【冷製ポタージュ】コクリといただく。【クノール】
五月の中旬というのに、
窓の外ではもう夏の気配がゆっくりと街を侵食し始めていた。
昼を過ぎたアスファルトは白く光り、風はぬるく、コンビニから出てくる人々は皆、どこか少し疲れた顔をしている。
こういう季節になると、不思議と温かいものを身体が拒む。
熱いラーメンも、湯気の立つ味噌汁も、それはそれで美味しいはずなのに、身体が「今日は違う」と静かに告げてくるのである。
冷たいものが欲しい。
けれど、ただ冷たいだけでは寂しい。
氷菓子ではなく、ちゃんと胃袋に優しく落ちていくような、柔らかなものが欲しい。
そんな夕暮れに出会ったのが、「クノール 牛乳でつくるポタージュ」シリーズであった。
スーパーの棚の中。
派手ではない。
むしろ静かな顔をして並んでいる。
コーン。
じゃがいも。
えだ豆。
どれも夏の片隅に置かれた、小さな避暑地のような名前である。
冷たい牛乳で作るポタージュ。
その響きだけで、すでに少し涼しい。
私は牛乳を冷蔵庫から取り出し、グラスに触れた指先の冷たさに小さく息をついた。
夏という季節は、人を疲れさせる。
身体だけではない。
感情も、思考も、言葉も、少しずつ熱を持ち、知らぬ間に摩耗していく。
だからこそ、人は「冷たさ」に救われるのかもしれない。
最初に飲んだのは、コーンポタージュだった。


粉末をカップへ入れ、牛乳を注ぐ。
しかしここで油断してはいけない。
このシリーズ、少々気難しいのである。
勢いよく牛乳を注ぐと、粉が水分を拒むように固まり、小さなダマとなって沈んでしまう。
まるで、急に差し伸べられた優しさに戸惑う人間の心のようだ、と思った。
だから丁寧に作る。
まず少量の牛乳でゆっくり練る。
静かに混ぜる。
焦らない。
すると粉は少しずつ心を開き、なめらかな黄金色へ変わっていく。
残りの牛乳を注ぐ頃には、カップの中にはすでに穏やかな夏の景色が出来上がっている。
ひと口飲む。
その瞬間、とうもろこしの甘みが舌の上でゆっくりほどけていく。
甘い。
だが、子ども向けの単純な甘さではない。
夏祭りの帰り道に齧った焼きとうもろこしの余韻。
夕暮れの畑を渡る風。
陽射しを吸い込んだ穀物の匂い。
そういう記憶に近い甘さである。
牛乳のコクは驚くほど深い。
冷たいのに、味が痩せていない。
むしろ冷たいからこそ、甘みと旨みの輪郭が静かに浮かび上がる。
喉を通る頃には、身体の奥にこびりついていた熱が、少しだけ溶けていく感覚があった。
次に、じゃがいものポタージュを飲む。


これはコーンとはまるで別人である。
華やかではない。
だが、静かに深い。
白いスープは、まるで曇り空のような柔らかな色をしている。
口に含むと、じゃがいもの土っぽい香りがまず広がる。
大地の匂いである。
雨上がりの畑。
湿った土。
掘り起こしたばかりの芋の温度。
そういうものが、冷たいスープの中に静かに沈んでいる。
コーンのような明るい甘さではなく、こちらは「旨み」が主体だ。
舌の上でゆっくりと粘度を持ちながら広がり、牛乳のまろやかさと混ざり合う。
その味はどこか、ホテルの朝食で出てくるヴィシソワーズを思わせる。
外は真夏なのに、口の中だけが静かな避暑地になる。
私はこの味がかなり好きだった。
派手ではない。
しかし、人は本当に疲れている時、こういう味を求めるのではないかと思う。
最後に、えだ豆のポタージュ。


これは少し不思議なスープである。
カップに顔を近づけた瞬間、青い香りが立ち上る。
夏の匂いだ。
枝豆を茹でた台所。
縁側。
夕方。
遠くで鳴く風鈴。
そんな景色がふっと脳裏を通る。
飲むと、まず豆の風味が広がる。
想像以上に「えだ豆」である。
しかし、青臭さは強すぎない。
牛乳の丸みが角を優しく削り、豆の甘みだけを静かに残していく。
冷たい。
だが、その冷たさは鋭くない。
水辺の風のような冷たさだ。
このスープには、「夏を飲んでいる感覚」がある。
定番として愛されるのはきっとコーンなのだろう。
完成度が高いのはじゃがいもかもしれない。
けれど、季節そのものを閉じ込めているのは、私はえだ豆だと思った。
価格はだいたい200円前後。
3袋入り。
つまり、一杯あたりは70円ほどである。
そこに牛乳代を加えても、かなり手頃だ。
だが、このスープの価値は値段だけでは測れない。
暑さに削られた夕方。
何も食べたくない夜。
言葉を使いすぎて疲れた日。
そんな日に、冷たいポタージュは妙に優しい。
それは豪華な料理ではない。
けれど、人を少しだけ救う味というものは、案外こういう静かな食べ物なのかもしれない。
冷たいスープを飲みながら、私は夏の入り口に座っている。
まだ始まったばかりの暑さの中で。
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