離婚されるところだった
何度見返しても、そこにわたしの作品名はなかった。
かわりに、「#エッセイ部門」を人気順でソートしたときにわたしの作品と同じような場所、つまりスクロール要らずの場所に並んでいた作品がいくつも列挙されていた。
表記漏れじゃないの、と思った。待てど暮らせど訂正が入らないので、そこで初めて「あ、落ちたんだな」と理解した。
「創作大賞だめでした。なんか知らんけど名前ない」
夫にLINEをする。すぐに「提携してる会社、あんまり合う感じしなかったもんね」という返信が画面に表示された。
そう、オレンジページにメディアワークス、双葉社、エトセトラエトセトラ。
日常の中の陽だまり、あるいは一服の清涼剤。そういう作品を求めている出版社のニーズと、わたしの出したものの温度差はあまりに開きすぎていて、でもそんなことはわたしにも分かっていた。
noteのスタッフだって、出版社の意向を汲みながら下読みをしていたはずで、切腹しながらテメェのはらわたもぶちまけろとドスを突き立てるわたしは、この街の元締めには受け入れられなかったのだ。
そりゃそうだ、ミュージカル『アニー』のアニー役オーディションなのに、岩下志麻が着物に和髪シニヨンでやってきたら、そんなの一発でお帰りください、となるに決まっている。
夫の言葉には答えず、代わりに中間選考発表の公式記事と、わたしのエッセイのURLを送信した。すぐに既読になる。返信はない。わたしもiPhoneの電源ボタンを短く押し、仕事に戻った。
一時間ほどして、夫からのLINEが来た。
「タイトルが異次元すぎる。エッセイ部門の中に入っていたとしても、浮いてる」
「なんかさ、重いものは求められてない感じがするよね。わたしも中間通ったエッセイ見て思ったけど」
「やっぱりそこは商業だからね。文章がどうとかより、内容じゃない?」
「それにしてもタイトルが怖い。ホラー小説部門に混じってる方が違和感ない」
普段読書なんてしないくせに偉そうだな、夫よ。
そして意外と可愛いところがあるな、夫よ。
「でも、俺はティコのやつが一番ぐっときた」
この作品を書き上げたとき、夫にいちばん最初に読んでほしいと思っていた。
でも、彼はなんだかんだと理由をつけ、のらりくらりとかわしてきていた。
「スキが一五〇ついたらね」と言っていたのに、それが比較的速いペースで達成されると、「俺は自分が書いたブログとか配信とか、絶対家族に見られたくないからなぁ。自分がやられて嫌なことはしない主義なの」と投稿から二ヶ月が過ぎても読まれることはなかった。
落選して初めて、読んでもらえたことになる。
その日の夜、一緒に湯船に浸かりながら、夫は言った。
「あの病院見つけてきたのも俺だし、責任感じてなかったわけじゃないんだよ」あまりに唐突に。
「最初は俺が原因だって思ってたしそんな検査結果だったし、どうしてもティコが子供が欲しいなら、離婚しても仕方ないって思ってたよ」
わたしは俯きながら、湯船の底のつま先を見つめて湯気の向こうの彼の言葉を聞いている。
「うん」と言うのが精一杯で、それ以上の言葉を紡ぐことができなかった。雫が落ちて水面が揺れた。ペディキュアを塗った爪がゆらゆら歪む。
『わたしの子宮は胎児を殺す。』を、不妊治療に挫折した経験を、わたしは世に出すと決めた。創作大賞はその手段にすぎない。
目的はもっと別のところにある。
不妊治療をしたら絶対我が子に会えると思っていたかつての「わたし」に、そうじゃないと伝えること。そして失敗したときの痛みを可能な限り軽減させること。
子供がいないことで肩身の狭い思いをする女性がいない世の中を作ること。
不妊であることに対して、理不尽な思いをさせられる女性がいない世界を作ること。
この目的を達成できるのなら、手段は問わない。わたしの理念に共感してくれる人を探しに行くだけだ。
自分の力が足りなかったとも、作品のクオリティが低かったとも思わない。
『アニー』のオーディションに極妻スタイルで挑んでしまった、それだけのこと。
極妻のオーディションを受けに行けば、わたしは必ず世に出る。そう信じている。
創作大賞反省までエッセイにしてしまい、中間選考に残った作品と比較しても『わたしきゅ』は劣っていないと言い切れるほど、わたしは書くことに対して図々しく、強欲だった。
そんなことを半年前まで知らずに生きていた。これからの半年、わたしはわたしの戦場を探しに行く。
Uさんが昨日のうちにこんな企画を立ち上げておられます。発想が柔軟。フットワークが軽い。すごい。わたしにはできない。
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こちらの企画に、手紙日和さん、みくまゆたんさん、なつき希さんが『わたしきゅ』を推薦してくださいました。ありがとうございます。
「大賞はこれだなと思っていました」と言ってくださる方もいて、これってつまりこのお三方が審査員だったらわたしの作品が通っていたってことよね?
コンテストってやっぱそういうことなんだよね。
テストみたいに頑張れば頑張った分だけ成果が出るわけではない。博打と同じ。
追記:
芋けんしーさんと、主催のUさん。ありがとうございます。
皆さんが審査員のコンテストはどこで開催されますか?
追記2:
鳴海 碧さんからもご推薦いただきました。ありがとうございます。
