【正しさと 優しさの輪郭】-seven currents-第三章
正しさとは?
そろそろ答え合わせを はじめよう
夕暮れの帰り道。
アスファルトには、昼の熱がほんの少し残っていて
遠くで自転車のベルがチリンと
ひとつ
夕空を横切った。
空は、桃色と藍色のあいだで溶け合い、 どちらが本当の色なのか
十五歳のわたしには、まだ分からなかった。
制服の袖を握りながら歩く。
胸の奥には、言葉にならない
不思議な
“かたち”が、静かにゆれていた。
それは、正しさへの問いだったのか。
それとも——恋のはじまりだったの?
好きな人がいた。
その人が笑うと、胸の土がふわりとやわらかくなり
名前を呼ばれると、世界が少しだけ整ったり ..輝きを増した
だけど——
その人の前では、いつも少し背伸びをしていた。
強いふり。わかっているふり。
平気なふり。。。
嫌われたくない
重いと思われたくない
めんどくさいと、思われたくない。。。
そして 好かれたかったの
その感情は、まだはっきりとは言葉にならず
ただ、胸の奥で小さく震えていた。
アリストテレスさんは言う。
「徳とは、過不足のあいだにある。」
強すぎず…弱すぎず…
与えすぎず…拒みすぎず…
“ちょうどよさ”の中にこそ、美しさが宿るのだろうか
でも十五歳のわたしには
その“ちょうどよさ”は、どうしても 分からなかったんだ
好きになると、甘くなって柔らかくなって..優しくなって
やわらかくなり過ぎると、輪郭はボンヤリと、ぼやけけてゆくんだ
わたしは、
その人に恋をしていたのだろうか。
それとも——
その人の目に映る
“理想のわたし”に恋をしていたのか
そして その姿を見たいの..か
恋は、
誰かを好きになるということ。
でも同時に、
自分の中の可能性に触れること。
その人の前でだけ現れる
少し勇敢なわたし
少し優しいわたし
少し美しくなれる わたし
人はきっと
そうやって土壌を耕しているのだろう
恋は、種を蒔き
失恋は、耕し直すこと
どちらも、愛の仕事
でも——
そこに愛があるからこそ、問いは生まれる
優しさに、境界線は必要だろうか?
会議室の窓の外は、
いつの間にか夜が 落ちていた
十五歳のわたしは、もう泣いてはいない。
でもまだ青く、まだ揺れている。
エピクテトスさんは言う。
「自由とは、自分に属さないものを手放すことだ。」
セネカさんは言う。
「他人の評価に依存する者は、他人の支配を受ける。」
その言葉は少し強い。
でも、どこかで知っていた気もする。
わたしは、相手の感情まで背負おうとしていなかっただろうか。
好かれることでしか、自分の価値を測れなかったのではないか。
優しさとは
自分を削ることではない。
優しさとは
自分を保ちながら
そして
相手を尊重すること。
境界線は、拒絶ではない。
境界線は、「ここにわたしがいる」という宣言。
十五歳のわたしは、小さく息を吸う。
「好き。でも、わたしも消えない。」
それでも、まだ震える声。
けれど、その震えは逃げではない。
正しさとは、誰かに認められることではなく、自分を見失わないこと。
優しさとは、自分を犠牲にすることではなく、自分を保ちながら差し出すこと。
甘くて、痛くて、
でも確かに耕された十五歳。
恋も、迷いも、境界線も、
ぜんぶ「愛の練習」だった。
会議室の空気は、静かに澄んでいる。
そして あの子はもう、端っこではなく、丸いテーブルの席にちゃんと座っている。
まだ未熟で
そして青い。
けれど、確かに -----伸びている
そして問いは続く
曖昧は逃げだったの?
それとも、まだ名前を持たない優しさだったの?
-----次の章へ。。。
追伸 — 青き
十五歳のわたしへ
あのとき
夕焼けの色に胸を締めつけられていたあなたへ。
嫌われないように
傷つけないように
傷つかないように
自分を少しずつ小さくしていたね
あの揺れは、間違いじゃなかった
あの恋も、あの涙も、
あの不器用な背伸びも
ぜんぶ
あなたの土壌を耕していた
優しくなろうとしたことも
正しくあろうとしたことも
誰かのために頑張ったことも
それは 全部
そう。。愛の練習だった
あなたは弱くなんてなかった。
自分を守る方法を知らなかっただけ。。
境界線を引くことは、冷たさじゃない。
「ここにわたしがいる」と言うことは、わがままでもない
好きと言いながら、消えないこと。
優しいままで、自分を保つこと。
それが
あなたがこれから学んでゆく
強さなんだよ
安心していて
時はやさしく、それでいて確かに、流れていくものよ
あのとき泣いていたあなたは
今テーブルに座っている。
そしてね----
今のわたしも まだ
----揺れている
でももう
戻る場所を知っている
そして揺れながら 踊れるワタシで
ありたいと。。
それがあなたへの お守り
だから大丈夫。
青いままで
泣き虫のままで
ちゃんと 愛のほうへ進んでいる。
ありがとう。
わたしより少しだけ勇敢だった
十五歳のあなたへ。
