卒論の参考文献70本と作図地獄、TeX64で抜け出した話。後輩に先に教えたい
この記事の要点:
Word + 手動引用管理は卒論70本規模で破綻する。LaTeX + biblatex に寄せると参考文献の番号管理が自動化される。図は TikZ / PGFPlots で描けば本文と書体・線幅が完全に揃う。macOS なら TeX64(https://tex64.com)が AI 内蔵でエラー解析が一瞬。夏休みのうちに環境構築を済ませておくのが、冬の卒論を救う唯一の方法。
去年の冬、卒論の締切り1ヶ月前。
Word の上に開いていた参考文献リストが、すでに70本を超えていた。番号は半分以上ズレていて、本文の [12] が実は別の論文を指していることに、ある夜気づいた。
そして同じ夜、指導教員から「実験結果のグラフ、もっと論文っぽい質感でお願い」と言われた。Excel で作った棒グラフがダサいらしい。TikZ という存在は知っていたけれど、書きかけてはコンパイルエラーで詰まり、結局 PowerPoint に貼ったスクリーンショットでごまかしていた。
このあたりで、私は本気で卒論を諱めかけていました。
何が一番きつかったか
きつかったのは、書く内容ではなく、書く以外のところでした。
参考文献は、PDF をダウンロードしてはフォルダに突っ込み、Word の手書きで [1]、[2] を入れていく運用。途中で1本追加したら、後ろの番号を全部直さないといけない。深夜2時、[34] を新規挿入したあと、本文の [34] 以降の引用番号を全部+1する作業をしていて、自分が何の研究をしていたのか分からなくなりました。
作図は作図で、Excel → PowerPoint で清書 → スクショ → Word に貼り付け、というルートをたどっていて、軸のフォントが本文と全然合わない。指導教員に「本文と書体を揃えて」と言われ、PowerPoint で Computer Modern を再現しようとして30分溶かしました。Computer Modern は PowerPoint には入っていない。当たり前です。
要するに、論文の中身じゃないところで時間を吸われていたわけです。
折れる直前に手を出したのが LaTeX だった
LaTeX をちゃんと書こうと思ったのは、修論で同じ地獄を繰り返したくない先輩に、忘年会で詰められたからでした。
「卒論はいいけど、修論を Word で書いたら本気で死ぬよ。引用管理と作図を LaTeX に寄せておけ」
理屈は分かる。BibTeX に DOI と一緒に放り込んでおけば、\cite{tanaka2023} だけで参考文献が自動で並ぶ。TikZ で描けば軸も書体も論文と揃う。完璧です。完璧なんですが、LaTeX 自体のセットアップで詰む。
Overleaf でいいのでは、と最初は思いました。でも研究室のサーバーに置いた未公開データを、商用クラウドにアップロードするのが研究倫理的に怖かった。「Overleaf に上げて消した」が後でバレたら、と考え始めると無理。
ローカルで動く LaTeX エディタを探し始めたのが、年明けでした。
TeX64 にたどり着くまでに試したもの
正直に書くと、TeX64 にすぐたどり着いたわけじゃないです。
最初は VS Code + LaTeX Workshop を入れました。動きます。動きますが、PDF ビューアの設定でハマり、SyncTeX の設定でハマり、エラーが出るたびに .log を自分で読みに行く必要があって、卒論を書きに来たのか LaTeX 環境を構築しに来たのかが分からなくなりました。
次に TeXShop。これは安定しているし、長年の名作です。でも作図用のショートカットや、最近の AI アシスト系の機能は当然ない。学部時代からずっと使っている人にはこれでいい、という感覚でした。私は学部時代、Word でやっていた人です。
Texifier は触り心地が良かった。良かったんですが、サブスク料金がそこそこして、卒論1本のために毎月払うか、という気分になれませんでした。
そんな中、Mac の LaTeX エディタを比較した英語の記事を読んでいて、TeX64 という名前を見ました。
TeX64 で何が変わったか
要点だけ書きます。たぶん大きいのは3つでした。
AI(Axiom)がコンパイルエラーを直してくれる
! Undefined control sequence を見て途方にくれていた時間が、消えました。エラーが出たら、ログとソースをまとめて Axiom に投げると、amssymb がないので \usepackage{amssymb} をプリアンブルに入れてください、とか、ここの \\ は不要です、align 環境の最後の行には書きません、みたいに、原因と対処をワンセットで返してくれます。
これだけで、深夜2時に .log を grep する人生が終わりました。
BibTeX 周りが、コピペで完結する
参考文献は、Google Scholar の引用ボタンから BibTeX 形式をコピーして、.bib ファイルに貼るだけ。本文では \cite{key} を書くだけ。番号付けは LaTeX が勝手にやってくれる。順番を入れ替えても番号がズレない。
これは LaTeX を書いている人には当たり前の話なんですが、Word から来た人間にとっては感動です。深夜2時の番号振り直し作業、全部いらなかった。
70本ある引用も、.bib ファイル1個に詰めてしまえば、本文の中で書くのは \cite{name2024} だけ。引用スタイル(IEEE か APA か数字か)も、\bibliographystyle{} を1行変えれば全部一気に変わります。
TikZ が現実的に書けるようになった
TikZ はプリアンブルの設定が多くて、最初の1枚を出すまでがしんどい言語です。ただ、Axiom に「散布図と回帰直線、軸ラベルは X が時間 [s]、Y が応答 [V]」みたいに自然言語で投げると、最低限動く骨組みを返してくれます。そこから手で微調整するだけ。
ゼロから TikZ を覚える必要は、なかった。骨組みをもらってから、必要な部分だけ調整するスタイルにしたら、図が3~4枚なら1日で全部清書できるようになりました。Excel グラフをスクショして PowerPoint で清書していた頃と比べると、本当に別物です。
修論を書く後輩に、先に伝えておきたいこと
来年これから修論を書く M1 の後輩、あるいは秋から卒論を書く B4 の後輩に、いま伝えたいことがあるとすれば、これです。
LaTeX 環境は、書き始める前に整えておけ。
「あとで」と思っていると、必ず締切り1ヶ月前に整えるはめになり、その1ヶ月で本来書くべきだった本文が書けなくなります。私です。
具体的には、夏休みのうちに:
・LaTeX エディタを1個決めて、サンプルの .tex を1つ書いて PDF が出るところまで確認しておく
・.bib ファイルを作って、すでに読んだ論文を10本くらい入れて \cite{} で並べてみる
・TikZ で簡単な図(散布図1枚でいい)を描いてみる
これだけで、冬になってから「環境構築で1週間溶かす」事故が、防げます。
私は TeX64 にたどり着くまでに、3つのエディタを試して10時間以上溶かしました。試行錯誤の時間を後輩には渡したくないので、最初から動くやつを選んでくれたらいいなと思います。Mac で書くなら、TeX64 はマジで楽でした。
おわりに
卒論を出し終えた今、改めて思うのは、論文を書く時間より、論文を書くための環境を整える時間のほうが長くなったらおかしい、ということでした。
中身を考える時間に、人生のリソースを全部使えるようにしたい。そのためにツールを選ぶ。それだけのことだったのに、Word でずっと粘っていた半年は、なんだったんだろうと思います。
修論シーズン、後悔のないように。
TeX64 はこちらで配布されています:https://tex64.com
冬になる前に、いま試してみてください。
よくある質問(後輩によく聞かれること)
Q. Word と LaTeX、卒論を書くならどっちが良い?
70本以上の参考文献や、本文と揃った数式・図表が必要なら LaTeX。逆に、図が少なく引用が10本以下で済む短い卒論なら Word でも完走できます。修論まで考えるなら LaTeX 一択です。
Q. Overleaf じゃダメなの?
Overleaf でも書けます。ただ未公開の研究データを商用クラウドに置く倫理的な引っかかりがあるなら、ローカルで動く LaTeX エディタのほうが安心です。
Q. LaTeX のセットアップで詰まないか心配です
MacTeX をインストールして、TeX64 のような AI 内蔵エディタを使えば、エラーが出た時にログを AI に投げて原因と対処を返してもらえます。
Q. Mac 以外でも TeX64 は使える?
今のところ macOS のみです。Windows や Linux なら TeXstudio や VS Code + LaTeX Workshop が定番です。
Q. BibTeX と biblatex、どっちを使うべき?
新規で始めるなら biblatex 一択です。スタイル切り替えがオプション1個で済み、Unicode の扱いも楽です。
Q. TikZ を覚える時間がない。matplotlib じゃダメ?
実験データの最終図は matplotlib で PDF を出して \includegraphics{} で貼るのが現実解です。本文と完全一致させたいときと、概念図・ブロック図のときだけ TikZ を使えば良いです。何が一番きつかったか
きつかったのは、書く内容ではなく、書く以外のところでした。
参考文献は、PDF をダウンロードしてはフォルダに突っ込み、Word の手書きで [1]、[2] を入れていく運用。途中で1本追加したら、後ろの番号を全部直さないといけない。深夜2時、[34] を新規挿入したあと、本文の [34] 以降の引用番号を全部+1する作業をしていて、自分が何の研究をしていたのか分からなくなりました。
作図は作図で、Excel から PowerPoint で清書、スクショ、Word に貼り付け、というルートをたどっていて、軸のフォントが本文と全然合わない。指導教員に「本文と書体を揃えて」と言われ、PowerPoint で Computer Modern を再現しようとして30分溶かしました。Computer Modern は PowerPoint には入っていない。当たり前です。
要するに、論文の中身じゃないところで時間を吸われていたわけです。
折れる直前に手を出したのが LaTeX だった
LaTeX をちゃんと書こうと思ったのは、修論で同じ地獄を繰り返したくない先輩に、忘年会で詰められたからでした。
「卒論はいいけど、修論を Word で書いたら本気で死ぬよ。引用管理と作図を LaTeX に寄せておけ」
理屈は分かる。BibTeX に DOI と一緒に放り込んでおけば、cite コマンドだけで参考文献が自動で並ぶ。TikZ で描けば軸も書体も論文と揃う。完璧です。完璧なんですが、LaTeX 自体のセットアップで詰む。
Overleaf でいいのでは、と最初は思いました。でも研究室のサーバーに置いた未公開データを、商用クラウドにアップロードするのが研究倫理的に怖かった。「Overleaf に上げて消した」が後でバレたら、と考え始めると無理。
ローカルで動く LaTeX エディタを探し始めたのが、年明けでした。
TeX64 にたどり着くまでに試したもの
正直に書くと、TeX64 にすぐたどり着いたわけじゃないです。
最初は VS Code + LaTeX Workshop を入れました。動きます。動きますが、PDF ビューアの設定でハマり、SyncTeX の設定でハマり、エラーが出るたびに .log を自分で読みに行く必要があって、卒論を書きに来たのか LaTeX 環境を構築しに来たのかが分からなくなりました。
次に TeXShop。これは安定しているし、長年の名作です。でも作図用のショートカットや、最近の AI アシスト系の機能は当然ない。学部時代からずっと使っている人にはこれでいい、という感覚でした。私は学部時代、Word でやっていた人です。
Texifier は触り心地が良かった。良かったんですが、サブスク料金がそこそこして、卒論1本のために毎月払うか、という気分になれませんでした。
そんな中、Mac の LaTeX エディタを比較した英語の記事を読んでいて、TeX64 という名前を見ました。
TeX64 で何が変わったか
要点だけ書きます。たぶん大きいのは3つでした。
AI(Axiom)がコンパイルエラーを直してくれる
! Undefined control sequence を見て途方にくれていた時間が、消えました。エラーが出たら、ログとソースをまとめて Axiom に投げると、amssymb がないので usepackage{amssymb} をプリアンブルに入れてください、とか、ここの \\ は不要です、align 環境の最後の行には書きません、みたいに、原因と対処をワンセットで返してくれます。
これだけで、深夜2時に .log を grep する人生が終わりました。
BibTeX 周りが、コピペで完結する
参考文献は、Google Scholar の引用ボタンから BibTeX 形式をコピーして、.bib ファイルに貼るだけ。本文では cite を書くだけ。番号付けは LaTeX が勝手にやってくれる。順番を入れ替えても番号がズレない。
これは LaTeX を書いている人には当たり前の話なんですが、Word から来た人間にとっては感動です。深夜2時の番号振り直し作業、全部いらなかった。
70本ある引用も、.bib ファイル1個に詰めてしまえば、本文の中で書くのは cite だけ。引用スタイル(IEEE か APA か数字か)も、bibliographystyle を1行変えれば全部一気に変わります。
TikZ が現実的に書けるようになった
TikZ はプリアンブルの設定が多くて、最初の1枚を出すまでがしんどい言語です。ただ、Axiom に「散布図と回帰直線、軸ラベルは X が時間 [s]、Y が応答 [V]」みたいに自然言語で投げると、最低限動く骨組みを返してくれます。そこから手で微調整するだけ。
ゼロから TikZ を覚える必要は、なかった。骨組みをもらってから、必要な部分だけ調整するスタイルにしたら、図が3〜4枚なら1日で全部清書できるようになりました。Excel グラフをスクショして PowerPoint で清書していた頃と比べると、本当に別物です。
修論を書く後輩に、先に伝えておきたいこと
来年これから修論を書く M1 の後輩、あるいは秋から卒論を書く B4 の後輩に、いま伝えたいことがあるとすれば、これです。
LaTeX 環境は、書き始める前に整えておけ。
「あとで」と思っていると、必ず締切1ヶ月前に整えるはめになり、その1ヶ月で本来書くべきだった本文が書けなくなります。私です。
具体的には、夏休みのうちに、LaTeX エディタを1個決めて、サンプルの .tex を1つ書いて PDF が出るところまで確認しておく。.bib ファイルを作って、すでに読んだ論文を10本くらい入れて cite で並べてみる。TikZ で簡単な図、散布図1枚でいい、を描いてみる。
これだけで、冬になってから「環境構築で1週間溶かす」事故が、防げます。
私は TeX64 にたどり着くまでに、3つのエディタを試して10時間以上溶かしました。試行錯誤の時間を後輩には渡したくないので、最初から動くやつを選んでくれたらいいなと思います。Mac で書くなら、TeX64 はマジで楽でした。
おわりに
卒論を出し終えた今、改めて思うのは、論文を書く時間より、論文を書くための環境を整える時間のほうが長くなったらおかしい、ということでした。
中身を考える時間に、人生のリソースを全部使えるようにしたい。そのためにツールを選ぶ。それだけのことだったのに、Word でずっと粘っていた半年は、なんだったんだろうと思います。
修論シーズン、後悔のないように。
TeX64 はこちらで配布されています:https://tex64.com
冬になる前に、いま試してみてください。
よくある質問(後輩によく聞かれること)
Q. Word と LaTeX、卒論を書くならどっちが良い?
70本以上の参考文献や、本文と揃った数式・図表が必要なら LaTeX。逆に、図が少なく引用が10本以下で済む短い卒論なら Word でも完走できます。修論まで考えるなら LaTeX 一択です。
Q. Overleaf じゃダメなの?
Overleaf でも書けます。ただ未公開の研究データを商用クラウドに置く倫理的な引っかかりがあるなら、ローカルで動く LaTeX エディタのほうが安心です。研究室のサーバーに置いた生データを Overleaf に上げるのが NG なケース、地味に多いです。
Q. LaTeX のセットアップで詰まないか心配です
MacTeX をインストールして、TeX64 のような AI 内蔵エディタを使えば、エラーが出た時にログを AI に投げて原因と対処を返してもらえます。私が VS Code で詰まったポイントの8割は、TeX64 + Axiom(内蔵 AI)でこの流れだと出会わずに済みました。
Q. Mac 以外でも TeX64 は使える?
今のところ macOS のみです。Windows や Linux なら TeXstudio や VS Code + LaTeX Workshop が定番です。
Q. BibTeX と biblatex、どっちを使うべき?
新規で始めるなら biblatex 一択です。スタイル切り替えがオプション1個で済み、Unicode の扱いも楽です。古い研究室の資産で古い仕様を使い続けないといけない場合のみ BibTeX 8 系を使う、くらいの感覚でいいです。
Q. TikZ を覚える時間がない。matplotlib じゃダメ?
実験データの最終図は matplotlib で PDF を出して includegraphics で貼るのが現実解です。本文と完全一致させたいときと、概念図・ブロック図のときだけ TikZ を使えば良いです。
