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「角打ち」と「立ち飲み」は何が違う? 江戸から続く“立ちスタイル”の美学と、私が文化を継承したい理由

「立ち飲み屋を経営している」と言うと、よく聞かれる質問があります。 「角打ち(かくうち)と立ち飲みって、結局何が違うの?」

似ているようでいて、そのルーツも、役割も、そして「守るべき未来」も全く別物です。今日は、福岡・北九州という日本有数の立ち飲み文化圏に身を置く僕の視点から、この奥深き世界を紐解いてみたいと思います。


1. 日本人のDNAに刻まれた「立ち食い・立ち飲み」

「立って飲み食いするなんて、行儀が悪い」 もしそう思う方がいたら、少しだけ江戸時代にタイムスリップしてみましょう。

実は、日本のファストフードの原点である「握り寿司」や「そば」「天ぷら」は、すべて江戸の屋台、つまり「立ち食い」から始まりました。忙しい江戸っ子にとって、さっと食べてさっと仕事に戻る。この「機能美」こそが粋(いき)とされていたのです。

その「粋」の精神が、お酒という形に姿を変えて現代に残っているのが、立ち飲みのスタイルだと言えます。

2. 「角打ち」は北九州で生まれた産業遺産である

では、今回の本題である「角打ち」のルーツはどこにあるのか。諸説ありますが、 それは私たちの地元、福岡の北九州・八幡製鐵所にあります。

24時間三交代体制で稼働する製鉄所で働く男たちが、夜勤明けに酒屋の開店を待ちわび、買いたての酒をその場で煽った。四合枡の角(かど)に口を当てて飲んだことから「角打ち」と呼ばれるようになったこの文化は、労働者のための切実な「癒やしの場」でした。角打ちは酒屋さんの優しさから始まったスタイルなのです。

一方、一般的な「立ち飲み」は飲食店。ちゃんとした料理を作り、スタッフが接客をする「社交の場」です。 「酒屋の日常」である角打ちと、「酒場の非日常」である立ち飲み。 この境界線を知ると、暖簾をくぐるのがもっと楽しくなります。とは言いつつも最近の角打ち、立ち飲みにはそれほどの境界は無くなってきています。酒屋が運営する立ち飲みスタイルを角打ち、飲食店が運営する立ち飲みスタイルを立ち飲み及び立呑み、またはスタンドと定義することが多いです。

3. 角打ちは「究極のサードプレイス」

僕は、角打ちこそが現代における最も純粋な「サードプレイス(家でも職場でもない第三の居場所)」だと確信しています。

ここで重要なのが「安さ」という要素です。 角打ちは酒屋の小売価格で飲める場所。飲食店である立ち飲み屋とは、仕入れの構造が根本から違います。 「毎日通える」「誰にでも開かれている」というサードプレイスの条件を満たす上で、この圧倒的な気軽さは、何物にも代えがたい価値なのです。

飲食店を経営する立場から言えば、ビジネスとしては驚異的かもしれません。しかし、一人の文化愛好家としては、この「安くて等身大な場所」が街にあることが、どれほど市民の心を豊かにしているかを感じずにはいられません。

4. 文化を「消費」するのではなく「継承」するために

しかし今、この素晴らしい角打ち文化が危機に瀕しています。 店主の高齢化、後継者不足、老朽化などなど。歴史ある酒屋の看板が、音もなく下ろされています。

私は、北九州角打ち文化研究会の皆さんとも交流させていただく中で、この灯を消してはいけないと強く思うようになりました。単に客として通うだけでなく、経営者として「M&A」や「事業承継」という形で、この文化の器を守っていくことができないか。真剣にそう考えています。

飲食店には飲食店の、酒屋には酒屋の役割があります。 安くて日常的な角打ちで喉を潤し、その後、趣向を凝らした料理を求めて立ち飲み屋へ流れる。そんな「共存」こそが、街の回遊性を生み、文化を厚くします。

5. 100年後の街角にも、立ち笑う声を

江戸の屋台から続き、北九州の煙突の下で育まれた「立ち」の文化。 私が開催しているイベント「TACHINOMIST」の根底にあるのは、立ち飲みを福岡の新し文化にすることを目的にしていますが、本当に大事にしているのはサードプレイスの提供。それは角打ちは屋台がこれまで提供してきた時空間。だからこそ、この素晴らしい景色を次世代に残したいという想いです。

効率や利益だけでは測れない「街の宝物」を、どうやって未来へ繋いでいくか。 今夜もどこかの角で、誰かがグラスを片手に笑っている。そんな当たり前の風景を守るために、僕は走り続けようと思います。


落水 研仁 (Kento Ochimizu) 株式会社Thinkingfor 代表 / MEGUSTAグループオーナー 福岡で10店舗、立ち飲み文化のアップデートと地域活性化に邁進中。

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