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【山形グルメ】夜更けにほどける果実

山形の大親友から届いたラ・フランスを、しばらく台所で眠らせていた。

果実は日を追うごとに香りを深め、触れればほんの少し柔らかさを返すようになり、
まるで言葉を持たぬまま静かに「その時」を待っているようであった。

指先にかすかな弾力を感じた夜、
ラ・フランスは熟した呼吸をそっと伝え、「今だ」と告げたように思えた。

その夜、湯気の立つ風呂からあがった身体は芯まで温まり、
頬に触れる空気だけが外の冷たさを思い出させていた。
その温度差の狭間に立ちながら、冷蔵庫の扉を開けると、
そこにひっそり冷えたラ・フランスが一つ、静かに光を纏っていた。

湯上がりの掌で持ち上げると、
その冷たさは、火照った身体の奥に小さな刺激を落としてくる。
包丁を入れた瞬間、とろりとした果汁が刃先を濡らし、
電灯の灯りを受けて、まるで月光が滴り落ちたように輝いた。


部屋に広がる香りは静かでありながら深く、
夜の気配と溶け合って、ゆっくりと距離を失くしていった。

ひと口、果肉を含む。
冷たさが舌に触れた途端、身体の熱にすっと吸い込まれ、
その後に続く甘さが全身へ静かに広がっていく。
とろみのある果汁は喉へ流れ落ち、
温められた体内にふわりとした余韻を残した。

この瞬間、ラ・フランスは単なる果物ではなく、
夜の儀式を完成させるための小さな灯火のように思えた。

隣では相方が薄く掬った果肉をひと片ずつ口に運び、
「うまいなあ……」と胸の奥から漏れるように呟いた。
その声は夜の静けさに小さく溶け込み、
ストーブの低い唸りとともに、冬の部屋にやわらかな振動を作っていた。

彼の一番好きな果物を、大親友が自分ではあまり食べないにも関わらず、
毎年変わらず送ってくれる。
その気負いのない好意を思うと、
ラ・フランスの甘さは人の温度に似た深みをまとい、
ひと口ごとに胸の奥で何かがほどけていった。

果物の甘さは毎年少しずつ異なる。
私たち自身もまた、季節とともに揺れ、
日々の出来事に傷ついたり救われたりしながら変わっていく。
だからこそ、今年のラ・フランスの味わいは、
湯上がりの身体に染み込んでいくその冷たさと甘さが、
例年以上に深く、静かに沁みたのだと思う。

食べ終えた皿の上に残った香りは微かでありながら確かな存在感を持ち、
その香りが夜の空気にゆっくりと漂う様子は、
冬が近いことを静かに知らせる合図のようであった。

大親友の思い、
ベア次郎の懐かしい記憶、
そして湯上がりの身体に落ちる冷たい果汁。
それらがひとつに重なり合い、
この夜だけの物語を形づくった。

ありがとう。


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