『鉄との戦い』|第3話:押し込まれるように
空気がすべてを決めていく──。気づけば「継ぐこと」になっていた。
※この物語は、町工場の二代目としての実体験をもとに描いています。
第3話では、“継ぐこと”をどうやって受け入れていったのか──
空気に押し込まれるように進んでいった、あのときのことを書きました。
押し込まれるように
父が倒れたとき、天国から地獄に落ちたように頭が真っ白になった。
あの時の、その経験があったから、後に父が大病を患って倒れた時も動じなかったのだろう。
楽かった、あの世界から一気に元の世界に引き込まれた。
勤めていた経理の職場では、「辞めるな」と引き止められた。
父のことは気がかりだったけれど、気持ちがついていかず、踏み出せなかった。
そのストレスからか、ある朝、朝礼中に倒れてしまった。
もともとやせ型だったのに、気づけば10キロ以上も痩せていた。
そんな状態の中で、「戻ってきてくれないか」と言われたとき、
もうすでに判断力なんて残っていなかったのかもしれない。
俺は“一時的に手伝うつもり”で戻った。
だけど、周囲の反応は違った。
父は、客先の集まりの場で、突然こう言った。
「こいつが継ぐから。後はもう俺は知らない」
責任を全部押しつけて、自分はもう関係ない――
そんな投げやりな言葉だった。
客先の前で言われてしまっては、否定もできなかった。
目の前の人たちも、何故か、そのまま納得していく。
誰も俺の気持ちなんか聞いていなかった。
その場の空気が、「もう決まったこと」にしていく。
しかも、具合が悪いはずの父は、戻ってみると案外ピンピンしていた。
むしろ俺のほうが、痩せこけて、心も体もボロボロだった。
俺はまた、空気に押し込まれるように、継がされていった。
「あとがき」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今思えば、あの時は「選んだ」というより「選ばされた」感覚に近かったのかもしれません。
それでも歩いてきた過去を、今こうして言葉にできることに感謝しています。
読んでくださる方の中に、何か響くものがあれば幸いです。
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