村山富市さんの訃報に寄せて 〜日本政治とリーダー不在の現在〜
自民党総裁選以降、自公連立の解消を契機に、どことどこの政党が連携するのか、誰が内閣総理大臣になるのか、各党が激しく動いている。
そんな中、かつて、自民党・社会党・新党さきがけの連立政権で内閣総理大臣を務めた社会党の村山富市さんが101歳で大往生された。
自民党が下野し、野党の大連立で発足した細川護熙内閣、続く羽田孜内閣から、再び、自民党が内閣の中枢へと舞い戻ることとなったのが、この村山富市内閣の時だった。
戦後、日本の政治の中枢には、常に自民党がいた。
かつて、自民党は複数の派閥から成り、派閥の領袖が、それぞれ、自民党総裁、さらには、その先にある内閣総理大臣の座を競っていた。
派閥の領袖は、派閥の議員に選挙で様々な支援をし、内閣総理大臣に就いた際、或いは他の派閥から内閣総理大臣が生まれた際には、派閥の議員が大臣の座に就けるよう、汗をかいた。
一方で、派閥の議員は、自派閥の領袖が自民党総裁に就けるよう、一致団結した。
派閥政治の象徴的な一例が、“三角大福中”である。
三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘の五人を指す言葉だが、彼らは派閥の領袖であり、全員が内閣総理大臣の座に座っている。
派閥では、領袖が派閥の議員を選挙で支援等すると書いたが、その一つが選挙資金の支援だったりする。
このため、派閥の領袖は、企業団体献金を集めたり、政治資金パーティーを開いたりし、資金集めに奔走した。
政治資金パーティーは、一人数万円のパーティー券を支援者等に売り、ホテルの宴会場等で、派閥の領袖が講演を行う立食パーティーを開く類のものだった。
そんな派閥の領袖の代表的な存在が田中角栄氏だ。
田中氏は、若く、政治家として実力があり、大臣等のキャリアも着々と積み上げ、多くの陳情をてきぱきとこなし、さらに、地元・新潟では建設会社やバス会社等の経営に強く関与し、資金集めの点でも抜きん出た領袖だった。
少し横道に逸れるが、田中氏の合理的な発想の一端を知れる逸話がある。
田中氏は越山交通というバス会社の経営に強く関与していた。
なぜ、鉄道ではなく、バスなのか?
田中氏の考え方はこうだ。
鉄道であれば、自社で土地を持ち、線路を引き、それを維持管理する必要が生じる。
けれども、バスであれば、通行する道路の整備も維持管理も公共が行ってくれる。
つまりは、バス会社の方が自社の初期投資も、ランニングコストも、少なくて済むのである。
話を戻す。
田中氏は、自民党でも最大の派閥、田中派を率い、内閣総理大臣にもなったが、ジャーナリスト立花隆氏が明らかにした田中金脈政治を、海外メディアが取り上げ(国内のメディアは権力者である田中氏に忖度したようで、当初、静観を決め込んでいたようだ。)、外国人記者クラブでの田中氏の記者会見を契機に日本国内でも、金脈政治が問題視されるようになった。
さらに、ロッキード事件が起き、田中氏が逮捕されるに至り、田中氏は内閣総理大臣の座を離れることとなった。
こうして、派閥政治、自民党政治の資金集めなどが問題視され、政治家が大金を集め、それがどう使われているのかがわからない実態に、国民からも大きな批判が集まり、その根幹的な原因が派閥政治とされたことで、やがて、自民党では、大半の派閥が姿を消した。
現在、日本の政界では、確たるリーダーがいないと言われる。
それに比べ、“三角大福中”の時代は、綺羅星の如きリーダーが何人もいた。
僕は金脈政治が正しいと言うつもりもないし、むしろ、票を多く持つ団体や企業に寄った政治が良いとは思わないし、そもそも、今となっては、もう、派閥政治に後戻りすることもない。
けれども、僕は、派閥の解消が間違いなく、日本の政治のリーダー不足を招き、自民党の弱体化を招いたと考えている。
自民党が確実に内閣総理大臣を輩出していた時代、それぞれの派閥が自派閥の領袖を総理総裁にしようと結束したし、領袖も派閥を結束させるために総理総裁の座を目指した。
すなわち、各派閥や派閥の領袖は、総理総裁の座を得るべく、切磋琢磨し、勝者は内閣総理大臣となったのだ。
だからこそ、政界のリーダーとなる人材が育っていたのだと確信している。
自民党の長期安定政権の時代、公明党、民主党、社会党、共産党といった野党があったが、共産党が共産主義を体現するように、極端に左寄り(革新系)であるのに比べ、社会党は左寄りとは言いながら、そこまで極端ではなかったため、自民党に次ぐ第二党の座に長く座っていた。
右寄り(保守系)の第一党・自民党と社会党とが、左右の主義主張を有する有権者の受け皿として、長らく安定していたのだ。
しかし、資金集めや派閥が社会的に否定され、制度的にも厳しく縛られるようになる中で、自民党安定政権も弱体化し、遂に下野するに至った時代に、長年、ライバル関係にあった社会党と連立することで自民党が再び内閣の中核へと舞い戻る際に、自社さ連立政権のトップとして内閣総理大臣の座に就いたのが村山富市氏だったのである。
村山氏は、内閣総理大臣の座に就くことで、日本政界を取り巻く国内外の様々な関係性や経緯、課題の中、判断を迫られ、旧来、社会党として反対してきたことについても現実的な判断を行わねばならない立場に立たされることとなった。
その結果、社会党は、それまでの主張の一貫性を失う面も顕在化し、その後、弱体化の一途を辿ることとなってしまった。
今の、自民党が過半数を大きく割り込み、再び、下野する可能性が生じる中、政党間の思惑が錯綜し、駆け引きが活発化している状況において、村山富市さんが亡くなられたことに、僕は運命的なことを感じ、本稿を書いています。
派閥政治の、金銭面での灰色の部分や、一部の企業や団体寄りの部分という課題に目を瞑る代わりに、確たる政治リーダーがいることを是とするのか?
それとも、公平・公正でクリーンな政治が行われる代わりに、リーダー不在の日本政界を許容するのか?
僕は、確たるリーダーが日本の政治を率い、世界でも存在感を発揮し、コロナ禍のような非常時においても、決断力をもって速やかに対処できる方が国益に叶っていたように思っている。
もっとも、今となっては叶わぬ夢のようになってしまっているけれども。
先ほどのニュース速報によれば、自民党と日本維新の会とが大筋合意を成し、日本維新の会が閣外協力する形で、自民党政権が誕生する方向性が見えてきたとのことだ。
単なる数合わせとなり、個々の政策について、是々非々で判断される中で、何も決められず、政治が停滞してしまうような事態に陥らなければ良いのだが。
リーダー不在と言いながら、独裁者は要らない。
複数のリーダーがいて、互いに牽制し合う中、確たるリーダーが日本の政治を率いることができるよう、派閥政治に代わる仕組みが必要なのだと思うけれど、果たして、そんな仕組みが、今後、生まれることはあり得るのだろうか?
皆さんは、どう思われますか?
村山富市さんの長年に亘る日本政治へのご貢献に敬意を表し、心よりご冥福をお祈りし、本稿を締め括りたいと思います。
長文となりましたが、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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※写真は東京新聞のものを掲載させていただいています
