東京圏において具体化している鉄道新線計画
東京圏では、鉄道網の更なる充実が進んでいる。近年の大都市圏での鉄道路線は、交通政策審議会の答申に沿った形で概ね進められており、東京圏では2016年の第198号答申が直近である。第198号答申で示された具体的なプロジェクトのうち、既に具体的な事業化が進展している新線について紹介する。これらの新線は2030年代には開業見込みである。
はじめに
交通は衣食住と並ぶ生活の基本である。「鉄道と道路を張り巡らせる時は今 -日本列島改造論・改-」(2024年11月27日)では、人口・交通での負のスパイラルに陥った地域が増加し続けている現状に対し、日本列島を守る観点、日本全体の活性化、日本国民の未来永劫に亘る繫栄などを実現するような交通インフラ投資の重要性について書いた。
一方、東京圏を筆頭に大都市圏では、更なる利便性向上のための交通インフラ投資は継続して実施されている。新たな路線が開通すれば、人の流れは変わり、街も変わる。本稿では、前述のレポートでの問題意識は一旦置いておいて、東京圏で具体化している鉄道新線のうち一般利用客に関連する路線について紹介する。
新線計画は交通政策審議会で検討
鉄道事業を営むには、鉄道事業法に基づく国土交通大臣の許可を路線ごとに受ける必要がある。どの地域にどのような路線を通すかの意思決定過程は路線ごと時代ごとに多様である。近年の大都市圏での鉄道路線建設は、国土交通大臣の諮問に対する交通政策審議会の答申に沿った形で概ね進められているようである。なお、具体的な議論は交通政策審議会の陸上交通分科会鉄道部会が行っている。
近年では2000年の運輸政策審議会(交通政策審議会の前身)によるいわゆる「第18号答申」が東京圏における鉄道整備の指針となっていた。その進捗状況等を踏まえて、鉄道部会の下に設置された「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」が具体的な議論を行い、2016年に「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(答申)」(平成28年4月20日。以下、第198号答申)が取りまとめられている。
第198号答申の第Ⅱ部第2章「具体的なプロジェクトについての検討結果」の「(1)国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」「(2)地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」に具体的な新線等の検討結果が記されている(図1)。
図1:第198号答申掲載の東京圏鉄道網図

第198号答申における「(1)国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」には8つのプロジェクトの検討結果が示されている。うち新設が4つ、延伸が2つ、新設及び直通運転化が1つ、新設及び延伸が1つである。「(2)地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」としては16のプロジェクトの検討結果が示されている。うち新設が4つ、延伸が7つ、複々線化が2つ、延伸及び複々線化が2つ、貨客併用化及び新設が1つとなっている。本稿ではこれらのプロジェクトのうち、一般利用客用の具体化している新設路線について紹介する。
さらに地下鉄については、鉄道部会の下に「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」が設置され、2021年に第198号答申を踏まえた「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について(答申)」(令和3年7月15日。以下、第371号答申)が取りまとめられている。第198号答申の検討プロジェクトのうち「(7)東京8号線(有楽町線)の延伸(豊洲~住吉)」、「(8)都心部・品川地下鉄構想の新設(白金高輪~品川)」、「(6)都心部・臨海地域地下鉄構想の新設及び同構想と常磐新線延伸の一体整備(臨海部~銀座~東京)」の地下鉄構想部分の3つのプロジェクトが、第371号答申の検討対象とされた。なお、常磐新線は「つくばエクスプレス」を指す。
具体的に進展している新線プロジェクト
(1)羽田空港アクセス線
第198号答申では「羽田空港アクセス線の新設(田町駅付近・大井町駅付近・東京テレポート~東京貨物ターミナル付近~羽田空港)及び京葉線・りんかい線相互直通運転化(新木場)」というタイトルになっている。
JR東日本は、2023年4月4日付のニュースリリース「羽田空港アクセス線(仮称)の本格的な工事に着手します」にて、羽田空港アクセス線(仮称)のうち「東山手ルート」(図2)の工事関連の認可を国土交通省より受けたことを公表している。2023年6月には起工式を行い、本格的な工事に着手している。
図2:羽田空港アクセス線の新設等

このルートが実現すると、宇都宮線・高崎線・常磐線方面から羽田空港へのダイレクトアクセスが可能となる。現状では東京駅から羽田空港へ鉄道で30分程度だが、乗り換えなしで18分に短縮される。試掘調査段階での遺構発見により一部計画変更はあったものの、2023年4月の公表時の予定通り2031年度開業に向けて工事を進めている。
臨海部ルート、西山手ルートについてはまだ具体化していないようだが、いずれも空港アクセス線新設が前提となるので、空港アクセス線の工事が進んでいることは前向きに考えて良いであろう。
(2)新空港線
第198号答申では「新空港線の新設(矢口渡~蒲田~京急蒲田~大鳥居)」というタイトルである。
東急蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶいわゆる蒲蒲線(図3)を実現することにより、東京西側エリア等と羽田空港の往来が便利になる。新設区間の地元である東京都大田区のウエブサイトには「新空港線(蒲蒲線) メインページ」が設けられている。
2023年4月19日更新の情報によると、2022年10月に大田区と東急電鉄の共同出資により第三セクター「羽田エアポートライン」が整備主体として設立され、鉄道事業の許可取得などを進めている。許可取得後、都市計画等の手続に約3年、その後に着工してから開業まで10年程度とのことであるから、蒲蒲線実現は現時点では2030年代後半イメージか。
図3:新空港線の新設

(3)都心部・臨海地域地下鉄
第198号答申では「都心部・臨海地域地下鉄構想の新設及び同構想と常磐新線延伸の一体整備(臨海部~銀座~東京)」というタイトルである。第371号答申でも改めて取り上げられた。
東京都中央区ウエブサイトに「都心・臨海地下鉄新線」が設けられ、地下鉄新線に関する経過がまとめられている。2021年9月に東京都が設置した「都心部・臨海地域地下鉄構想 事業計画検討会」は2022年11月に事業計画案を公表した。同計画案によると、都の政策上「2040年までの実現を目指す取組」に位置付けられている。
2024年2月には東京都、鉄道建設・運輸施設整備支援機構、東京臨海高速鉄道の3者合意が成立した。鉄道建設・運輸施設整備支援機構が整備主体、東京臨海高速鉄道が営業主体となり、事業を進めていくこととなっている。
なお、つくばエクスプレスとの接続、羽田空港との接続は今後の検討課題としている。都心・臨海地下鉄新線推進協議会「都心・臨海地下鉄新線パンフレット」によると、今後の検討課題が実現した場合は、晴海から羽田空港までが現状の約35分から約20分、晴海からつくばまでは現状の約75分から約60分に短縮される見込みである。
図4:都心部・臨海地域地下鉄の新設等

(4)有楽町線延伸
第198号答申では「東京8号線(有楽町線)の延伸(豊洲~住吉)」というタイトルである。第371号答申でも改めて取り上げられた。
東京メトロ有楽町線を豊洲駅で分岐し、東京メトロ半蔵門線の住吉駅と接続する。なお、答申のタイトルは延伸であるが、有楽町線の従来ルートから考えると新線と見做して良いと思われ、本稿で取り上げている。東京都江東区ウエブサイト「地下鉄8号線(有楽町線)の延伸(豊洲~住吉)」によると、2022年3月に鉄道事業の許可を受け、2024年11月に工事着手されたとの事である。事業主体は東京メトロであり、開業目標は2030年代半ばである。
南北移動の短縮などが期待されている。電車を利用して住吉駅から豊洲駅に移動するには、現状では乗り換えが2回で約20分かかるが、開業後は乗り換えなしで約9分となる。
図5:有楽町線の延伸

(5)都心部・品川地下鉄
第198号答申では「都心部・品川地下鉄構想の新設(白金高輪~品川)」というタイトルである。第371号答申でも改めて取り上げられた。
東京メトロ南北線を白金高輪駅で分岐して品川駅方面に延伸し、六本木等の都心部と広域的な交通結節点の品川駅を結ぶものである。東京都ウエブサイト「東京メトロ南北線の分岐線(品川~白金高輪)計画」掲載の「地域公共交通利便増進実施計画(東京メトロ南北線の分岐線(品川~白金高輪))」(令和4年12月)によると、2022年3月に鉄道事業の許可を受けたとの事である。事業主体は東京メトロであり、開業目標は2030年代半ばである。
図6:都心部・品川地下鉄の新設

具体化している新線以外は東京圏以外の地域優先で
本稿では、第198号答申の検討プロジェクトのうち、既に着工あるいは予算などがついて事業化が進められている新線について紹介した。いずれも順調に進捗すれば、2030年代には利用できるようになるだろう。
本稿で紹介しなかった、関係者によって検討されたりはしているものの事業化が決定していない新線のうち、さいたま市民かつLRT推進派の筆者としては、「東西交通大宮ルートの新設(大宮~さいたま新都心~浦和美園(中量軌道システム))」の具体化に期待している。一方、メトロセブン、エイトライナーという呼称が既に存在する「区部周辺部環状公共交通の新設(葛西臨海公園~赤羽~田園調布)」については、東京圏の発展に大いに貢献するのではないかと推測しているが、具体化は劣後しても良いのではと個人的には考えている。
筆者の考えは、「リスク分散と新時代への離陸に向け首都移転を」(2023年12月14日)や「鉄道と道路を張り巡らせる時は今 -日本列島改造論・改-」(2024年11月27日)等々の一連の国土構造や交通関連の拙稿で述べたように、我が国が将来に向けて社会経済の活力と独立を維持するためには、東京圏以外の地域の発展が欠かせないと考える。その物理的基盤の一つとして交通網の充実がある。
東京圏在住の身としては、第198号答申の検討プロジェクト全てが具現化すると非常に便利になると考える。国際競争の観点から首都の競争力を高めることが重要であることも理解できる。しかし、東京圏ばかり便利になり、ますます一極集中が進んでしまっては日本国そのものの存続リスクが極大化してしまう。この考え方に賛同するのであれば、既に具体化しているプロジェクトはスムーズに進める一方で、東京圏の他の検討プロジェクトは劣後で良く、東京圏以外の地域の交通網充実を図るべきである。
東京圏以外の地域の交通網充実については上記拙稿に加え、「リニア、新幹線は変革の基盤」(2023年10月27日)、「LRT、路面電車を起爆剤にした街活性化」(2023年8月7日)、「地域公共交通の活性化に改正法を活かす」(2023年11月10日)等で述べている。こうした観点で、独立採算制の呪縛から脱し、国家百年の計を見据えた大局観で、東京圏以外の地域の計画を推し進め、人材、資材、資金等を優先的に投ずるのが望ましい。
20241223 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「鉄道と道路を張り巡らせる時は今 -日本列島改造論・改-」(2024年11月27日)
