【コーヒーブレイク】夢想⑤
ドジャースの大谷翔平選手が、遂に2年連続の50本塁打を達成した。
現役選手では唯一、また、百年を超える長い歴史を有するメジャーリーグでもレジェンドと呼ばれる5名の選手しか成し遂げたことのない大記録である。
ドジャースの地元、ロスアンゼルスも街を挙げてのお祭り騒ぎだ。
試合後、この大記録を祝して、記者会見が行われた。
アメリカや日本を中心に、多くの報道陣が会見場を埋め尽くし、見たこともないほどたくさんのカメラがこの会見の模様を一瞬たりとも逃すまいと映し続けていた。
アメリカや日本では生中継しているTV局も多かった。
お祝いムードで包まれた会見場では、大谷選手が言葉を発するたびに、笑いが起きる。
皆、晴れやかな笑顔だ。
ここで、司会者がイタズラっぽい微笑みを浮かべながら、英語で、こうアナウンスした。
「翔平、ここで、あなたにビッグサプライズよ。
あなたのこの偉業をお祝いするために、なんと、日本から、スペシャルゲストが来てくれているのよ!」
大谷選手は想定外のアナウンスに驚きを隠せず、また、報道陣もざわついた。
「イチロースズキじゃないのか?」
「ヒデオノモかもしれないぞ!」
「間違いなく、レジェンドクラスのゲストが現れるハズだ!」
そして、遂に、司会者が、スペシャルゲストを呼び込んだ。
「それでは、お呼びしましょう。
翔平も憧れている、日本を代表するエンターテイナー、ダイアン津田さんよ!
津田さん、どうぞ!」
津田がタキシードに身を包み、大きな花束を抱え、満面の笑顔で会見場へ入場してきた。
「あれは誰だ?」
「日本でそんなに有名なタレントなのか?」
「おい、すぐにネットを調べろ!」
報道陣がざわめいている。
しかし、報道陣は、さらにざわめくことになる。
「おい、見ろ!
翔平が花束を受け取りながら、戸惑いを隠せない表情をしているぞ!」
「翔平が、「こいつ、誰や?」みたいなリアクションだぞ!」
実際、津田から花束を受け取った大谷選手は、司会者や球団関係者をキョロキョロと見回して、目で
「これ、誰?」
と訴えている。
津田も、会見場の異様な雰囲気を感じ取り、表情を強張らせていた。
冷や汗が噴き出す。
おい、これ、どないなっとんねん!?
大谷選手が俺の大ファンや言うから喜び勇んで来たのに、なんや、全然聞いてたんと違うやないか!
大谷選手、絶対、俺のこと、知らんやん!
大汗を額に浮かべながら、津田は舞台袖にいるマネージャーに訴え掛けるような視線を向け、
「ど う し た ら え え ね ん ?」
と声を発さず、口の形だけで伝えた。
マネージャーが、慌てて、スケッチブックにサインペンを走らせ、津田に掲げる。
「とりあえず、ゴイゴイスー!」
津田は、左手をお腹に当て、人差し指だけを立てた右手を斜め下へ伸ばし、いつもよりも早口で声を張った。
ゴイゴイスー!
大谷選手は鳩が豆鉄砲でも食らったような表情だ。
会見場のざわつきは、もうMAXになっている。
マネージャーが津田へ、再び、スケッチブックを掲げる。
「早く逃げて!」
津田は、目を泳がせながら、辛うじて笑顔を作り、バイバイと右手を上げて、早足でマネージャーの元へ逃げた。
その背後で、司会者が
「翔平、ごめんなさい。
とんでもないミステイクがあったみたい。」
と話し、会場中が安堵の笑いに包まれるのが聞こえた。
「おかしい思たんや、もう!
大谷選手が俺のファンなんて聞いたこと、なかったもん!
そんなん、ちゃんと確認しといてや!」
まだ切れていなかった津田のマイクが、津田の悲壮な声を拾い、生中継の電波に乗せ、世界中へと届けた。
やっぱ、なかったかぁ〜。
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