「南青山7丁目の交差点」
六本木通りを歩いていると、後方からサイレンを鳴らすパトカーの声が追いかけてきた。
「前の車、止まってください」と警告。
その車、気の毒だなと思いながら、私はそのまま歩き続けた。
前方で警察に止められた車が停まり、
何事か話すのかと思った瞬間
運転席の男は「あ、すみません」と言い残し走り出した。
警官は追った。
その光景があまりにも面白くて、
私もつい、その跡を追うように走り出してしまった。
けれど、男の目的地は逃走経路ではなく、
近くのセブンのトイレだった。
それは追跡劇というより、
排泄という共同の課題に立ち会う儀式だった。
トイレ前で待つ警官。
やがて出てきた男に「大丈夫?」と声をかける。
「はい」と答える男。
二人はまるで共犯者のように並んで歩き去っていった。
人にとって緊急なのは、
罪よりも、腹の具合なのかもしれない。
私はそれを、午後の青山で目撃した。
