訪問した。断っておくが、夫のディズニーランドとは千葉県にあるものではない(一度も行ったことがない)。ここでいうディズニーランドとは、一にかっぱ橋、二に巣鴨、三にアメ横のことである。
買い物嫌いの夫だが、ディズニーランドだけは別だ。そして、ディズニーランドに行くときは、必ず1人で向かう。ただでさえ決められない人であるが、一日かっぱ橋を歩いて同じ店に何度も入り、品物を眺め、ああでもないこうでもないとやるのが一番の楽しみなのだという。一日歩いて何も買わずに帰ってくることもある。情報収集ができたからそれはそれで満足なのだそうだ。その場で見て気に入ったものを財布と相談して瞬時に買うか買わないか決める私とは、一緒に行けないらしい。こちらからもお断りである。
だが、今回親の入院で車の運転から荷物運びや親の相手などいろいろサポートしてもらった私としては、ディズニーランドぐらいは行かせてやりたい。
しかし、滞在場所からディズニーランドその1まではかなり距離があった。そして、浦島太郎がすぎる私たちは、到着から1カ月経った後もなるべく電車に乗らない、密な場所に行かない、外食しない、というルールを自分たちに課していた。
どうするのかなと思っていると、夫は前日から食べ物と飲み物を準備し、まるで遠足前の小学生のように一式をベッド脇に置いて寝、翌日は私よりも早く起きて徒歩と自転車で目的地へ向かった。人はディズニーランドのためならなんだってできるのだ。
私は仕事をしていたのだが、外出中の途中経過として、メロンパン、サンドイッチ、おにぎり、お茶、水、アイスクリームの写真が送られてきた。ちゃんと食べていますよ、の報告らしかった。
昼過ぎには帰りますと言っていたが、実際に帰ってきたのは夕方6時であった。
それからは、夫が吟味に吟味を重ねた結果購入した品物についての話を延々と聞くという拷問のような恒例のイベントが私を待ち受けており、このトングとこっちのトングはどこがどう違うだとか、鍋の形がどうだとか、お皿を買おうと思ったけど決められなくて買えなかったとか、フライ返しをようやく買えたので満足だとか、ケーキの型は小さいのも買ったとか私にとっては割とどうでもいい話を聞きながら、自分まで一日ディズニーランドで過ごしたかのような体験をさせてもらった。聞いているだけでお腹いっぱいである。
そして、「じゃじゃーん!」の効果音とともにエコバッグの中から次々と出てくる調理器具を眺めながら、このためにお小遣いを貯めて待っていた夫は報われたようだが、一体これらをどうやって持って帰るんだろうと思う。結果的にスーツケースには入らなかったので、以前ご紹介したような写真のような形になった。
その後も、買い忘れたものがあると言ってかっぱ橋に2度出かけ、「ついでに」巣鴨とアメ横にも寄ってきた(自転車での移動距離は20キロぐらいである)と幸せそうな夫だった。マドリードで1ユーロしか使わなかった人も、ディズニーランドで同じことをするのは難しかったようだ。
という話を思い出したので書いておくことにした。
ディズニーランドよまた会う日まで。

さて、夫がかっぱ橋から帰ってきた夜、友人からLINEがきた。
「あのさ、すっごい嬉しそうなんだけど、これどのぐらい相手しとけばいいかな」
夫は私がちゃんと話を聞いていないので、私の友達にまで何を買ったかの紹介をLINEで始めてしまったようだった。
最近では友人からもこうやってめんどくさがられている。
