第48回 「ジョブ理論」と「小象の鎖」
その他、知っておくと得するのでは、と思う話を書きます。まず「ジョブ理論」(クレイトン・M・クリステンセン著、ハーバーコリンズ・ジャパン、2017年刊)のなかのエピソードです。「ジョブ理論」とは考察の基本が「片づけるべきジョブ」理論にある、という考え方です。以前触れさせていただいたレビット氏は「ドリルを買いにきた人が欲しいのは、ドリルではなく『穴』である」と著書に書いていましたが、似たような話です。「ジョブ理論」が目指すのは、顧客が自らの進歩を求めて苦労している点は何かを理解し、彼らの抱えるジョブ(求める進歩)を片づける解決策と、それに付随する体験を構築すること」だと、クリステンセン氏は書いています。「ジョブ理論」で検索すると「ミルクシェイク」という言葉がサジェストの上位に出てきますが、この理論をわかりやすく理解できるエピソードでを取り上げます。某ファストフード・チェーンが「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか」について数カ月かけて調査したそうです。ミルクシェイクを買いそうな人に「どんな点を改善すれば、ミルクシェイクをもっと買いたくなりますか?値段を安くする?量を多くする?もっと固く凍らせる?」といった質問をしたそうです。最も多かった要望に応える施策を打ってみたが、結果売上は上昇しませんでした。その後にクリステンセン氏が、別の方向から課題の設定に取り組みました。「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを『雇用』させたのか」という切り口です。「来店客は、単にプロダクトを買っているのではない。彼らの生活に発生したジョブを、ミルクシェイクを雇用して片づけているのだ」という仮説に基づき、調査チームがお客様を観察しました。わかったことは、午前9時前に1人で来たお客様に売れるミルクシェイクが驚くほど多かったことです。そのほとんどがミルクシェイクだけを買い、店内では飲まず、車で走り去っていました。クリステンセン氏の調査チームメンバーがお客様に、ミルクシェイクを買う目的(ジョブ)を尋ねました。明らかになったのは「早朝の客は皆、同じジョブを抱えていた」ということです。「仕事先まで退屈な運転をしないといけないから、気を紛らわせるものがほしい」ということでした。あるお客様はこのように言ったそうです。「時にはバナナを食べますよ。だけどバナナじゃダメですよ。すぐに食べ終えてしまうから」。一方でミルクシェイクなら、飲み終わるまでには長い時間がかかる、朝食と昼食の間に感じる空腹をかわすのに充分な量がある、ということだったのです。つまりミルクシェイクは、バナナやドーナツ、コーヒーなどの競争相手よりも、このジョブをうまく片づけていたわけです。「ドリルでなくて穴を買う」と似た意味で「ミルクシェイクではなく、気を紛らわすというジョブを買っていた」というお話です。
知っておくと得するのでは、と思う話をもう一つ。「小象の鎖」という話です。サーカスの象は、杭につながれた鎖で逃げられないことを小さな頃から学んでしまうため、大きくなって楽々と鎖を杭ごと引き抜くことができる力を得てからも、それを試そうともしなくなる、という例え話です。自分で自分の限界を決めてしまっていることの例として用いられることが多いですが、このような状況になってしまったことには、過去の環境が大きく影響を及ぼしています。やってみなければわからない、という気持ちがあれば、挑戦する気持ちになるかもしれませんが、過去の体験から「無理」と決めてしまって挑戦しなくなる、という話です。挑むこともなく諦めてしまう、というのも大局観の欠落です。これは小象の例え話にとどまらず、色々なところで散見される事象ではないかと思います。個人の話しに限らず、レビット氏のマーケティングマイオピアに見られるような例が、企業レベルでもたくさんあるように思います。この原稿を書いている段階でも、いくつもの有名企業が業績不振の影響から人員や営業拠点の削減を発表しています。もちろんそれぞれに色々な事情はあるとは思いますが、自社のドメインをこれ!と決めてしまい、実は杭を抜くことができるのに挑戦しなかった、という側面もあるのではないでしょうか?個人に限らず、企業が「うちはこういう会社」と決めてしまうことの危険性は、色々な事例が物語っています。自身の可能性をせまく限定することなく、大局観をもって環境変化に対応し、勝ち残っていきたいものです。
第7章まとめ
・多くのケースにおいて「善」か「悪」か、「正」か「誤」か、という価値基準は「相対的」である
・「Why型思考」とは、ある事象がなぜこのようになっているのか、等を深く考えて原因を下げっていく思考法
・「知性」と「知能」「知識」は違う概念
・3人のレンガ職人」「マーケティングマイオピア(近視眼)」「ジョブ理論」「小象の鎖」などは大局観の重要性をわかりやすく語ってくれている例
第7章「パースペクティブ6:俯瞰して観る力」今回で終了です!
次回からは、いよいよ最終章である第8章「我々はなぜ学ぶのか」に入ります!
それでは!第8章をお楽しみに!!
・この連載は全55回のシリーズです。
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