【掌編小説】もう一度、愛せない人【1174文字】
十月の夜は、何処か少し乾いた匂いがする。
夏の湿り気をすっかり手放した風が、街のビルの谷間を抜けていく。
その風の香りを感じながら、私は一人グラスの中の氷を見つめていた。
窓の外にはオレンジ色のライトがぼんやりと流れている。
小さなジャズバー。
仕事帰りに、ふと立ち寄った場所だった。
人の声は少なく、小さくピアノの旋律だけが流れている。
気付けば、隣の席に誰かが腰を下ろした。
「……久しぶりだね」
低い声に、胸の奥が微かに震えた。
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