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【第20話】新工場よりも濃い面々

前回の続き。。

これから駐在員として働くタイの新工場に到着。

蒸し暑い空気の中、敷地内に一歩足を踏み入れた瞬間、工場完成間近とは思えないほど静まり返った空間に、妙な緊張感が走る。
大丈夫なのか?という不安もあったがここは任せるしかない。

次に案内されたのは、これから俺たちが仕えることになる社長の部屋だった。

「お疲れ様です! よく来てくれましたね!」

社長は第一声から熱がこもっていた。

日本の親会社からこの工場を任されて3ヶ月ほど前から駐在がはじまったという。年齢は59歳と教えてくれたが、実年齢よりずっと若く見える。
会社からの命令で海外赴任している身のはずなのに、疲れた様子や愚痴っぽさは微塵も感じられない。
少しも腐っていない。むしろ、目が生き生きと輝いている。

(ウチの社長とは大違いだな…)

まぁ、俺達を受け入れる立場の人間、しかも初対面で「地獄へようこそ」とは言わないだろうが。

そんなことを思いながら、俺は少し背筋を伸ばした。

社長はタイでの生活について、タイの経済状況について、そしてこの工場にかける思いを情熱的に語ってくれた。

「どこにも負けない業界No.1の生産工場を作り上げたいんだ」

その口調からは、冗談や建前ではなく、本気の気持ちが伝わってきた。

語り口は決して威圧的ではない。だがその一言一言には、異国の地で会社の看板を背負った男の実感と重みがあった。

「近年、日系企業が続々とタイへ進出している。製造も、飲食も、サービス業も。でも、ただ来れば成功するわけじゃない。我々がどう存在意義を示し、信頼を勝ち取っていくか…それが問われている。」

淡々と、けれど熱を帯びた声だった。
俺たちに過度なプレッシャーを与えるでもなく、安易な楽観を与えるわけでもない。
現実の厳しさと、そこに挑む価値と意義を、静かに、丁寧に伝えてくれる。

その語りには、不思議な説得力があった。まるで荒波の先に微かに光る希望のような。
そして気づけば、俺は目の前の社長の姿に見入っていた。
言葉の奥にある覚悟に、胸の奥が少しずつ熱くなるのを感じた。

ここで何をするべきか──
その答えはまだ漠然としていたが、確かに俺の中に、覚悟と責任感のようなものが芽生え始めていた。

そんな余韻が胸に残ったまま、次の予定へと移る。
初期段階から一緒に働くことになるタイ人スタッフ数名との顔合わせだ。通訳を務めてくれるのは、いつも頼りになるYさん

タイ人A「僕の名前はバンク(BANK)です」
タイ人B「僕の名前はゴルフ(GOLF)です」

(バンクにゴルフ…??なんだその名前は!?)

思わず吹き出しそうになるのを堪えると、すかさずYさんが説明してくれた。

「タイ人はみんな、生まれたときに親からニックネームをつけてもらうんですよ」

「じゃあ… 親父さんがゴルフ好きだったとか?」

「(笑)いえいえ、だいたいはインスピレーションとか、呼びやすさが理由みたいです(笑)」

「確かに”銀行が好き”ってのも、ちょっと下心を感じますよね(笑)」

「ちなみに“ビール”なんて人もいますよ。でもそれはたぶん自分の趣味でしょうね(笑)」

(さすがタイランド… ネーミングからして自由すぎる…)
(昨日М先輩が指名したcatは、まだ可愛らしいもんだ…)

異文化ってやつを、さっそく全身で浴びている感覚だ。

そのあと昼食は社員食堂、通称”キャンティーン”でいただくことに。
プラスチック製のお皿に盛られた白ご飯の上に、すでに作り置かれているオカズを豪快にぶっかけるスタイル。
いわゆる’’ザ・タイ飯”ってやつだ。

今でこそ日本でもガパオライスなんかが一般的になったが、この当時は”タイ料理=辛い謎の料理”というイメージしかなかった俺にとって、やや抵抗があった。しかも米粒が長い

だが、食べてみるとこれが意外とうまい。
しかも20バーツ。日本円にして…え?約60円!? 安すぎる。

と、感動していたそのときだった。

(あれ…? 奥で料理を作ってるあの人… なんか違和感が…)

スリムな体型にロングヘアー、パッと見はメイクもバッチリ……でもよく見ると顔はオジさん。しかし女性の象徴が平均より大きく備わっている。

「会社にオカマちゃん…?」

日本のTVで見たことのある美しい系のニューハーフではないが、妙な説得力と存在感があった。

俺の視線を見てYさんがいう。

「タイではよく見かけますよ。ごく普通のことです(笑)」

(アメージング・タイランド……だな、こりゃ)

初めてづくしの視察2日目。
驚き、笑い、ちょっとした感動。
すべてが新鮮で、どこか熱を帯びていた。

この国で、俺たちは本当にやっていけるのか?
そんな不安が、少しだけ安心に変わった日になった。

タイの一般社会にはオカマちゃんが普通に進出している

▶️【第21話】視察という名の冒険が終わる に、続く

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