小説 高校生戦隊ヒーローズ 21. 初めての校外実習
6月7日、水曜日。
今日の授業終了後、1年生は初めての校外実習に参加することになっている。
実習自体は5月から始まっていたが、5月の間は校外には出ず、軍から派遣された下級将官から警備の基本などを教わっていた。
今日からの校外実習で1年生が担当するのは役所の入り口の警備や帝都内の巡回など。2年生とペアを組み、さらに正規軍の一般兵または警察官2名も加えた4人での行動となるので、よほどのことでもない限り任務中に負傷や殉職など起きないだろう。
僕のペアとなる2年生の先輩は2年1組の森田先輩。
今週初めにペアが発表されて、月曜日の授業終了後に2年生の教室に挨拶に行ったが、穏やかそうな先輩だった。
「わざわざ来てくれたの?ありがとうね。行人くんと呼んでいいかな?じゃあこれからよろしくね。」
そう言ってにこにこ笑う森田先輩によろしくお願いしますと礼をした。
そして授業終了後、午後4時。
1年1組、2組と2年1組、2組は桜田門の周辺にある各省庁の警備、省庁が集まる霞が関周辺の巡回の任務を割り当てられている。特に一緒に移動しようとしたわけではないが、目的地も集合時刻もだいたい同じであるため結果的にほぼ全員そろって路面電車で移動することとなった。官庁や会社に勤務している人たちの帰宅時間にはまだ早く、かといってこれから遊びに行くには遅い時間で、路面電車は空いていた。僕はペアの森田先輩といっしょに路面電車の運転席のすぐ近くに立った。
「校外実習にあたって注意すべき点があれば教えてください。」
そう言う僕に森田先輩は、
「ああ、注意事項ねえ。・・・特に、ないかな。警備と言っても安全な場所だし、首相官邸みたいにえらい人たちがいるわけでもないし。」
と言ってふにゃりと笑う。
「でも夏場は暑いから、熱中症にならないように水分補給はこまめに。ほら、士官学校の制服着ると放熱できるところ顔しかないから。」
そう、この制服の唯一の問題点は暑さ対策が難しいという点だろう。
刃物による斬撃や銃弾までもはじく特別な強化繊維でできており、手足はもちろん首までしっかり保護しているため頭部以外の護りは非常に堅固だ。ただその反面、全身を覆っているため熱がこもりやすい。冬はいいかもしれないが、確かに夏は厳しそうだ。
「野外演習で支給された水筒あるでしょ?夏になったら、寮の食堂であれに氷水いっぱい詰めてもらって来るといいよ。」
「はい、わかりました。そうします。」
間もなく路面電車は桜田門に到着し、僕たちは電車を降りて建設省(現代日本では国土交通省にあたる)に向かった。
午後4時25分、建設省の正門から入る。そこから見える正面玄関の前に軍服を着た3人の背の高い若い男性が立っているのが見えた。森田先輩はその3人のうち中央に立つ軍人さんに近づいていくので、僕もそれに続く。森田先輩が中央に立つ軍人さんの正面ではなく少し右にずれて立ったので、僕は先輩の左側に立つ。そして森田先輩の真似をして僕も敬礼する。敬礼したまま、森田先輩は言う。
「帝都第一士官学校2年、森田です!こちらは1年、滝川です。本日、建設省の警備補助をさせていただくことになっております!」
おお、ふわっとした雰囲気だった森田先輩のまとう空気が変わっている、軍人さんだ、と僕が感動してると、3人の軍人さんも敬礼を返してくる。そして中央の軍人さんが言う。
「森田、滝川、ご苦労。俺は軍曹の吉田だ、君たちの指導を任されている。そして君たちから見て右側にいるのが一等兵の塚本、左側にいるのが同じく一等兵の岡本だ。」
そして元の姿勢に戻った吉田軍曹が続ける。
「では森田、滝川、警備の仕事について説明しよう、塚本、しばらく頼む。」
『はっ!』
返事をする塚本一等兵と岡本一等兵をその場に残し、吉田軍曹は建物に入る。僕たちもそれに続いて建物に入ると、入ってすぐ右手が事務室になっていた。通路と事務室の間は、ガラス・・・いや透明な樹脂だろう、で仕切られていて、会話や小さなものの受け渡しができるように20~30cm程度の隙間が空いていた。
その隙間のそばに座っていた事務員さんが僕たちの方を見てにこりと笑う。
「ああ、士官学校の実習は今週からでしたね、ようこそ建設省へ、よろしくお願いしますね。」
先輩が「森田です、よろしくお願いします。」と礼をするので僕もそれに倣う。その後、事務員さんと吉田軍曹から警備の仕事の説明を受けた。僕は時々質問をしたが、森田先輩は昨年すでに経験済みなので特に質問はしなかった。要約すると警備任務は以下のようになる。
建物の入り口の左右に立つ。両手は後ろに。脚は軽く開いて。
訪問客が来たら事務室前に案内する。
訪問客が帰る時、入館証を返却していない場合は回収する。
午後5時過ぎから職員が退庁し始める。職員は入館証とは色の違うプレートの証明書をつけているので、もしそれをつけていない人がいたら呼び止めて確認をする。人の出が多くなる午後6時頃は見落としやすいので特に注意。
滅多にないが、役所に押し入ろうとしたり役所から逃げ出すように出てきた人物は取り押さえる。
一通りの説明を受けた後、先輩と僕は入り口の左右に立つ。
塚本一等兵と岡本一等兵はそこから少し離れて立つ。いつでも僕たちをサポートできるように、でも特に問題がない限りは森田先輩と僕が主となって警備する、ということになった。
そうして警備を開始してすぐ。
男性2人が建物から出てきた。首から入館証をかけていたので僕は2人に近づき、両手をそろえておなかの前に置いて礼をする。
「お勤めお疲れさまです、本日警備を担当しています滝川と申します。お帰りでしたら、入館証、お預かりますね。」
2人とも入館証を首からかけていたことをすっかり忘れていたようで「あ、そうだったそうだった」と入館証を返してくる。僕はそれを受取って、「ではこちらに。」と先行して玄関先の段差のあるところまで進む。
「段差がありますからお気をつけくださいね。」
そう言うと一方の男性が「どうも、これはご丁寧に」と笑いながら、もう一方の男性がにこりと会釈して段差を降り、門の方に向かっていった。入れ違うように門の方から別の訪問客2人が入ってきたので、僕は近づいて同じように礼をする。
「お勤めお疲れさまです、御来訪のお約束はしていらっしゃいますか?」
肯定する2人を建物に入ってすぐの事務室前に案内し、受付を済ませた2人が奥に入っていった後、先ほど預かった入館証を事務員さんに返却する。事務員さんはにこにこする。
「滝川くんは、あまり軍人っぽくないですね?もちろん、悪い意味じゃないですよ。物腰が柔らかくて。」
「そうですか?恐れ入ります。」
そう返す僕に「うんうん、お店でおもてなしされてる感じがしますね。」と笑う。もうちょっとお話していたいが、まだ実習の最中だ。僕は一礼して警備に戻る。
定位置に戻ると、吉田軍曹が近づいてくる。
「滝川は訪問客への対応がこなれているな。そのまま任せていいか?」
僕が「はい、お任せください。」と答えると、軍曹は満足そうに頷き、次に森田先輩の方を向く。
「森田は昨年もやっているからやることは把握しているな?周囲全体の状況把握に努め、何かあればすぐに報告。職員の退庁が始まったら職員証の確認は森田が中心になって行え。」
それに「はっ!承知しました!」と敬礼して応える森田先輩。うん、やっぱりここに来るまでとは雰囲気が違う。
その後、実習が終わる午後6時30分まで。
特に大きな問題もなく、初めての校外実習は終了した。
吉田軍曹と塚本一等兵、岡本一等兵に「ご指導、ありがとうございました!」と敬礼し、僕と先輩は帰途につく。
「おつかれ~」とふにゃっと笑う先輩に、あ、軍人モードでなくなった、かっこよくなくなっちゃった、と少し失礼なことを考える僕。表情に出てしまったのか、
「あ~、行人くん、何か失礼なこと考えたでしょ~、二重人格だ、とか?」
と言う先輩に、
「いえ、そんなことは。吉田軍曹に挨拶する瞬間から実習終了するまでの間は、本物の軍人さんみたいですっごくかっこよかったなーって思っていました。」
と返すと、
「そっかあ。」
とやっぱりふにゃっと笑う。かっこよくはなくなっちゃったけど、こっちの先輩の方がなんだか安心できる。
周囲には僕たちと同じように実習を終えた士官学校の学生がいて、駅に着く頃には往路と同じようにそれなりの集団になっていた。
折よく到着した路面電車に乗る。帰宅時間と重なっていることもあり電車は混雑していたが、士官学校はそれほど遠くない。すぐに最寄り駅に到着し、僕たちは電車を降りる。
寮に戻る道すがら、森田先輩が尋ねてくる。
「行人くん、お客さんとの接し方が上手だね。お店でアルバイトとかしたことあるの?」
「はい、僕の実家はお店をやっているので。アルバイトもしました。小さい頃から、兄の後を追って、お店の中をうろちょろしていたので、お給金もらうようになってからもあまりアルバイトしているという感覚はなくて、日常の一部みたいな感じではあるのですが。」
「なるほどねえ、すごく自然体だったのは、そういうわけかあ。」
ひとりうんうん頷いた先輩は、続けて聞いてくる。
「お兄さんがいるんだね。他に兄弟はいる?」
「はい、その兄の他に、姉が1人います。」
「お兄さんとお姉さん、何歳?」
「兄は8歳年上なので23歳、もう働いています。姉は5歳年上で大学生です。」
「ふんふん、お兄さんはお仕事何しているの?」
こんな感じで寮の入り口に到着するまでの間、僕の兄と姉の話が続いた。
寮の入り口で先輩と別れる。
「それじゃ、お疲れ、来週もよろしくね~。」
手を振る先輩にお辞儀をする。
「はい、よろしくお願いします、お疲れさまでした!」
こうして初めての校外実習はつつがなく終了した。
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