【掌編小説】雨と頁の間【2035文字】
四月の朝の光は、まだ何処か少し冷たさを含んでいた。
図書館の窓から溢れた光は、タイルと床を水彩のように淡く染めていた。
俺は新しい制服のポケットを指で押さえながら、カウンターの奥で貸出カードの整頓をしていた。
社会人一年目、私立図書館に配属されてまだ一週間。
慣れない接客で肩が凝るけれど、ここにいる時間は嫌いではなかった。
「……あの」
不意に声をかけられ、顔を上げた。
制服姿の女子高生が覗き込むようにして立っていた。
「はい、どうされました?」
「この本、探していて」
差し出されたメモには、少し古い翻訳文学のタイトルが書かれていた。
高校生が課題で読むには、少し渋い本だな、と俺は思った。
端末で検索し、書架番号をメモする。
「ご案内します」
と言うと、彼女は静かに頷いて一歩後ろを着いてきた。
「こちらです」
本を差し出すと、彼女はぱっと表情を明るくした。
その笑顔が思いの外眩しくて、俺は少し言葉を失った。
「ありがとうございます」
彼女は本を胸に抱え、閲覧席へと向かった。
去っていく後ろ姿から、俺は何故か長いこと視線を外せなかった。
♢
次の週も、彼女はやって来た。
成瀬沙羅——貸出カードでその名を知った。
ここから先は
1,546字
¥ 200
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで
この記事が参加している募集
よろしければサポートをお願いします。 生きるための糧とします。 世帯年収が250万以下の生活をしています。 サポートしてもらったらご飯のおかず代にします! お野菜買えるかも・・・ あと、ネコのクーラー代とかにもなるのでよろしくお願いします! 生きていく・・・
