Memory of Train
ここのところ、これでもかと言わんばかりの不運に見舞われて、これ以上ないほど落ち込んでいた。こんな苦しい思いが続くなら、もう何もかも放り出してしまおうかと……。
そんなある日、偶然、“彼”に出会った。「モハ112-1265」。私が今まで生きてきた中で、一等幸せな出来事があった夜、乗り合わせた車番を鮮明に覚えている。
腰を下ろしたそのシートは、誰かが座っていたからというわけではなく、とても温かだった(お前は私を抱き止めているの?)。
ふり仰いだ車番に、その幸せな思い出が、閃光のように蘇った。〈そうだ。僕も君の思い出を憶えてる。僕がこうやってレールの上を走り続けているのだから、君も自分の進むべき道を捨てるな〉……“彼”がそう言った、ように思えた。
電車から降りたホームで、見えなくなるまで“彼”の姿を見送った。知らず私の顔に微笑みが浮かんでいた……(自分が車番を読むことのできる「鉄子」で本当に良かった)。
(1996/12)
