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SNS型詐欺被害者非難~理論で読み解くわたしたちのバイアス

~公正世界仮説/帰属バイアス/理想の被害者から考える~

0. はじめに

SNS型詐欺・SNS型ロマンス詐欺の被害者というとどういう人物像を想像しますか?

  • 相談できる人がいない、孤独な人

  • 年配の人

  • 判断力のない人

  • 頭の弱い人

  • 欲の深い人

もちろんさまざまな人がいるため、これらのイメージに当てはまる被害者の方もいるでしょう。しかし、世間一般のイメージというのは必ずしも事実に基づいて証明された人物像ではありません。ただし、こういった人物像がイメージされやすいのも事実です。この記事は、そのように考える人々を批判するものではなく、私たち誰もが経験する心の傾向について解説しています。これによって、SNS詐欺に関する報道や解説番組を見て抱く疑問が解消され、モヤモヤが晴れるかもしれません。

1. 私たちは被害者を批判・非難してしまうのはなぜ?

テレビやオンラインのニュースを見ていて、家族で食事をしながらSNS詐欺のニュースが流れると、「どうしてこんなのに引っかかるんだろう」と話すことはありませんか? これは被害に遭っていない人なら誰でも感じる疑問ですよね。

ニュース記事へのコメントのセンチメント分析

センチメント分析(感情分析)は、ブログやSNS、カスタマーレビューなどの大量のテキストデータに含まれる感情や意見を、肯定的、否定的、中立的のいずれかに分類する手法です。自然言語処理(NLP)と機械学習(ML)の技術を活用して、自動的に分析・判断します。

2025年9月1日付のYahooニュース経由の北海道放送の報道についたコメント数は9月12日時点で254件。コメントのコメントを除いてプライマリコメントだけを対象として233コメントを「ネガティブ」「中立的」「ポジティブ」に分けてコメントを分析してみました(使用ツール;Sentiment Analysis GPT) 。

ポジティブ、中立的、ネガティブの定義と分析結果は以下の通りです。

  • ネガティブ 145件(62.3%): 被害者への批判や嘲笑、被害者責任論、失笑や「草」「笑」などの冷笑表現。

  • 中立的 70件(30.0%): 客観的で冷笑的でもなく、擁護的・共感的でもない意見。

  • ポジティブ 18件(7.7%): 被害者への同情や共感。

このセンチメント分析の総合スコアを計算した結果、-78となりました。つまり、Yahooニュースの北海道放送の記事「宇宙船が攻撃を受けて酸素が足りない」と言われて100万円を送金した北海道の女性に関するニュースへのコメントは、ネガティブな意見が優勢であり、多くが被害者責任論や冷笑に基づいていることがわかります。ただし、ニュース記事のコメントは被害者批判的な傾向が強くなるという点も考慮しつつ、「批判的コメントが多数派」であることを指摘できます。

コメント全体の26.6%が被害者責任論を含む内容で、ネガティブなコメントに限定すると43%が「被害者の過失」「共犯」「カモ」などの直接的な責め表現を含んでいました。具体例としては:

  • 被害者責任論: 「騙される方が悪い」「共犯」「カモ」

  • 非難・断定: 「どうかしてる」「理解できん」「信じられない」「問題がある」

  • 冷笑記号: 「笑」「w」「草」など、被害者批判と共にネガティブな影響を増幅。

  • 年齢や認知の断定: 「80代だから」「認知症では」「ボケ」などの嘲弄。

こうしたネガティブなコメントの背後にある心理的傾向は、心理学的な観点から説明可能です。これらの心理は非常に複雑であり、単一の説やフレームワークで簡単にまとめられるものではありませんが、代表的なものを紹介します。

(1) 公正世界仮説(Just World)

公正世界仮説は、社会心理学者メルビン・ラーナーが提唱したもので、「この世は公平で、良い行いをすれば良い結果が得られ、悪いことをすれば悪い結果になる」という認知バイアスや思い込みのことを指します。

この仮説は必ずしも人類にとって悪いものではなく、公正世界信念が強い人は働くモチベーションが高まり、より良い職業生活を送れるという研究結果もあります。(Otto, K., Glaser, D., & Dalbert, C., 2009)。

しかし、これを強く信じすぎると、被害者を責める「被害者非難」につながり、現実の不公平さや偶然の出来事を見落としてしまうという問題があります。

例えば詐欺被害者に対して「騙される方が悪い」「判断力がないからだ」といった個人側に原因を求める意見は、「世界は基本的に公正で、被害には相応の理由がある」という信念を守る典型例です。このような考え方は、加害者や制度の問題を見えにくくし、被害者の責任を過大に評価してしまいます。。

参考:Otto, K., Glaser, D., & Dalbert, C. (2009). Mental health, occupational trust, and quality of working life: Does belief in a just world matter? Journal of Applied Social Psychology, 39(6), 1288–1315.

公正世界仮説に関して、心理ミュージアムの資料がとても分かりやすいのでご参考に。

(2) 帰属理論(内的帰属・帰属バイアス・基本的な帰属エラー)

帰属理論とは、他人の行動の原因を考える際に、「状況」よりも性格や能力などの内的特性を重視し、状況の影響を軽視することを指します。この傾向は他人の行動理由を考える際によく見られるため、基本的な帰属のエラーと呼ばれます。

例えば、「知らない人に送金したあなたが悪い」という評価は、巧妙な犯行設計や操作といった状況ではなく、個人の特性に原因を求める内的帰属の傾向を示しています。また、「自分は同じ目に遭わない」という安心感を得るために他者へ責任を押し付ける防衛的帰属も見られると言えます。

(3) 後知恵バイアス・事後バイアス・結果バイアス

後知恵バイアス(Hindsight Bias)は、何かが起きた後に「最初から分かっていた」「やっぱりそうなると思っていた」と感じる心理的傾向です。まるで結果を事前に予測できていたかのように錯覚してしまう現象です。後知恵バイアスは、不確実性による不安を和らげるために、自分の理解力や判断力を保とうと整合性のあるストーリーを作り上げる心理から生まれるものです。つまり、人間の自然な反応と言えるでしょう。

職場でも似た状況を経験することがあるかもしれません。例えば、あるプロジェクトが失敗したとします。多くの人が「あの計画は無理があった」「あのメンバー構成じゃ失敗すると思っていた」と言います(これが後知恵バイアスです)。しかし実際には、プロジェクト進行中は誰もが成功を信じており、問題点に気づいていなかったり、気づいていても口に出せなかったりしました。このように結果が出た後になって「結果論」で判断し、過去の決断を低く評価してしまうのです。

詐欺被害者についても、「友達に相談していれば怪しいと分かったはずだ」といった発言を私たちはよくしてしまいます。これは結果を知ってから当時の判断の難しさを過小評価する事後バイアスや、結果の悪さから意思決定の責任を厳しく問う結果バイアスの典型です。

参考:Ronnie Janoff-Bulman, Christine Timko, Linda L Carli,
Cognitive biases in blaming the victim, Journal of Experimental Social Psychology, Volume 21, Issue 2,1985, Pages 161-177,
https://doi.org/10.1016/0022-1031(85)90013-7.

(4) 「理想の被害者」(Ideal Victim)概念

理想の被害者とは、ノルウェーの社会学者クリスティが提唱した概念で、社会が犯罪被害者の一部を特定の理想像に当てはめて受け入れる傾向を指します。クリスティは、理想的な被害者とされる人物には、「脆弱である」「尊敬に値する行動をしている」「加害者が悪質である」「加害者とは面識がない」といった特徴があると指摘しています。そして、これらの同情を引きやすい条件から外れると、その被害者に対する正当性や共感が低下します。

例えば、高齢者が特殊詐欺に遭った場合、被害者が脆弱である(高齢である)ことから同情されやすくなります。しかし、それがロマンス詐欺だった場合、「この年齢で恋愛するなんて」という偏見により、同情されにくくなるかもしれません。

3. オンライン詐欺の特殊性~「個人の欠陥」では説明できない

オンライン詐欺の特徴は、「個人の欠陥」だけでは説明しきれません。加害者の「計画」には、段階的な説得技法、権威バイアスや希少性バイアス、互恵といった影響戦術が含まれます。

デジタル環境にもバイアスがあります。即時性や相談の分断された環境、LINEグループのような疑似コミュニティがその例です。

荒唐無稽な「宇宙で攻撃を受けて酸素が必要」という話がなぜ本人には真実味を持つのか(文脈や感情、段階の影響)、また投資型詐欺で「最初の成功」がどのように判断を曇らせるのか(利益の先渡しによるコミットメント)などを考慮すると、「騙されたプロセス」は単に年齢による能力の低下や、欲に目がくらんだといった一言で説明できるシンプルなものではないことが判るでしょう。

4. よくある言説を再検討してみよう

SNS型詐欺の被害者に対する見方について、私たちが陥りがちな偏見を改めて考え直してみましょう。ニュースを見ながらつい口にしてしまう言葉も、視点を変えて捉えることが大切です。また、警察の統計など、事実に基づいたデータにも目を向けてみましょう。

  • 「高齢で孤独だから起きる」→【再検討】被害層は幅広く、ミドル層が多い。孤立は要因の一つに過ぎません。

  • 「友人に相談すれば防げる」→【再検討】事後バイアス/相談先のバイアス/恥の感情が相談の阻害要因。

  • 「知らない人に送金する人が悪い」→【再検討】段階的コミットメントと状況圧。

  • 「欲が深いから」→【再検討】見込み利得は操作され、ヘルプシーキングを阻むスティグマを強化。

警察庁2024年SNS型詐欺統計
https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/hurikomesagi_toukei2024.pdf

5. まとめ(メッセージ)

被害者非難は悪い人の癖ではなく、誰にでも起こり得る心理です。また、それは人間の防衛本能として備わった機能でもあります。ただし、この「被害者非難」が被害者を友人や家族への相談や警察への届け出から遠ざけてしまう結果を招くことがあります。私たちは、被害の報道や周囲で誰かが詐欺被害に遭った際に、「被害者の個人責任を追及する視点」から「加害者の計画や環境要因を理解する視点」へと切り替える必要があります。

文:武部理花(NPO CHARMS副代表、SCARS Institute理事)

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