【寺尾謙のタネ】 ⑱|大学入学資格がない人に、情報の世界は開かれているか?
日々、さまざまな情報が流れていきます。 その中から1つだけ拾い上げて、少し立ち止まって考えてみる。
1つのURLから、考える。 ネット上で出会った記事やサイトを「タネ」にして、大学のこと、教育のこと、学びのこれからを、現場の目線で綴ります。
それが「寺尾謙のタネ」です。
■ 今回のタネ
https://tsushin.do-johodai.ac.jp/entrance/specialstudent/
北海道情報大学 通信教育部「特修生」
■ 何が気になったか
今回気になったのは、北海道情報大学の通信教育部が設けている「特修生」という制度です。
ページにはこう書かれています。
「大学入学資格を持たない方にも大学卒業の道が開けます」
大学に入学するには、原則として高等学校を卒業している必要があります。
しかし、高校を中退した人は、この資格を持っていません。日本で認可されていない海外の学校を修了した人も同様です。
「特修生」とは、そうした大学入学資格を持たない方が、北海道情報大学の通信教育部で1年以上在籍し、16単位以上を修得することで、正科生への入学資格を得られる制度です。 [tsushin.do...odai.ac.jp]
入学試験はありません。満18歳以上であれば出願できます。 [tsushin.do...odai.ac.jp]
この制度そのものは、北海道情報大学だけのものではありません。佛教大学、サイバー大学、八洲学園大学、放送大学など、複数の通信制大学が同様の制度を設けています。 [pchepa.org]
しかし、北海道情報大学の特修生制度が気になった理由は、
この大学が「情報」の大学であるという点です。
高校を卒業していない人に、「情報学」の世界への扉を開いている。
その組み合わせが、非常に重要だと思いました。
■ 考えたこと
1.「学歴の壁」の向こう側に何があるか
まず、「特修生」という制度の構造を確認しておきたいと思います。
特修生として入学すると、1年間で16単位以上を修得することが求められます。修業年限は1年間。申請により最長2年まで在籍できます。 [tsushin.do...odai.ac.jp]
受講できる科目を見ると、心理学、哲学、物理学の基礎、英語、法学、経済学入門、経営学への招待、情報リテラシー、基礎数学、コンピュータシステム、情報倫理など、教養教育科目と情報系の基礎科目が並んでいます。 [tsushin.do...odai.ac.jp]
16単位を修得すると、正科生Aとして1年次に入学する資格が得られます。入学金も25,000円に減額されます。 [tsushin.do...odai.ac.jp]
そして正科生Aとして入学すれば、卒業時には「学士(総合情報学)」の学位が授与されます。 [tsushin.do...odai.ac.jp]
つまり、高校を卒業していない人が、特修生→正科生Aというルートを経て、最終的に大学卒業資格を得ることができる。
「中卒」だった学歴が、「大学卒業」に変わる。 [tsushin.do...odai.ac.jp]
この変化の大きさは、想像を超えるものがあります。
2.なぜ「情報」の大学であることが重要なのか
ここで、北海道情報大学という大学の特性に注目したいと思います。
北海道情報大学の通信教育部は、経営情報学部に2つの学科を持っています。経営情報学科(2026年度より名称変更)とシステム情報学科です。 [up-j.shigaku.go.jp]
必修科目がありません。学びたい科目だけを選んで卒業できます。 [online-uni...y-labo.com]
インターネットメディア授業の受講により、スクーリングなしで卒業が可能です。 [tsushin.do...odai.ac.jp]
さらに、教職課程を履修すれば、高等学校教諭1種免許状(情報・商業・数学)、中学校教諭1種免許状(数学)の取得も目指せます。 [up-j.shigaku.go.jp]
つまり、高校を中退した人が、特修生として入学し、正科生になり、情報学を学び、学士号を取得し、さらに高校の「情報」の教員免許まで取得できる可能性がある。
「学歴の壁」の向こう側に、「情報」という、今もっとも社会が必要としている分野の学びがある。
この接続が、非常に重要だと思います。
DXの時代、情報リテラシーは社会のインフラです。しかし、高校を卒業していないという理由だけで、情報学の学位への道が閉ざされてしまうとしたら、それは社会にとっても大きな損失です。
北海道情報大学の特修生制度は、その道を開いている。
3.全国の専門学校で学べる「正科生B」
北海道情報大学の通信教育部には、もう一つユニークな仕組みがあります。
「正科生B」です。
正科生Bは、北海道情報大学の通信教育部に在籍しながら、全国各地の指定専門学校(教育センター)に通って学ぶダブルスクール生です。 [univpress.co.jp]
全国の教育センターでは、高速専用回線を用いた双方向遠隔教育システムを活用して授業が行われます。 [univpress.co.jp]
つまり、北海道江別市にある大学のキャンパスに通わなくても、札幌、秋田、東京、新潟、名古屋、大阪、広島、福岡、鹿児島、沖縄などの専門学校で、北海道情報大学の教育を受けることができる。
卒業すると「学士(経営情報学)」と「高度専門士」の学位・称号を同時に取得できます。 [univpress.co.jp]
この仕組みは、第3回の産業能率大学の併修制度、第17回の開志創造大学の大学併修と同じ構造です。
しかし、北海道情報大学の場合、1994年の通信教育部開設以来、30年以上にわたってこの仕組みを運営してきた実績があります。
正科生Bの就職率は98.4%。 [univpress.co.jp]
全国の専門学校に「情報学の学位を取る道」を張り巡らせてきた、先駆者です。
4.第13回「八洲学園大学」との接続——「壁を越える」大学たち
ここで、第13回で取り上げた八洲学園大学を思い出したいと思います。
八洲学園大学は、シニア割引で「学びに定年はない」と示しました。年齢の壁を越えた大学でした。
北海道情報大学は、特修生制度で「学歴の壁」を越えようとしています。
どちらも、「本来ならば大学に来られないはずの人」に、大学への道を開いている。
八洲学園大学が越えたのは「年齢の壁」。 北海道情報大学が越えたのは「学歴の壁」。
そして、北海道情報大学の特修生制度が越える壁の先にあるのは、「情報学」という、21世紀のもっとも重要なリテラシーです。
5.「科目トライアル生」という助走
もう一つ、北海道情報大学の通信教育部にはユニークな制度があります。
「科目トライアル生」です。 [online-uni...y-labo.com]
通信制大学でやっていけるかどうか不安な方のために、入学前に半年間のお試し期間を設けることができます。科目トライアル生を終了した後に正科生として入学すると、入学選考料の免除や、修得した単位の認定などの特典があります。
第15回の戸板女子短期大学「スマカレ」では、「助走期間」の重要性を見ました。
北海道情報大学の「科目トライアル生」も、同じ発想です。
いきなり正科生として入学するのではなく、まずは試してみる。大学の学習システムに慣れてから、本格的に学び始める。
特修生も、ある意味では「助走期間」です。
1年間かけて16単位を修得しながら、大学で学ぶとはどういうことかを体験する。その経験を土台にして、正科生として本格的に学び始めます。
そうした「壁を越える」ための道が、一段ずつ用意されているのです。
■ 寺尾謙からの問い
大学入学資格がない人に、情報の世界は開かれているでしょうか。
北海道情報大学の特修生制度は、その問いに対して「開かれている」と答えています。
満18歳以上であれば、入学試験なしで出願できる。
1年間で16単位を修得すれば、正科生への道が開かれる。
そして、学士(総合情報学)の学位を取得できる。
しかし、問いたいのはその先です。
この連載では、さまざまな「壁」を見てきました。
大学と大学のあいだの壁(第1回)。
国境の壁(第2回)。
大学と専門学校のあいだの壁(第3回)。
届かない人との壁(第4回)。
年齢の壁(第13回)。
通信制と通学制の壁(第14回)。
「毎日通学」という壁(第15回)。
大学名の壁(第16回)。
そして今回、「学歴の壁」。
これらの壁は、
いずれも「学びたいのに学べない人」を生み出してきた壁です。
通信教育は、これらの壁を一つひとつ越えてきました。
北海道情報大学の特修生制度は、
もっとも根源的な壁——「大学入学資格がない」という壁——を越える仕組みです。
高校を中退した18歳が、特修生として情報リテラシーを学び始める。
1年後に正科生になる。4年後に学士号を取得する。
そして、情報技術者として社会に出ていく。
あるいは、教職課程を履修して、
高校の「情報」の教員になるかもしれない。
かつて自分が中退した高校と同じ場所で、今度は教壇に立つ。
その可能性を、北海道情報大学の特修生制度は開いています。
■ 編集後記
第16回(managara)、
第17回(開志創造大学)、
第18回(北海道情報大学)と、
3回続けて通信制大学を取り上げてきました。
managaraは「プラットフォーム」で壁を越えました。 開志創造大学は「シェア」で壁を越えました。 北海道情報大学は「特修生」で壁を越えました。
3つの方法は違いますが、共通しているのは、「学びたい人の前にある壁を、一つずつ取り除いている」ということです。
特修生制度のページを読みながら、一つの言葉が心に残りました。
「卒業(学位の取得)をしなかった場合の最終学歴は『中卒』となります(高校中退者の場合)」
この一文は、制度の説明としては当然のことを書いているだけです。
しかし、この一文の裏側にある現実を想像してみてください。
高校を中退した人が、「大学で学びたい」と思ったとき、目の前にはまず「大学入学資格がない」という壁が立ちはだかる。
高卒認定試験を受けるか。通信制高校に入り直すか。
しかし、北海道情報大学の特修生制度は、もう一つの道を示しています。
大学で学びながら、大学に入る資格を得る。
学ぶことで、学ぶ権利を手に入れる。
この仕組みに、通信教育の本質を見た気がしました。
寺尾謙のタネ|1つのURLから考える、大学と学びのこれから
