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マイナス6億円からの社長日記 Day-5 いよいよ本格再生開始なんだけど編

さて、少し時間が空きましたが順調に再生は進んでいます。
順調に、というのはプラスのサイクルが回っている状態です。
プラスはプラスを呼びますから、まず何かしらプラスな一歩目、それは何か作品を発注することだったり、新たな取引先を開拓したり、今まで引き受けなかったようなことを引き受けたり、なんだっていいんです。ほんの少しの変化が新たなプラスを呼びこみます。
赤字状態の中でも、少しでも上向いていることが重要です。
横ばい、下向きではずっと改善しません。
とにかく矢印を上向きにすることです。

その視点に立つとゼロ→イチは最高に面白く楽しいのですが、時間はかかる、つまり矢印が上向くのが遅くなります。なので立て直しフェーズの時はイチ→ヒャクを目指すべくのイチ→ニの方がふさわしいでしょう。

ですので、再生開始時には「いろいろなことをやる」と「いろいろなことをやめない」の二つがとても大切です。

赤字会社の再生をやっているんですよ、と頻繁に「在庫を減らしたりとかするんですか?」と聞かれます。いやいやいや。それは絶対にやめた方がいいです。

在庫を減らした瞬間、BS、バランスシートという企業の状態を表す指標がよくなります。すごく少ない在庫で利益を出している状態に「見える」ようになるんですね。ですので、不調状態の解消のためにはこの手段が魅力的です。ただ、それをすれば何が起こるか? その先に「やることがなくなり」ますね。だって売るものを無くしちゃうわけだから。

再生時に大事なのは「やることを無くさない」ことと事業規模、売上を「シュリンクさせない」ことです。

在庫というのは「まだ売れてない」商品です。不調時にその在庫は確かにもう売れないんじゃないか、というものに見えることが多かろうとは思います。特に外から来たり部署外から来たりするとそうなりがちです。売れてないんでしょ? だったらいらないものなのでは? でも、確かに素晴らしいものではないかもしれませんが、もう1冊も売れないというほど酷いなんてことはないですし、そもそも贅沢を言っている場合ではないでしょう今。

同じように媒体も減らさない方がいいでしょう。不調時にはだいたいの出版社に赤字媒体があります。特に昨今、どこの会社も不調な紙の雑誌があるでしょう。

これまた、削減対象になりがちです。赤字媒体なんだから休刊にすれば、その赤字がなくなりPLが改善します。でも、それをすればどうなるか? そうですね。またまた「やることがなくなり」ますよね。

赤字雑誌を休刊にすると起こることは以下の通りです。
・毎月の赤字は減る
・編集部員にやることがなくなる(暇になる)
・執筆いただいていた作家、関わってくれたスタッフが散り散りになる(もう戻ってこない)
・最後まで買い支えてくれていた読者が悲しむ(むしろ怒る)

大きすぎませんか代償。


そしてその雑誌に関わっていた編集部員はリストラするか残ってもらうかになります。リストラの場合、費用と信用毀損、また会社に残った社員のモチベーションに大きくマイナスがあります。では残ってもらった場合。そうですね。彼らがそれから取り組むのはゼロ→イチになります。再生フェーズではあまりオススメしないパターンのゼロイチ。

ただ、組み換えは考えたいです。他に好調な媒体があってそこは人が足りない状態であれば、そこに異動してもらえれば現場にとっても経営にとっても好都合です。なんですが。

まず、そんな好調な媒体があることが少ないです。出版界、全体的に不調ですし、その中でも赤字からの再生フェーズの会社です。そんな媒体あるならそもそもそこまで困っていないでしょう。
そしてまた、運の良いことにそういった媒体があったとしても、簡単に異動させられるとは限りません。不調なホラーの媒体をクローズして浮いたホラー作品作りが得意な編集を絶好調のボーイズラブ編集部に異動させたりたとか。そううまくいくものではありません。毎話、イケメン同士がいい感じになると思いきや、受けがドロっと溶けたりするホラー展開のマンガなんて作られても……いやそれはありえない訳ではないな。ワンチャンあるぞその作品。いやいや、BLは受け幅広すぎて喩えに向かないだけで、とにかく編集部間の異動は難しいのです。辞書作ってた編集に突然パズル誌作ってと言っても……いやそれもボキャブラリー的なとこで繋がってるのか。なんかうまくいきそうだな。じゃあファッション誌やってた編集がマンガに異動とかだ! これはうまくいかなそうだぞ!

…………。

なんて机上で想像したり軽口だったらうまくいきそうではありますが、いざ現場の現実に落とし込むと、ここに属人的なその編集の性格や今までのやり方、ここが一番大きいですが、があったりします。私語してると怒られるような静かな編集部からずっと喋ってるような編集部に異動してくるとすごいハレーションが起こったりするのです。現実はそういうことでうまくいかないものですよね。


話を戻しましょう。
とにかくやめてはいけないんです。

日本文芸社には大きく4つの事業部門があります。
・書籍(自律神経を整えたり胃腸を良くしたりの健康の本や編み物の本、植物の本など主に「実用書」と呼ばれる書籍群)
・週刊漫画ゴラク(「ミナミの帝王」「酒のほそ道」などが看板の老舗週刊誌。紙媒体)
・web漫画部門(無料漫画サイトと漫画アプリを媒体としたオリジナル漫画の供給)
・webメディア部門(「ラブすぽ」というスポーツ記事と自社書籍のコンテンツで構成された広告収益部門)

自分が社長に就任したタイミングで、このすべてが不調低調でした。
書籍は重版がかからなくなり、在庫の動きも低調。ゴラクは「ガンニバル」などの人気作品があったものの、それも連載終了し、ディズニープラスでドラマ化やネットフリックスで映画化など多々のメディアミックスがありつつも知見不足によりそれを上手く扱いこなすこともできず、紙雑誌自体の売上部数も当然少しずつ減っていっており事業として赤字に転落中。web漫画は「撲殺ピンク」などのヒット作品を生み出せはしたものの、ブームに乗って立ち上げてしまった漫画アプリが絶不調で毎月赤字を積み重ねていっている。webメディア部門は唯一、小規模ながら伸びている事業だったものの、そもそもwebメディアというビジネスモデル自体がGoogleなどプラットフォームのアルゴリズム変更によって広告収益が大きく変動する業態だから突然毎月の利益が半分になってしまったりする不安定な状態。

もし、一つ一つを精査するならば「全部やめてしまえば」という結論になるし、そしてそれは決して間違ってはいません。事業を全部やめて社員もいなくしてしまえば、これまで70年に渡り積み上げてきたレガシーが少しずつの利益をもたらしてくれますから、利益事業にはできるでしょう。それもまた再生時によく起こされるPL、数字、帳面のマジックです。成長や未来への可能性はすべて捨てさることにはなりますが。

ぼくは外部から来て再生を行っているわけですが、ここは矛盾というか誘惑だなあ、と思います。机上のPLを整えてしまえば、再生した風に見せるのは割と簡単だからです。将来売るべき在庫を捨ててしまったり、利益を先食いしたり、投資するべきお金を使わずに利益に見せたりすれば、数年は黒字が出せるわけです。そして数年後、その会社を去って、再び赤字になるのは後任のせいにしてしまえば再生人自体は傷つかないわけですから。

まあ、でもぼくはそもそも漫画や本がこの世に一つでも増えるといいなという趣味めいたマインドで出版社の再生をしているので、そういう選択肢は検討しません。ただ、そういうやり方もあるよ、と知っているのは重要だとも思います。絡め手、変化球、反則、邪道、あらゆる手段を理解した上で真ん中を進んだほうが早く辿り着きます。情熱や気持ちだけではなんともならないことのほうが多いでしょう。とにかく出版社は資本主義に向いていないわけですし。そのあたりは真面目な方の連載も更新されて佳境に入っていますのでよろしければ↓↓↓

https://mediado.jp/medicome/industry/10292/


すぐに話がそれますね。そうそう、4事業がすべて不調という話です。だからこの4部門をすべて成長軌道に導きたい。

半年もあればだいたいのところは分かりますので、再成長プランをなんとなく描き、現場に落とし込んでいくことにします。自分の中で書籍→webメディア→web漫画→週刊漫画ゴラクという順番をつけました。

出版社の中で不調な部門を切り返すとなれば、書籍部門が一番早いです。なぜなら、企画から3ヶ月くらいあれば発売までこぎつけられるから。これが雑誌の大型リニューアルだと1年間くらいは準備期間が欲しいし、漫画部門は毎月連載でも1巻まとまるのに半年。3巻まで行ってなんとなく結果が見えてくるまで2年くらいはかかります。ただし、ヒットすれば売れ行きのスピードは早いし、トップラインも相当高い。書籍は売れるスピード自体は漫画や雑誌に比べてゆっくりなのですが、本質的には機動力の高いビジネスなのです。

日本文芸社の書籍編集部とコミュニケーションして感じたのは、非常に本を作る力が高いな、ということでした。こういう本があればいいのに、というのを思いつけば、それを高いレベルで作り上げる能力がある。じゃあなんでそれなのにうまくいっていないのか、ということはこういう本があればいいのに、の部分、企画と言われる部分に問題があるのだろう、と。しかし、編集部員と話した印象や上げてくる企画が悪いものには見えない。

なので、企画の選択のところに問題があるということになります。これはもう出版社の悪い時あるあるなのですが、業績が悪いと「返品率を上げたくない」「売れない本を出したくない」というマインドになるのです。で、どうするかというと「売れそうな本だけ出そう」ということになるわけですね。

では「売れそうな本」ってなんでしょう。めっちゃ面白い本とか、めっちゃ役に立つ本とかですよね本当は。でも、そうはなっていませんでした。だったらどうなっていたか。

「類書が売れている二番以降煎じ本」とか「昔売れた本のリメイク」とかをやるわけです。

これはもう混乱しちゃってるわけですよ。「売れそうな本」と「売れないことがなさそうな本」が混乱。「売れない本じゃない」という要件はどちらも満たすわけですが、その後の「売れる可能性がある」と「売れる可能性が低い」の部分で大きく違うわけじゃないですかそのふたつは。

まあ、でもこれはあるあるです。調子が悪くなったから混乱しただけなのです。というわけで書籍部門はその混乱をおさめてあげるだけで急速に良くなるでしょう。

次にwebメディアです。
webメディアって立ち上げやすいですがトップラインが上げにくいビジネスなんだと思います。ネットビジネスには多くみられますが、立ち上げ期は急速に伸びるけど、かなり早く安定期を迎えてしまい、コストは投入しなければならないけど収益は伸びない、という状態に陥りがちです。ネットビジネスって効率との向き合いがすべてだから、ある程度伸びちゃうと同じもの、コモディティって呼ばれてるアレになっちゃうんで、ちょうど伸び悩み状態が始まりかけの頃だった日本文芸社のwebメディア「らぶスポ」に少し独自性を持ってもらうことにしました。また、そもそも根本的に出版社の不得意なこと代表、みたいな部分もあるので、webwebした会社に手伝ってもらったり、たまさか現場がエンジニアを採用したいと言い出してくれたので、しめしめと採用しました。方針をしめして相応しい人材がいればだいたいのことはうまくいくのですが、まさにこの事業に足りなかったものはその二つです。足りないことを埋めれば、それはうまくいくはず、ですよね。

そして漫画事業はちょっと時間がかかります。特に漫画ゴラクは50年以上やっている老舗週刊誌ですから、変えようとなっても相当時間がかかりそうです。
でもできれば自らの力で再生してもらいたい。長く掲げてきた看板ですし。そしてその時重要なのが「それに専念してもらう」ことです。

同じ人間が二つの相反したことを同時にやるのはとても難しいことだと思います。これもまた不調時の特徴で、不振部門を立て直すことと新規事業を同じ人間、部署がやっていたりして、それは概ね中途半端に終わります。なぜなら不振部門はコストを切り詰めコンパクトにして生き残りを図るのが王道ですが、新規事業部門はどんどんコストを投入してきっかけを見つけそれを膨らましていくようなプロセスだからです。これを同じ人間がやるのは……無理があるなあといつも思います。「いつも」というくらいよく見かける光景ではありますが。

ですので編集部を二つに分けて、ゴラクの再生に集中するチームと新しい漫画を生み出すチームに分けました。方向性を指し示したら、それに集中できる環境づくりがスピードアップにつながるんじゃないかな、と思います。会社組織もそうですし、クリエイティブはもっとそうなのですが、最も大事なのは同じ方向を向いて歩いていくことで、そうなるように整えたわけですね。

さあ、ということで4部門すべてに方向性を指し示し、メンバーも整えて、事業再生に向けてみんなが走り出しました。ここからが再生の本格的スタートとなるわけですね。ここまでは助走でした。お付き合いありがとうございます。お待たせしてすみません。

さあいよいよこの「マイナス6億円からの社長日記」本編開始!となります。

机上では。

机上の論ではだいぶ前から出来上がっているんですよ再生計画。でもそれは「実行」されなければいわゆる絵に描いた餅です。そしてその実行はついこないだまで会ったこともなかった70人とやっていかなければならない。

なのでつまりこの再生日記でつらつらと書いてきた机上の論をいかに実行していくかという。

というわけでこのnoteが「再生日記」である限り、その本編とは「実行編」でならなければならないわけです。

が、いざ実行に入るとですね、まあ色々起こるわけです。思い描いていた通りには絶対にいきません。

なので、それを織り込んでおけるか、なんですよね。どんなに自分の意図と違ったことが起きても、それを事前に想像しておき、それに対応していくこと。

「理論編」は「想像編」
「実行編」は「対応編」


さてさて、理論を実行したことで起こった様々に対応していこうじゃないですか。

つづく

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竹村響 Hibiki  Takemura twitterはこちら https://twitter.com/pinkkacho