忘れることは悪じゃない AIとともに育てる新しい力
最近、覚えなくなったこと。それは老化ではなく、環境の変化によるものです。過去には、携帯電話の登場で電話番号を覚える必要がなくなり、PCの普及で漢字を思い出す機会が減りました。そしてここ一年で幅をきかせるようになったのが、やはりAIです。
例えばエクセルの関数。以前は自然にやりたいことがそのセルに打ち込めていましたが、今ではAIがある程度傾向を見てくれますし、「○○のセルを参照してこうして」と聞けば答えてくれます。プレゼン資料の作成も同じで、細かい操作をしなくても、ある程度の仕上がりのものが出せます。英語の翻訳も、テキストくらいなら翻訳アプリで何とかしていたのが、今では一発で日本語になります。そして、文章を書く場合も、構成や言葉選びの調整はAIに任せられます。調べ物も、どの言葉で検索するか迷う前に聞いた方が早く、知識そのものより「探すプロセス」を覚えておく必要性が減ってきました。
はたして、この「覚えなくなること」は本当に人間にとって悪なのでしょうか。冒頭で触れたように、私たちは過去にも多くのことを覚えなくなりました。携帯電話は電話帳の代わりになり、PCは辞書やノート、計算機の代わりになりました。
これらの登場によって、覚える必要がなくなった代わりに、情報をすぐに取り出す力や、効率的に調べて分析する能力といった新しいスキルとなり、それまでとは比べ物にならない生産性を手に入れることになったのです。
一方で、これらが登場したとき、多くの有識者が危機感を叫びました。電話番号を覚えられなくなる、漢字が書けなくなる、計算や表作業の力が落ちる、思考力や記憶力が奪われる、そんな声がメディアでも繰り返されましたが、実際にそういった一面はあったものの、私たちはそれを適応によって克服してきたのです。
この経験から考えると、AIによって覚える必要が減ったことも、同じように恐れる必要はないのかもしれません。覚えることをAIに任せることで生まれた余白を活かし、新しい能力や思考スキルを身につけることが、人間にとっての次の進化のチャンスとなります
エクセルやパワポで覚えておくと便利だった作業も、AIが肩代わりしてくれることで、覚えておく必要が減ってきています。そしてその分、私たちはより高度な思考や創造的な作業、判断に脳のリソースを回すことができます。覚えることが減ったのは決して「忘れること」ではなく、自由に使える脳の容量を作ることなのです。
一方で、創造や判断といった作業をこれまで業務であまり必要としてこなかった人にとっては、最初は少し苦痛に感じるかもしれません。
そして、相変わらずメディアがAIの普及に伴う弊害を声高に叫んでいることも事実です。
それでも、AIは余程のことがない限り、さらに生活に浸透します。
しかし、人間には慣れる力があります。過去が示すように、最初は戸惑いや不安があっても、私たちは新しい技術に挑戦し、適応していくことで、それを活かすスキルを身につけていくのです。
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