新刊チェック:2026年5月第4週分①
今日も元気に新刊チェック!
2026年の5月第4週(17日~23日)に発売される新刊から面白そうなものをピックアップしました! 今回はその①です。
2026年5月分のリストはこちら👇
新刊チェック:2026年5月第1週分
新刊チェック:2026年5月第2週分
新刊チェック:2026年5月第3週分①
新刊チェック:2026年5月第3週分②
新刊チェック第4週(17日~23日)
ティツィアーノ・スカルパ著・中山エツコ訳『ヴィヴァルディと私』
5月19日、河出書房新社より発売予定。
作者のティツィアーノ・スカルパ(1963-)はイタリアの作家で、2009年に本作でストレーガ賞を受賞しているみたいです。ストレーガ賞はイタリアの文学賞で、有名な作家でいえば、1958年にディーノ・ブッツァーティが『Sessanta racconti』という短編集で、1981年にウンベルト・エーコが『薔薇の名前』で受賞したようです。
あらすじに関してはこんな感じ。今回も出版社の公式サイトから引用しています。
18世紀ヴェネツィア、孤児を預かる養育院に赴任したヴィヴァルディとそこで暮らす天才少女との葛藤を描き、「四季」誕生の謎に迫る。イタリア最高の文学賞ストレーガ賞受賞。改題新装版。
改題新装版と映画公開
作品紹介の最後に「改題新装版」という文言があります。
じつは、もともと2011年に同じく河出書房新社から『スターバト・マーテル』という作品が出ていた(訳者も同じ)のですが、今回、タイトルを『ヴィヴァルディと私』に改めたうえで新装版を出す運びとなったみたいです。
同名の映画が2026年5月22日に公開されるようなので、タイミングを合わせているのだと思われます。
歴史に名を残した天才と、無名の弟子
内容について語ると、どうやらこの「天才少女」というのは、ヴァイオリンの天才少女だということだそうで、その子をヴィヴァルディが指導・教育していく、というのが本作の筋のようです。(少女が得意としていた楽器については映画の情報を参照しました。少女がヴァイオリンを得意としていたという点に関しては、原作からズレていないでしょう。たぶん。)
この手の作品は、サリエリとモーツァルトに関する創作みたいに、凡人の師匠が歴史に名を残すような天才を育てる(そしてそこに嫉妬や羨望が入り混じる)という構図になりがちです。しかし、本作では歴史に名を残したヴィヴァルディがきっと名前の残らなかった天才少女を育てるという構図になっていて、新鮮に感じます。
先ほど「きっと名前の残らなかった天才少女」と申し上げましたが、18世紀であればヴェネツィアに限らず、どの地域おいても女性の名前は歴史に残りにくかったでしょう。どんなに天才であったとしても、というのがより残酷なところです。そのことについてヴィヴァルディは何を思うのでしょうか? 直接的にせよ、間接的にせよ、その答えは小説の中にあるのかもしれませんね。
永井紗耶子『めぐる糸 明治浪漫霊異譚』
5月20日、双葉社より発売予定。
永井紗耶子(1977-)は、歴史・時代小説を書いている作家です。2023年に『木挽町のあだ討ち』で直木賞を受賞したのが記憶に新しいかと思います。
今回は幽霊譚に挑戦するようです。あらすじを見ていきましょう。
時は明治三十九年。帝大生・斎木啓吾には誰にも言えない秘密があった。それは、この世ならざる「霊異」が視えてしまうこと。平穏な生活を望む啓吾だったが、心霊研究者を名乗る子爵家の若様・連翹寺正周にその体質を知られてしまう。正周の「目」として、帝都で起きる不可解な事件に半ば強引に巻き込まれていく啓吾。現世に未練を残す魂が、彼らに託す「最期の願い」とは――。霊が視える帝大生と、視えない心霊研究者。人情と謎が交錯する、明治霊異譚。
きっと文明開化ホームズ
帝大生といえばインテリ。そして子爵家といえば華族。霊異が視えてしまうインテリの青年(斎木啓吾)と心霊研究者を名乗る華族の青年(連翹寺正周)のバディ物として捉えるのがよさそうです。読み味もミステリとホラーの中間を行くような人情物に仕上がりそうで楽しみですね。
帝大生に霊感を盛るなんて、キャラクターとしてなんて恵まれているんだと思われるかもしれません。が、心霊研究者を名乗る青年がホームズ係で、きっと帝大生の方はワトソン係でしょう。(ちなみにワトソンも医者でインテリでした。)ワトソン係というのは名推理を披露するホームズ係のために情報や証言や証拠を集める係のことです。ワトソン係はホームズ係に振り回されることが運命づけられていますから、そう思うと帝大生の青年が気の毒になってきます。
セットで読みたい本
明治期を舞台とした推理物というところから坂口安吾『明治開化 安吾捕物帖』、怪異にまつわる事件を解決する短編集(舞台は現代ですが)というところから小野不由美『営繕かるかや怪異譚』を連想しました。併せて読まれると楽しいのではないかと思います。
グン・アヨルザナ著・阿比留美帆訳『シュグデン』アジア文芸ライブラリー
5月20日、春秋社より発売予定。万城目学のポストで興味を持った方も多いのではないでしょうか。
グン・アヨルザナ(グンアージャビーン・アヨルザナ, 1970-)はモンゴルの詩人・小説家・翻訳家。1995年から活動をしているようで、今回邦訳が出版に至った『シュグデン』は2012年の作品みたいです。
現代モンゴルの長編小説が日本初上陸。仏教僧院で起きた不可解な銃撃死事件。警察犬トレーナーのセルジャムツは、故人の親友サマンダと出会い、事件の謎を追う。やがて死の謎は禁忌とされる忿怒尊《シュグデン》の信仰が関わっていたことが徐々に明らかになる……。現代モンゴルを代表する人気作家による、分断された民族の歴史の記憶とアイデンティティを問いなおす壮大な物語。
チベット仏教における異端
モンゴルでは伝統的にチベット仏教が信仰されてきました。現在、チベット仏教の最高指導者とされているのはダライ・ラマ14世であり、ダライ・ラマ14世がシュグデンの信仰を公式に禁じたために、シュグデンの信仰者は異端視されているみたいです。作品紹介で「禁忌とされる忿怒尊《シュグデン》の信仰」という文言があるのはこのためですね。
しかし、シュグデンの信仰の起源や信仰にまつわる伝承、チベット仏教界で燻り続けている政治闘争に関しては、かなり込み入っていて、wikipediaの説明でさえまったく頭に入ってきませんでした。よって、それらについては作中での説明や訳者の解説、専門書に譲りたいと思います。
ミステリーとしても読めそう
作品紹介からもわかるとおり、本作では殺人事件が起き、それを警察犬のトレーナーであるセルジャムツが追う、という構造になっています。つまり、殺人事件があって探偵役がいるということですから、これはれっきとしたミステリー小説ということになります。
で、個人的に気になるのはモンゴルでの銃規制事情。作品紹介には「仏教僧院で起きた不可解な銃撃死事件」とあります。当然、銃が関わっているわけですが、モンゴルにおいて市民の銃の所持はどの程度認められているのでしょうか? それに応じて捜査のしやすさも変わってきそうです。
重厚な作品になっていそうで読むのが楽しみですね。
藤紘著・中島花野絵『佐藤の告白』集英社オレンジ文庫
5月20日、集英社より発売予定。作者は藤紘。本作がデビュー作みたいです。
ライトノベル・ライト文芸・児童文学では装画も重要視されているのですが、私がイラストレーターに詳しくないので紹介はなしです。(今後もそうなると思います。)ごめんなさい。
作品紹介は以下に引用しておきました。「ある男子生徒から男子生徒への「告白」」という風に、「告白」にわざわざ鍵括弧がついています。なにか一捻りありそうですね。
夏休み明け、「佐藤君が鈴木君に告白したらしい」という噂が学校中に瞬く間に広まった。
佐藤に片想いしているひなのは、佐藤を振った鈴木や、いじめとしては処罰されない程度に悪意のある嫌がらせを行う男子たちのことが許せず、佐藤を守れる屈強なゴリラになりたいと願う。
鈴木の担任のオカジュンは、学生時代いじめられていたトラウマから、事なかれ主義で生徒に好かれる先生を演じていたが、佐藤の告白問題の対応に迫られる。
佐藤の母は学校からの呼び出しを受け、息子が男を好きになったのは、夫のDVが原因で離婚した家庭環境のせいではと思い悩む。
ある男子生徒から男子生徒への「告白」が、学校という小さな世界の中に次々と波紋を描いていく――。
2025年ノベル大賞〈大賞〉受賞を果たした、おかしくて愛おしくてせつない青春群像劇。
「おかしくて愛おしくてせつない」に着地できそう?
「嫌がらせ」に「トラウマ」に「夫のDV」というかなり不穏な文言が飛び交っていて、「告白」の噂の当事者である佐藤や鈴木はもちろんのこと、鈴木の担任であるオカジュンや佐藤の母親もかなり深刻そうです。大丈夫なのでしょうか?(……といいつつ、悩める大人の姿をちゃんと描いているという点に好感を持ちました。単に当事者からの目線だけでなく、広い視点から問題を俯瞰しようと試みている感じがあるので。)
ここからどうやって「おかしくて愛おしくてせつない青春群像劇」に着地させていくのか?、という部分が見所ですね。間違いなく。
全国苗字ランキング1位と2位
で、個人的に気になることがひとつ。それは登場人物の名前がかなり没個性的であることです。まず、タイトルに冠される男子生徒の名前が佐藤。そして、もうひとりの中心人物である男子生徒は鈴木ときている。全国苗字ランキング1位と2位です。そして、ひなのやオカジュンも女性の名前や教師のあだ名としては珍しくない。なにか狙いがありそうです。
ところで、この作品のタイトルは『佐藤の告白』です。タイトルを決める過程で編集部がかならず関わっているはずです。そう考えると「佐藤の告白」というシンプルなタイトルを通した編集部もかなり強気に思えてきます。つまり、そこまで物語に自信があるということ。これは期待できそうですね。ぜひ読んでみたいです。
おわりに
前回の最後に新刊チェックはしばらくやらない予定だと申し上げました。が、扱いたい本の冊数を数え上げてみたところ、想定よりも多く、休んでいては間に合わないことが発覚しました。そこで、もっと別の記事を見たいという方がいるのは承知していますが、またしばらく新刊チェックが続くと思います。よろしくお願いいたします。
ということで、次回は5月第4週分の②でお会いしましょう。
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