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回顧録 スペイン バルセロナへ ECイーコマース市場調査の旅路

2008年の初夏、ロンドンと上海を行き来する日々の合間に訪れたバルセロナは、まるで異なる世界の扉を開いたかのようだった。ロンドンの重たい雲とは正反対に、地中海の陽光は石畳を白く照らし、街全体を柔らかな輝きで包み込んでいた。

中でも目を奪われたのは、ガウディの最高傑作と呼ばれるサグラダ・ファミリアだった。天空へ伸びる尖塔は、まるで大きな生き物のようにそびえ立ち、その姿は現実と幻想の狭間に立つ巨大な彫刻のようで、どこかアニメ作品の世界を思わせるほど異彩を放っていた。

その後、観光バスで市街や丘を一周し、終着点の港に降り立つと、潮の香りと共に海鳥の声が耳に届いた。そのまま歩を進めると、活気あるランブラス通りへと導かれた。そこでは人々の笑い声と音楽が溶け合い、遠くから運ばれる海の匂いが旅人の心を誘っていた。通りの喧騒を抜けると、ゴシック地区の石畳の路地が広がり、古い壁に刻まれた歴史の影と、路地裏の小さなバルから漂う香りが交錯していた。

食事は何度もパエリアを味わった。saffron の黄金色と海の幸が並ぶ皿を前にすると、調査という名目はすっかり霞み、ただこの街の生命力に身を浸していた。その瞬間、いつかこの街に身を置き、暮らしてみたいという強い衝動が心の奥底から湧き上がってきた。


パエリアの香りに包まれながら過ごしたその日々の裏で、スペインの経済はまだ力強さを見せていた。2007年当時、GDPは3%を超える成長を記録し、不動産と建設が街の活気を支えていた。失業率も8%前後と安定し、表面上は穏やかな繁栄に包まれていたのだ。

しかし、私が本当に目を奪われたのは、街角ではなく数字の中にあった。EC市場。電子商取引は、この年に前年比71%以上という驚異的な伸びを示し、規模は約47億ユーロに達していた。利用者はまだ国民の一割ほどに過ぎず、バルや市場での買い物が主流であることに変わりはなかった。それでも、この小さな数字の裏には確かな胎動があった。

当時の主役は、いまのようなAmazonではなかった。百貨店系の El Corte Inglés がオンラインでも存在感を示し、航空券や旅行予約サイトが取引額の大部分を占めていた。人々は初めての「オンライン購入」に慎重ながらも好奇心を示し、スペインのECはまだ黎明期の夜明けに立っていた。

ランブラス通りで聞いた笑い声や、ゴシック地区の石畳に刻まれた歴史を思い出すたびに、その背後で進んでいた「新しい消費の形」を重ねずにはいられなかった。2007年のスペインは、建設の塔が空へ伸びるように、確かに別の市場をも立ち上げようとしていたのだ。

港にそびえるコロンブス像を見上げながら、私はふと思った。彼が指し示した新大陸のように、EC市場もまた未知の海へと船出したばかりなのかもしれない、と。スペインという国の未来を探るために訪れた旅は、数字の上での市場調査以上の意味を持ちはじめていた。人々の暮らしや文化の延長線上に、確かに新しい「流通の海」が広がりつつあるのが感じられた。


【2007以降~2025年迄のスペインECマーケットの経過】 
あの夏、パエリアの香りに包まれながら「いつかこの街に身を置きたい」と願った頃、スペインのEC市場はまだ始まりに過ぎなかった。2007年、その規模はわずか 47億ユーロ、利用者は国民の 1割程度にとどまり、主役はAmazonではなく El Corte Inglés や旅行予約サイトだった。だが、前年比 +71% という急激な成長は、確かに未来を指し示す羅針盤のようでもあった。

それから十数年。市場は静かに、しかし確実に膨らみ続けた。2022年には 3,200万人 がオンラインで買い物をするようになり、普及率は 68%。そして2025年には 4,000万人 に達すると予測されている。

その中心に立ったのは、他ならぬ Amazon.es だった。2024年の売上は 約80億ユーロに達し、単独で市場を牽引する存在となった。かつての象徴だった El Corte Inglés もオンラインを強化したが、今や上位には Shein や Mercadona.es、さらには AliExpress、Temu といった中国企業をはじめとした海外勢が名を連ねている。上位3社だけで、国内EC市場の 3割以上 を握る構造が出来上がった。

スペイン国内での商品カテゴリー別売り上げ比率

その変化は、国境を越える流通の波と共にやってきた。2024年時点で、スペインのEC取引の 63%以上が国外との取引に依存し、その中にはEU域内はもちろん、中国からの流入も加速度的に増えている。低価格の衣料や生活雑貨を扱う中国系プラットフォームは、市場シェアを一気に拡大し、人々の生活に深く入り込んでいった。

そして今、スペインのEC市場全体は 約4,313億ドル(2024年時点) にまで拡大し、2033年には 1.73兆ドル に達すると見込まれている。あのとき街を照らしていた陽光のように、この数字の伸びは、ゆるぎない未来の予兆として広がっているのだ。

スペイン国内のSNSプラットフォーム利用率

いまスペインでEC業界を支えているのは、人々が日常的に使っているSNSで、その中でも利用が多いのが Instagram(74%) と Facebook(73%)、そして YouTube(70%)。利用者はECアクティブ層3,300万人のうち、それぞれ2,300〜2,400万人ほどにあたり、ほとんどの買い物客がこの3つを通じて情報に触れていることになる。InstagramやFacebookは特に35〜54歳の世代でよく使われており、家族や友人とのやりとりの中に自然に広告や商品紹介が流れ込むかたちとなっている。この層は購買力があり、他の層と比べても購入に繋がりやすいとされており、YouTubeはレビューや使い方の動画が多く、買う前の不安を解消する役割を果たしており、結果的に購入に踏み切りやすくなる場になっている。

若い世代に強いのは TikTok(47%) で、約1,500万人が利用しています。動画を見て気になったものをすぐにチェックし、衝動的に買う流れも多いのが特徴です。企業にとっては新しい顧客を取り込むための入り口になりやすく、低コストで集客ができる。

スペイン国内各年齢層別Eコマース利用率

X(37%) はニュースや時事に敏感な人に届きやすく、期間限定セールやトレンド商品と相性が良いツールとして利用され、LinkedIn(26%) はビジネス層、Pinterest(22%) は趣味やライフスタイルの参考にする人に強く、家具やファッション、インテリアなど「使い方を想像してから買う」タイプの商品に向いています。さらに、Twitch(14%) や Reddit(5%) は規模は小さいものの、ゲームやガジェット好きといった熱量の高いユーザーが多く利用しているのが現状と言えるだろう。

こうしたSNS経由での購入率を左右するのは「支払いのしやすさ」と「配送の早さ」、そして「返品の安心感」で、支払い方法では、スマホのウォレット(Apple PayやGoogle Payなど)33% が最も使われ、次に銀行口座から直接の送金(Bizumなど)20%、そしてクレジットカード(26%)が続きます。つまり、多くの人がカード番号を打ち込むより、スマホでタップして済ませたいという流れになっている。配送は 48〜72時間以内 が期待値で、それを超えると購入をためらう人が増えてくる。返品については、特に中堅世代が「失敗したくない」という思いを持っているため、サイズ交換や返品の簡単さ、返金のスピードを明確にしておくことが信頼につながりる重要ポイントと言える。

スペイン国内での支払い方法の比率

さらに、スペインでは 約18%が越境ECを経験しており、SHEINやTemuといった海外ブランドが人気を伸ばしている現状がある。ただし「追加料金はかかるのか?」という不安は強く、価格表示の段階で関税や送料込みで提示しておくことが購買の後押しになりそうだ。

まとめると、Instagram・Facebook・YouTubeといった主要SNSで幅広い層にアプローチし、TikTokで若年層を取り込み、その他のSNSでニッチな層をカバーする。この流れに「支払いのしやすさ」「早い配送」「安心できる返品」を組み合わせれば、スクロールから購入までが自然につながり、スペインのEC市場で成果を出しやすくなると考えられる。

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