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なぜ中国製品はあんなに安いのか——補助金・量産・外貨獲得の三位一体【連載第3回】

中国製品は安い。これは誰もが知っている事実だ。

しかし「なぜ安いのか」を正確に答えられる人は、意外なほど少ない。「人件費が安いから」——多くの人はそう答える。それは間違いではないが、本質ではない。中国の人件費はすでに東南アジア諸国より高い水準にある。それでも中国製品は安い。なぜか。

答えは、価格競争力が「市場の論理」ではなく、国家の設計から生まれているからだ。

普通の企業と中国企業の決定的な違い

世界中のほとんどの企業は、利益を出さなければ存続できない。売上がコストを下回れば、いずれ倒産する。これが市場経済の基本原理だ。

中国の戦略産業に属する企業は、この原理から切り離されている。

政府が「重点産業」と指定した分野——EV、ドローン、ソーラーパネル、AI、半導体、インフラ——の企業には、国有銀行からの低利融資、直接補助金、税制優遇、土地の無償提供といった形で、国家から際限なく資金が注入される。赤字でも潰れない。赤字でも生産を続けられる。赤字でも価格を下げられる。

これは競争ではない。国家予算を使った価格破壊だ。

民間企業が利益を出しながら売る価格に対して、国家補助金で原価を下回る価格をぶつける。これが中国製品が「異常に安い」本当の理由だ。

人民元を刷って、外貨を稼ぐ

ここで前回の「設計図」が繋がってくる。

中国政府は人民元を発行し、その人民元を補助金として国内企業に注入する。企業はその資金を使って製品を製造し、海外に輸出する。海外ではドルやユーロで売れる。稼いだ外貨は国家が管理する。

つまりこういう構造だ。

人民元(国内)→ 補助金 → 製造 → 輸出 → 外貨(国際)

国内では人民元を使い、外では外貨を稼ぐ。二つの回路が完全に分離されているから、国内でいくら人民元を発行しても、直接的な外貨の減少にはならない。逆に、外貨をいくら稼いでも、国内の人民元経済に直接影響しない。

この仕組みがあるから、中国は「赤字でも輸出し続ける」ことが構造的に可能なのだ。

中国が「発明」しているわけではない

もう一つ重要な点がある。中国製品が安い理由は、価格だけではない。

中国は基本的に、他国が発明したものを実用化・量産化することに特化している。EVの基本技術も、ドローンの基礎技術も、ソーラーパネルも、もともとは欧米や日本の研究者が生み出したものだ。中国はそれを「拝借」し、国家資金と大量の人材を投入して商品化する。

ゼロから発明するコストが不要な分、製品化のスピードが速く、コストが低い。さらに特許を無視、あるいは迂回することで、ライセンス料というコストも発生しない。

これは道徳的な話ではない。経済システムとしての構造的優位性の話だ。他国が研究開発に何十年もかけて生み出した技術を、補助金と人海戦術で瞬時に量産できる。これが中国の「実用化マシン」としての本質だ。

世界市場で何が起きているか

この構造が国際市場に何をもたらすか、EVを例に考えてみよう。

欧米や日本の自動車メーカーは、開発コスト・人件費・工場投資・株主への利益還元を全部含めた上で、利益が出る価格で売らなければならない。一方、中国のEVメーカーは国家補助金で原価を大幅に下げた価格をぶつけてくる。

これは同じルールの下での競争ではない。片方は両手を縛られた状態で戦わされている。

欧州がEVに高関税をかけたのも、アメリカが中国製品に関税を課したのも、この非対称な競争構造に対する防衛反応だ。「保護主義」と批判されることもあるが、本質的には「補助金漬けの国家資本主義と、利益を求める民間資本主義の間の非対称な戦い」への対応である。

各国は気づいている。しかし止められない。

ここで重要な問いが生まれる。各国はこの構造に気づいているのか。

気づいている。高関税、輸出規制、サプライチェーンの脱中国化——これらはすべて「中国の補助金込みの価格は正常な競争ではない」という認識から来ている。

しかし気づいていても、止めることができない。

なぜか。通常のダンピングであれば、その企業や国が損失を出し続けることで自然に止まる。赤字が続けば資金が尽きるからだ。しかし中国のダンピングは二重回路によって支えられている。国内で人民元を刷って補助金を出し、その損失は国内の人民元回路に留まる。外貨回路とは切り離されているから、損失が通貨危機や財政破綻に直結しない。

「なぜ赤字でも続けられるのか」——普通の経済モデルでは説明できない。だから「いずれ自滅する」という楽観論が何十年も繰り返されてきた。しかし自滅しなかった。設計図があったからだ。

これは世界規模の組織的なダンピングだ。そしてその本質を理解せずに関税だけで対抗しようとしても、根本的な解決にはならない。

ここで正確に言っておく必要がある。これは「グレーゾーン」の話ではない。

原価を下回る価格での輸出——ダンピング——はWTO協定が明示的に禁じる不公正貿易だ。中国は名目上WTO加盟国であり、ルール違反を続けている。そして他国の特許を無断で使用することは、国際法上の明確な知的財産権侵害だ。

ダンピングであり、違法行為だ。

しかし「違法だが止められない」という現実がある。WTOへの提訴は時間がかかりすぎる。判決が出ても中国が無視する。特許訴訟は中国国内では中国の司法が裁く。国際的な執行力が根本的に弱い。

そして最も根本的な問題がある。違法だとわかっていても、安い製品を買いたい消費者と企業が世界中にいる。安さの前に、違法性への批判は霞む。

「違法だが誰も止められない」——この構造が、設計図の最も巧妙な部分だ。

しかし、この構造には限界がある

この「補助金→製造→外貨獲得」の連鎖は、外貨が稼げている間は機能する。

しかし今、その前提が崩れ始めている。

欧米が高関税をかけ、中国製品が締め出されれば、外貨が入ってこなくなる。外貨が入らなければ、資源もエネルギーも技術も輸入できなくなる。国内でいくら人民元を刷っても、外貨は生まれない。

補助金で赤字を補填し続けるモデルは、外貨獲得という「出口」があって初めて成立する。その出口が塞がれたとき、このシステム全体がどうなるか——それが次回以降のテーマだ。

まとめ:「安さ」の正体

中国製品が安い理由を、改めて整理する。

人件費の安さは、もはや主因ではない。本当の理由は三つの構造が重なっていることだ。

一つ目は国家補助金による原価割れ販売。二つ目は他国の発明を実用化・量産化することによる開発コストの省略。三つ目は人民元と外貨の分離による、赤字輸出の持続可能性。

この三つが組み合わさったとき、民間企業が利益ベースで勝負できる価格帯をはるかに下回る製品が、大量に市場に流れ込む。

「安い」のは偶然でも効率でもない。設計の結果だ。


次回:【連載第4回】華僑ネットワークと観光客——海外でも「中国経済圏」が回る仕組み


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