AIの絵が「AIっぽい」のは、紙に描かれていないから説。——9,936枚を選別して、下地ツールを作った話
「AIっぽい」って、結局なんだろう。ずっと探して、9,936枚を手で見比べて、たぶん答えが出た。——絵が「紙に乗っていない」からだ。
※この記事は、AI作品に紙やキャンバスの質感を与えるWebツール「AI下地くん(Mr. Ground)」を作った記録です。美大出身の人間がAIと組んで何を考えたかの話として読んでもらえたら。

「AIっぽさ」の正体に関する説を打ち立ててみた。
AIで生成した作品を作って、なんとなく「AIっぽい」と感じたことはないだろうか。破綻はしていない。指も6本ない。でも、なにかが軽い。
僕はずっとその「なにか」の正体を探していた。日本画を高校でやって、公立の芸大で芸術学を学んで、イギリスで博物館学の修士を取った。
ずっと「モノとしての絵」を見てきた人間だ。その目で言うと、AIの絵に足りないのは、
「何に描かれているか」なのではないかと思う。——絵が乗っている物質の感触だ。
ぼくがずっと追い求めている質感のうちのひとつだ。
油絵にはキャンバスの織り目があり、水墨には紙の滲みがあり、木版画には紙の凹凸に喰い込んだインクがある。
絵の具は必ず「何かの上」に乗せられ、固まる。
ところがAIの画像は、生まれた瞬間からスクリーンの中の均質なピクセルで、乗っていない。乗っている感がしない。
浮いている。それが少なからずAIっぽさにつながっているのではないか?
だったら、乗せてみまひょ。
それがこのツールAI下地くんの出発点。
紙は、置き物ではなく「作品の下地」
画家は、絵を描く前にまず最初に道具にお金をかける。筆、絵の具、そしてキャンバス。
キャンバスを買ってきて自分で布だったり、紙を貼る。ここの手抜きをすると作品がだめになると本気で教え込まれている。
やっていることは単純に聞こえる。画像に紙のテクスチャを重ねるだけ。
でも、ただ乗算で重ねると失敗する。紙の凹凸は、絵の明るい部分と暗い部分で見え方が違うからだ。
物理学の現象。物質に光がどう反射するか?
木炭紙は暗いベタ塗りの中でこそ粒が立つし、薄い和紙は明るい余白でこそ繊維が透ける。
だからAI下地くんは、画像の輝度に応じて紙の効き方を変える「輝度応答カーブ」を採用してできている。
画材が物理的にやっていることを、数式で真似ている。


9,936枚を、自分の目で
ここからが本題で、たぶんこの記事で一番画狂な部分だ。
所詮AI絵でしょ?と言われたくない、美術畑の端くれがつくったツールと分かってもらうためのパートだ。
紙を敷けば必ず良くなるわけではない。絵と紙には相性がある。
それは美術の歴史が証明してきた。
デジタル作品でもそれは同じなのか、それを確かめるために、
僕は手持ちのAI画像184枚と、紙・キャンバス・効果素材54種を総当たりで合成した。
9,936枚。それを全部、自分の目で見て、◯✕△を付けた。
※今は他の実験で数はもっと増えている。。。
ひたすら送りキーを叩き続けた。
自分でも、作品の出来に執着する厄介な客だと自分でも思う。
でも、いいものをAI絵でもつくりたい。
やってみてわかったことは、想定より厳しかった。
9割は、紙が絵を殺す。
相性が合わないと、質感はただの汚れになる。
でも残りの1割——正しい紙が当たった絵は、「作品の表情や表現」に昇格する。
ピクセルの絵が、版画や日本画のような「美術作品」に見え始める。
この瞬間のためにツールを作った。
これを多くの絵師にも体験してもらいたい。
そして、負けた9割にも法則があった。
目視で分類すると、質感を受け付けない絵は4つの型に分かれる。
①すでに絵の中に紙や筆致が描き込まれている絵(紙の嘘が二重になって割れる)
②写実的な肌にボケた背景の絵(レンズの奥行きと紙の平面が喧嘩する)
③手の痕跡ゼロのフラットなベクター絵(塗りつぶしの平面色に粒が乗ると「汚れ」に見える)
④画面が図で埋まって余白がない絵(紙が棲む場所がない)。
この分類は、そのままツールの「この絵には敷かない方がいい」という判断ロジックになる。
敷けるとしか言わないツールより、敷かない方がいいと言えるツールの方を、僕は信用する。

一番の発見は、銭湯のタイルだった
素材の中で一番の当たりは、意外なものだった。
和紙でも木炭紙でもなく、9KBしかない昭和レトロなガラスタイルの写真。
これを金地の絵に敷くと、タイルの目地が金屏風の「箔足」——金箔を継いだ跡——に見える。
着物の上ではクラクルーア(古画のひび割れ)になり、無地の背景では壁になる。
1枚の素材が、絵の場所によって別々の嘘をつく。
美術の知識で「こういう紙が効くはずだ」と予想したものより、総当たりが見つけてきた番狂わせの方が面白かった。ああ、ハプニングああハプニング
約束を。あなたの画像は、1秒も保存しない
技術より、思想の話を一つ。
このツールは、あなたがアップロードした画像をサーバに保存しない。合成の処理をして、結果を返した瞬間に、メモリから消える。
「消去する」機能をつけたのではなく、そもそも「保存する」コードが1行も無い。
紙を貸す表具屋のようなもので、あなたの絵を預かって、表装して、お返しして、それで終わり。
奥に控えを取ったりしない。
僕だって絵師の端くれ。作風を学習されたくない。
だから約束する。
そして、制約。
素材の紙も、あなたには渡らない。ブラウザに映るのは小さな見本だけで、紙そのものはサーバの奥にある。
プレビュー画像には薄く版元印を焼いてある。これは「サイン」ではなく「焼き印」だ——署名は作者がするもの、焼き印は所有者がいる素材の証。
プレビューはうちの紙のまま、書き出して初めてあなたの作品になる。嫌なら、消す一手間はかけてもらう。
それが、制約。
撤退した製品の、2周目
正直に書いておくと、この下地くんには兄がいる。
「AI和指紋くん」という、AI画像に見えない透かしを入れて盗用を証明する製品を、以前作って、そして撤退した。
理由は、僕の能力では絵師の作品を守りきるツールにならなかったから。
でも、その時に作った合成エンジンも、決済の仕組みも、消さずに取ってあった。
下地くんは、その骨格の上に立っている。合成エンジンは透かしの技術の転用だし、サーバの土台も課金の仕組みも兄の遺産だ。
失敗した製品は、部品になって次の製品を支えている。撤退は終わりではなく、資産の棚卸しだったのだと、今は思える。
白状:作りながら、一度やらかした
格好つけて終わるのも嘘くさいので、ひとつ白状する。このツールを公開した直後、僕は重大なミスをしていた。サーバの奥にあるはずの素材データが、実は設定ミスで誰でもダウンロードできる状態になっていた。「1秒も保存しない」「紙は渡さない」と胸を張っておいて、心臓が丸見えだったのだ。
幸い、まだ誰にも宣伝していないURLだったので、実害が出る前に塞げた。でも、この手のミスはいつでも起こりうる。だから僕は、セキュリティを「絶対大丈夫」と言い切らないことにした。約束は約束として書き、確かめたい人にはコードを見せ、いずれは第三者の診断も受ける。完璧を演じるより、直し続ける姿を見せる方が、たぶん誠実だと思う。
AI作品を、質感の側面からグレードアップさせる存在になりたい
AIの絵はこれからも増える。
そして「AIでここまでできる」という新規性の驚きは、必ず値下がりする。
誰でも同じ出力が出せるようになった瞬間、その驚きはゼロになる。
残るのは、驚きを剥がしても残るものだ。作家が出力にどう手を入れたか。どんな物質感を与えたか。それを僕は「質感」と呼んでいる。
AI下地くんは、その質感を誰でも扱えるようにする、小さな道具だ。
ここまでは、著作権の切れた絵で試した話だ。でも、次に紙を敷くのは、あなたの画像・動画作品であってほしい。手持ちの1枚をアップして、9割の「殺す」に入るか、1割の「昇格」に入るか——たぶん、やってみるまで分からない。そして当たった時、AI下地くんを好きになってくれると思う。
いま、開店ベータをやっている。
全部の下地を開放していて、感想をくれた先着50名には、その後も全種類を使える特典をつけた。もし触ってみて何か感じたら、コメント欄に書いてくれると嬉しい。
あなたの「なんか良くなった」という気持ちになって創作の幅が広がっていくオトモになるといいなと思う。

AI下地くん(Mr. Ground):texture-lora-lab.com/ground.html
※ブラウザだけで動きます。スマホでも動きます。無料。
特典は開店ベータの今だけ。感想をくれた先着50名は、ベータが終わっても全種類の下地をずっと使える。お金はかからない。要るのは、あなたの絵を1枚アップする手間だけ。
(この記事の合成例はすべて、菱田春草など著作権の切れた作品からの着想でAI生成したものに、AI下地くんで質感を与えています。)
