AI時代の人事は「採用」から「能力供給」へ変わるのか?リクルートの事業構造と最新研究から考える! ※夏季休業中の投稿

生成AIが人事に与える影響というと、採用選考の自動化や人員削減がまず議論される。しかし、より大きな変化は別のところにあるのではないか。

企業が必要とする仕事を、人間だけで処理することを前提にしなくなれば、「何人採用するか」という問いそのものが変わる。

社内で育成するのか。外部から採用するのか。派遣や業務委託を使うのか。それともAIに任せるのか。

AI時代の人事は、従来の採用・配置・育成・評価を個別に管理する機能から、事業に必要な能力を、社内人材・外部人材・AIの間でどう供給するかを設計する機能へ変わる可能性がある。

この仮説を考えるうえで興味深い企業がリクルートである。

現在のリクルートグループでは、IndeedとGlassdoorを中心とするHR Technology SBUに、日本のIndeed PLUS、リクナビNEXT、リクルートエージェントなどが組み込まれている。2025年4月には国内のHR SolutionsもHR Technology側へ移され、リクルートエージェントでもグループのマッチングエンジンを活用して履歴書スクリーニングなどを効率化している。

一方、リクルートマネジメントソリューションズは、人材開発、制度構築、組織開発、アセスメント、配置、人材可視化などを提供する「人と組織」のプロフェッショナルサービスファームである。アセスメント・サーベイだけでも、採用だけでなく昇進・昇格、育成、組織変革まで利用領域を広げている。

さらにグループには世界各国で人材派遣を担うStaffing SBUも存在する。

ここに、AI時代の人事を考えるための材料がかなり揃っている。

ただし最初に断っておきたい。本稿で述べる「Capability Management」や「Human Capital OS」は、リクルートが公表している経営戦略の名称ではない。現在の事業構造と研究結果を材料にした筆者の仮説である。


リクルートには「育てる・採る・借りる」が既に存在する

人材不足への対応を、大きく四つに分けて考えてみる。

  • Build:社内人材を育成する

  • Buy:外部から採用する

  • Borrow:派遣・外部人材を活用する

  • Automate:AIやシステムで仕事を代替・補完する

リクルートの現在の事業を当てはめると、Buildにはリクルートマネジメントソリューションズの育成・アセスメント・配置支援、BuyにはIndeed、Indeed PLUS、リクルートエージェント、BorrowにはStaffing SBUが対応する。

ただし、Automateだけは事情が違う。

IndeedはAIを利用して求人検索、候補者探索、スクリーニング、コミュニケーションなど採用プロセス自体を自動化しているが、顧客企業の業務を分析し「この仕事はAIに任せるべきだ」と判断するところまでは現在の主要サービスではない。リクルート自身もHR Technologyの戦略を、採用プロセスをより速く、簡単に、低コストにする「Simplify Hiring」と位置づけている。

したがって、リクルートが既に「AI時代の人的資本OS」になっているわけではない。

むしろ興味深いのは、あと一歩でそのような構造を作れる位置にいることである。


「AIは新人を強くする」は、半分正しく半分危険である

AIと人材育成について、最近よく聞かれるのが「AIを使えば新人でもベテラン並みに仕事ができる」という議論である。

これには実証的な裏付けがある。

Brynjolfsson、Li、Raymondの『Generative AI at Work』は、5,172人のカスタマーサポート担当者を分析した。生成AI支援によって、1時間あたりの解決件数は平均15%増加したが、低スキル・経験の浅い担当者では約30%の改善が確認された。AIを使った勤続2カ月の担当者が、AIを使わない勤続6カ月超の担当者と同程度の成果を出すケースも確認されている。論文は2025年にQuarterly Journal of Economicsへ掲載された。

NoyとZhangが2023年にScienceに発表した実験でも、453人の大学教育を受けた専門職に文章作成課題を与えたところ、ChatGPT利用者は平均作業時間が40%短縮し、品質が18%向上した。もともとの能力が低かった参加者ほど恩恵が大きく、成果の格差が縮小した。

ここだけを読めば、「AIは新人の能力を底上げする」という結論になりそうである。

しかし、それを一般法則にしてはいけない。

Brynjolfssonら自身、この結果は製品や問い合わせ内容が比較的安定した、一つの企業・一つの職種・一つのAIシステムについての結果であり、他の仕事へ単純に一般化すべきではないと明記している。

さらに2025年、METRが熟練したオープンソース開発者を対象に行ったランダム化実験では、当時のAIツールを使った開発者は、自分が熟知しているリポジトリの課題を処理するのに19%長い時間を要した。

もっとも、この結果にも注意が必要である。METRは2026年2月、より新しいAIツールを対象とした追試では参加者の自己選択などが強く、信頼できる推定値を得られなかったと報告している。同時に、2026年初頭のAIは2025年前半より開発者を速くしている可能性が高いとも述べている。

したがって現段階で安全に言えるのは、

AIの生産性効果は、経験年数だけで決まらない。仕事の定型性、必要な文脈量、本人の専門性、AIの性能、利用方法によって大きく変わる

ということである。


それでも「新人問題」は現実になり始めている

もう一つ興味深い研究がある。

Stanford Digital Economy LabのBrynjolfsson、Chandar、Chenは、米国の大規模給与データを用いてAI曝露度と雇用の変化を調べている。2025年11月改訂版では、生成AIへの曝露が高い職種に従事する22~25歳の若手について、雇用が相対的に16%低下したと報告した。中堅以上では同じ現象は明確ではなかった。

ただし、これは「AIが16%の若者を解雇した」という研究ではない。

著者らも2026年2月の追加分析で、厳しい統制を入れるとAI曝露職種での相対的な悪化が明確になるのは主として2024年以降であり、それ以前の低下には金利や景気など他の要因も含まれる可能性があるとしている。

それでも重要なのは、企業側に次のインセンティブが生じることである。

新人一人あたりの生産性をAIで高められるなら、以前と同じ人数を採用する必要はないかもしれない。

ここに、

新人一人の能力は上がるが、新人の採用人数は減る

というパラドックスが生まれる。


新人の仕事を消すと、将来の専門家も消える

短期的には合理的である。

議事録、初期調査、資料作成、定型分析などをAIに任せれば、少人数で同じ成果を出せる。

問題は10年後である。

専門家は、最初から専門家だったわけではない。簡単な仕事から始め、失敗し、先輩から指摘され、現場固有の事情を覚えながら判断力を獲得してきた。

2026年のHuman Resource Management Journalに掲載されたLindebaum、Nolan、Swartの論考は、この問題を人的資本形成の観点から扱っている。著者らは、LLMによる合成された情報が実体験を置き換えすぎると、実践に基づくembodied knowledge、組織文化の中で形成されるencultured knowledge、判断に関わるembrained knowledgeが弱まる可能性を理論的に指摘している。

ここは実証研究ではなく、理論的な問題提起として読む必要がある。

さらにAfrouziらの2026年NBERワーキングペーパー『Automation, Learning, and Career Dynamics』は、仕事をしながら能力を獲得するlearning-by-doingをモデル化し、自動化によって学習機会が失われる条件では「human-capital trap」が生じ得ることを示している。これも理論モデルであり、現実の企業で既に罠が発生していることを証明したものではない。

それでも人事にとって示唆は大きい。

自動化すべき仕事と、教育のために人間に経験させる仕事は同じではない。


AI時代の育成は「徒弟制度」に少し戻るのではないか

ここからは筆者の仮説である。

大量採用時代の企業では、新人を一括採用し、共通研修を受けさせ、比較的単純な作業から経験を積ませる方式が合理的だった。

AIによって単純作業の量が減れば、このモデルは維持しにくくなる。

代わりに、

新人がまず自分で仮説を作る。

AIにも回答を作らせる。

両者の差を検討する。

実際のデータや顧客状況で検証する。

最後に熟練者がレビューする。

という形が有力になるのではないか。

AIは「答えを教える先生」ではなく、一人ひとりに大量の仮説をぶつけてくる練習相手になる。

この考え方には、一定の実証的な補強材料もある。Brynjolfssonらのカスタマーサポート研究では、AI利用時だけ成果が上がったのではなく、AIが停止した時間帯にも、利用経験の多い担当者の生産性向上の一部が残った。著者らは、AIから人間への学習が起きた可能性を指摘している。

重要なのは、AI利用量ではない。

AIを介して人間側に何が残ったのかである。


組織設計まで変わる可能性がある

AIは個人の仕事だけでなく、チーム編成にも影響する。

Dell'AcquaらがP&Gの専門職791人を対象に行った事前登録済みフィールド実験は、2026年6月にOrganization Scienceへ掲載された。

商品開発課題において、AIを使った個人は、AIを使わない2人チームと同程度の成果を出した。また、AIは研究開発担当者と商業部門担当者の専門分野による偏りを弱め、よりバランスの取れた提案を生み出した。一方、アイデアを最終的に評価・選別する段階では人間の判断が依然として重要だった。

「AIを入れればチーム人数を半分にできる」と一般化することはできない。P&Gの商品開発という特定条件での実験だからである。

しかし、人事にとって問いは変わる。

従来は「この仕事に何人配置するか」を考えればよかった。

これからは、

どの能力を人間同士で組み合わせ、どの能力をAIで補完するのか

まで考えなければならない。

ここで人員計画は、人数計画から能力設計へ変わる。


リクルートに戻ると、事業同士の意味が変わって見える

この観点からリクルートをもう一度見る。

IndeedとIndeed PLUSが持っているのは、外部労働市場へのアクセスである。リクルートエージェントは、人を介した人材紹介を行う。Recruit Holdingsは現在、Indeedの技術・データ・規模と、日本で蓄積してきた人材マッチングの知見を組み合わせることを明確な戦略にしている。

一方、リクルートマネジメントソリューションズは、社内にいる人間を測定し、育て、配置し、組織を変える側の機能を持つ。同社のサービスには新人から経営層までの育成、人材評価・可視化、人材配置、人事制度設計、組織風土改革などが並んでいる。

Staffing SBUは、常用雇用以外の柔軟な人的供給を提供する。

したがって、まだ統合されたサービスではないものの、

外から採る

中で育てる

一時的に借りる

という三つの選択肢を、リクルートグループは既に持っている。

ここに「AIに任せる」という第四の選択肢が本格的に加われば、人材会社の役割はかなり変わる。


ただし、巨大HRプラットフォームには別の危険がある

Indeedのような大規模プラットフォームがAIによるマッチングを高度化すれば、効率は上がる。

一方で、同じアルゴリズムが多くの企業の判断に影響すると、新しい集中リスクが生まれる。

KleinbergとRaghavanは2021年の『Algorithmic Monoculture and Social Welfare』で、多数の意思決定者が同じアルゴリズムへ収斂する「algorithmic monoculture」を理論化した。個々の企業にとってより正確なアルゴリズムでも、社会全体では意思決定の多様性を失わせ、全体の結果を悪化させ得るという問題である。

2026年には、この問題について実際の採用データを使った研究も出ている。

Bommasani、Bana、Creel、Jurafsky、Liangは、約300万人の応募者による約400万件の応募を分析した。同一ベンダーのアルゴリズムによって選考されたデータでは、複数企業への応募で同じ人物が繰り返し拒絶される「systemic rejection」や、人種別の結果の差が観察された。著者ら自身、これは因果関係を証明する研究ではないと明記しているが、巨大採用AIに対する監査の必要性を示す重要な材料である。

リクルートがAIによるマッチングを拡大するほど、これは他人事ではなくなる。

マッチング精度を上げることと、労働市場全体の多様性を守ることは必ずしも同じ目標ではない。


人事部は「Capability Supply Chain」を管理するのかもしれない

以上を踏まえて、本稿の仮説に戻りたい。

従来の人事は、人を単位に考えてきた。

採用し、配属し、研修し、評価し、昇進させる。

AI時代には、その上流に別の問いが入る。

まず事業戦略から必要な仕事を特定する。その仕事をタスクへ分解する。必要な能力を明らかにする。

そのうえで、

既存社員で行うのか。

育成するのか。

外部採用するのか。

派遣・外部人材を使うのか。

AIに補完・代替させるのか。

を決める。

これは製造業のサプライチェーン計画に少し似ている。

必要な量を予測し、内部能力を確認し、不足分を調達し、場合によっては設備で代替する。

人事でも、「人」そのものよりCapabilityの需要と供給を管理する発想が強くなるのではないか。


リクルートは「Human Capital OS」になれるのか

ここから先は、さらに長期の仮説である。

仮にリクルートが、

Indeedの外部労働市場データ、

Glassdoorの企業・従業員に関する情報、

リクルートマネジメントソリューションズのアセスメント・育成能力、

リクルートエージェントの人材紹介、

Staffingの外部人材供給

を、企業のStrategic Workforce Planningにつなげることができれば、顧客への提案は「100人採用しましょう」ではなくなる。

「必要な能力のうち、40%は既存社員で対応できる。20%はリスキリングする。15%はAIで補完する。10%は派遣・外注を利用し、残り15%だけ外部採用する」

という議論になる。

現時点でリクルートがこの統合モデルを提供しているわけではない。

しかし、その方向へ進むために必要な部品を相当数持っていることは事実である。

だからリクルートを見る際、Indeedの求人広告売上だけを見るのでは少し狭いのかもしれない。

AI時代により大きな市場になる可能性があるのは、

「誰を採用するか」ではなく、「企業が必要とする能力をどう構成するか」

を支援する市場である。


AI時代の人事で本当に難しいのは、人を減らすことではない

AIによる自動化そのものは、これからさらに簡単になっていくだろう。

難しいのは、その先である。

新人が経験すべき仕事まで自動化してよいのか。

AIによって小さくなったチームで、どう専門家を育てるのか。

AIが推薦する人材を、どこまで信用するのか。

同じアルゴリズムが労働市場全体を画一化しないか。

現在の研究を見る限り、「AIを使えば新人が強くなる」「AIで新人が不要になる」「AI+人間なら安全である」といった単純な結論は、どれもまだ支持できない。

より確かなのは、AIによってタスクの境界が変わり、その結果として採用・育成・配置・組織設計を同時に見直す必要が出てきたことである。

だからAI時代の人事部に必要なのは、単なる「人員管理」ではない。

事業に必要な能力を定義し、人間とAIの境界を設計し、短期の生産性と長期の人的資本形成を両立させることである。

Human Resource ManagementからCapability Managementへ。

これが本当に起きるなら、人事はAIによって縮小する管理部門ではない。

むしろ、AI時代の企業競争力を左右する中核機能になる。

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