「また今度」と言った約束はどこへ消えていくのか
──叶わなかった予定にも
ちゃんと人生がある
また今度 行こう
また今度 ご飯でも
また今度 ゆっくり話そう
私たちは
この言葉を
驚くほど自然に使う
やさしくて
角が立たなくて
今すぐ答えを出さなくていい
その場をきれいに終わらせるための
小さな魔法みたいな言葉だ
けれど
人生でいちばん
静かに消えていくものは
たぶん
この また今度 なのだと思う
子どもの頃
夏休みが終わる日に
また遊ぼうね と言った
あれは
ちゃんと本気だった
来週も
来月も
ずっと続くと思っていた
公園のブランコも
駄菓子屋の前の道も
夕方のチャイムも
永遠みたいに感じていた
けれど
次の春には
クラスが変わって
話す人が変わって
好きなものが変わって
気づけば
あんなに毎日会っていた友達の
連絡先すら知らないままだった
あの また遊ぼうね は
いったい
どこへ行ったのだろう

中学生の頃
好きな人に
卒業したら
また会えるよね と言った
あれは
半分くらい
祈りだった
本当は
卒業したら
会えなくなることくらい
ちゃんと
わかっていた
制服がなくなったら
あの人と私を
同じ場所に置いてくれる理由が
もうなくなることも
ちゃんと知っていた
それでも
また会えるよね と
言わないと
そこで全部が
終わってしまう気がした
恋の終わりは
嫌いになることじゃない
会わなくなることだ
約束の形をした
さよならは
思っているより
ずっと静かに来る
大学生の頃
サークルの先輩に
また飲みに行きましょう と言った
たぶん
お互いに
たぶん行かないな と
少し思っていた
それでも
ちゃんと言った
別れ際の言葉には
本心よりも
礼儀が優先されることがある
本当は
楽しかったです とか
少し寂しいです とか
ちゃんと伝えたかったのに
大人になる途中の私たちは
感情より先に
正解っぽい言葉を覚えていく
また今度 は
とても便利だった
でも
便利すぎて
本音の居場所が
少しずつなくなっていった

社会人になってからは
もっと増えた
今度ぜひ
落ち着いたら
また改めて
予定表の中に
入ることのない約束たち
忙しいですね と笑いながら
私たちは
かなり多くのことを
諦めている
会いたかった人
ちゃんと謝りたかった人
ありがとうを言いたかった人
その全部に
また今度 という
薄い包装紙を巻いて
見えない棚に
しまっていく
怖いのは
その棚が
いっぱいになっていることに
ある日まで
気づかないことだ
父に
今度 実家帰るよ と言った
そのまま
半年が過ぎた
友人に
またゆっくり話そう と返して
気づけば
既読のまま
季節が変わった
あの人に
ちゃんと好きだった と
言う機会も
たぶん
もう来ない
人生は
思っているより短くて
次 が来る保証なんて
どこにもない

それでも私たちは
また今度 と
言ってしまう
残酷だからじゃない
希望を
捨てたくないからだ
今じゃなくても
いつか
今日じゃなくても
そのうち
そう思うことで
終わりを
少しだけ
先送りにしている
人は未来を信じるために
曖昧な言葉を使う
また今度 は
嘘というより
小さな祈りに
近いのかもしれない
私は昔
祖母に
今度また来るね と言った
そのときは
本当にそのつもりだった
でも
仕事があって
疲れていて
来月でいいか と思って
その 来月 は
来なかった
葬式の帰り道
あの一言だけが
ずっと頭の中で
反復していた
今度また来るね
言葉は
消えない
叶わなかった約束ほど
きれいなまま
残ってしまう
後悔は
やらなかったことのほうが
長生きだ

だから最近は
少しだけ
言い方を変えるようにしている
また今度 ではなく
来週 行こう
今月 会おう
明日 電話する
曖昧な未来じゃなく
ちゃんと
日付を持たせる
それだけで
約束は
急に現実になる
時間は
待ってくれないけれど
予定は
自分で作ることができる
もちろん
全部は無理だ
会えない人もいるし
戻れない時間もある
もう遅いことだって
ちゃんとある
だからこそ
まだ間に合うものには
ちゃんと
手を伸ばしたい
人生は
失ったものを数えるより
まだ残っているものに
名前をつけるほうが
たぶん
ずっと大切だ

また今度 は
やさしい
でも
やさしい言葉ほど
油断すると
時間に負ける
本当に大切な人には
今度 じゃなく
今 を渡したほうがいい
会いたいなら
会う
謝りたいなら
謝る
好きなら
ちゃんと言う
その不器用さのほうが
たぶん
人生には必要だ
また今度 と言った約束は
どこへ消えていくのか
たぶん
消えてはいない
私たちの胸のどこかで
ずっと
小さく灯っている
思い出したときに
まだ遅くないなら
迎えに行けばいい
そのために
今日という日は
たぶんある
だから
読み終わったあと
ひとりだけでいい
会いたい人の名前を
思い出してほしい
そして
できれば
また今度 ではなく
今日
連絡してみてほしい

