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なぜ中国の海外インフラ工事は、現地の人を雇わないのか——「投資」という名の国内経済延長【連載第5回】

アフリカや東南アジア、中南米を訪れたことがある人なら、こんな光景を見たことがあるかもしれない。

中国が資金を出して建設している道路や橋、港湾や鉄道。その工事現場を見ると、働いているのはほぼ全員が中国人だ。現地の人々は雇われていない。資材も中国から運ばれてくる。現場の言語は中国語だ。

これはなぜか。「中国が親切に投資してくれているのに、現地の雇用にならないのはおかしい」と感じた人もいるだろう。しかしこれも、偶然でも非効率でもない。設計の結果だ。

「投資」の定義を疑う

中国の海外インフラ案件を「投資」と呼ぶとき、私たちは無意識に通常の投資モデルを想定している。

通常の投資とはこういうものだ。投資国がお金を出す。そのお金が相手国に渡る。相手国はそのお金で資材を買い、労働者を雇い、インフラを建設する。完成後は相手国がインフラを運営し、経済成長に活用する。

中国のモデルはこれとは根本的に異なる。

中国が「投資」する際、相手国にお金が渡ることは実質的にほとんどない。代わりに何が起きるかというと——中国国内の建設会社が受注する。中国から労働者が派遣される。中国から資材や機材が輸出される。すべての支払いは人民元建てで、中国国内の企業と労働者に対して行われる。

相手国に残るのは、完成したインフラと、それに付随する債務だ。

なぜこの構造になるのか

第2回で説明した「設計図」をここに当てはめると、すべてが説明できる。

中国は人民元と外貨を切り離している。人民元は国内でしか使えない。だから中国が「人民元で投資する」とき、そのお金は中国国内を出ない。

中国国内の建設会社が人民元で受注する。中国人労働者が人民元で給与をもらう。中国の資材メーカーが人民元で代金を受け取る。すべてが人民元回路の中で完結する。

一方、完成したインフラを相手国が使うためには、中国への返済が必要だ。返済は外貨(ドル)で行われる。

つまりこういう構造だ。

人民元(中国国内で循環)→ インフラ完成 → 相手国からの返済(外貨)

中国は人民元を使って国内経済を回しながら、外貨建ての債権を相手国に対して持つ。これは「投資」ではなく、人民元を外貨債権に変換する装置だ。

現地雇用が生まれない本当の理由

現地の人を雇わない理由も、この構造から直接導かれる。

もし現地の人を雇えば、現地通貨で給与を払わなければならない。現地通貨を手に入れるには、外貨を両替する必要がある。それは外貨の流出を意味する。

中国はそれをしない。中国人労働者を派遣すれば、給与は人民元で中国国内の口座に振り込まれる。外貨は一切動かない。

資材も同じだ。現地で調達すれば現地通貨が必要になる。中国から輸出すれば、代金は人民元で中国国内に留まる。

現地を使わないのは、差別でも非効率でもない。外貨を一切使わずに、外貨建て債権を作り出すための合理的な選択だ。

一帯一路の本質

中国の「一帯一路」政策は、この構造を世界規模で展開したものだ。

アフリカの港湾、東南アジアの鉄道、中央アジアのパイプライン、南アジアの発電所——これらは表向きには「途上国への経済支援」として語られる。しかし実態は、中国の人民元経済を海外に延伸しながら、外貨建ての債権ネットワークを世界中に構築するプロジェクトだ。

さらに重要な点がある。返済できない国が出てきたとき、中国は担保として港湾や土地の運営権を取得する。スリランカのハンバントタ港がその典型例だ。返済不能→港湾の99年租借権取得。これは偶然ではなく、最初から計算された結果である可能性が高い。

インフラを担保に、戦略的拠点を世界中に確保する。経済的な「投資」が、地政学的な「布石」に変わる瞬間だ。

相手国にとっての現実

では相手国はなぜこれを受け入れるのか。

多くの途上国には、インフラを整備する資金も技術もない。中国は「条件をほとんどつけずに融資する」と言って近づいてくる。民主主義や人権といった条件を課さない。スピードも速い。

しかし完成後に残るのは、外貨建ての重い債務と、現地産業に何も残さなかった工事の痕跡だ。現地に技術移転は起きない。現地企業は育たない。現地の雇用は増えない。中国への経済的依存だけが深まる。

これを「債務の罠」と呼ぶ論者もいる。意図的な罠かどうかは議論があるが、構造的な結果として罠になっていることは否定しにくい。

第4回との繋がり

前回、中国人観光客が海外で「場所だけ借りて、お金は中国の経済圏内で回す」という話をした。

海外インフラ投資も、まったく同じ構造だ。

相手国の土地とロケーションを使う。しかし労働力も資材も資金の流れも、すべて中国国内で完結する。相手国には債務だけが残る。

観光客のスケールでも、インフラ投資のスケールでも、中国の経済圏は国境を越えて拡張する。しかしその拡張は、相手国の経済を豊かにするのではなく、中国の経済圏に相手国を組み込むことで進行する。

まとめ

中国の海外インフラ案件で現地雇用が生まれない理由は、差別や非効率ではない。

人民元と外貨を切り離した中国の経済設計が、そのままインフラ投資に適用された結果だ。人民元を国内で回しながら、外貨建て債権を相手国に対して積み上げる。それが「投資」という言葉で包まれた、中国式経済拡張の正体だ。

次回:【連載第6回】なぜ世界中に中華料理店があるのか——華僑ネットワークという外貨獲得システム


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