【タイムマシン】19歳、名作SFへの第一歩
およそ150ページ。怒涛の勢いで“タイムマシン”という未知の技術を提唱した、H.G.ウェルズによる不朽の名作SF小説『タイムマシン』
デビュー作で今となってはありきたりな概念となった“タイムマシン”の概念を定義したことに驚きながらも、前半の理系やっほい脳汁ドバドバな説明と後半のぶっ飛んだ未来の物語のギャップには、なるほど若さゆえかと思わされる衝動も感じられる。
全体の3分の1が知らないおっさんたちの解説やあとがきだと気づいた150ページ目では、驚愕を禁じ得なかったものだが、商業的成功を手早く得るために書いたものだという解説にはさすがに笑ってしまった。
そう、後半はたしかにイーロイ人とモーロック人という、現代とはかけ離れたユートピアの中のディストピア世界を描いていて、完全なる平和に行きつくと発展を望まないために知能をを失い、菜食主義的生活を行っている。しかもカニバリズムまで出てくるとあれば、未来の世界の設定の壮大さにすんげーとなる。それより遠くの未来の世界ではニンゲンが滅びて、美しすぎる宇宙の情景描写のボーナスタイム。
よくある近未来やちょっと前の過去、±2000年以内の話じゃないから、ファンタジーとしての世界観が広がっている。『タイムマシン』時代の幕開け作品なのに、これ以上はないとも言えるタイムトラヴェル作品に仕上がっている。
そして、前半でしか味わえない理系脳を刺激する栄養がある。
「この世には、三次元の立方体なんて存在しない」
この一言にぶっ飛べる。なんじゃそりゃー!
四次元は縦横高さの三次元空間に“時間”を加えたものだという、現在普及している考え方が生まれたのは、この小説にて。
今この瞬間にも、今という時間は過去になっているからこそ、例えば目の前に立方体があるとすると、”今“だったその瞬間に取り残されるわけではなく、時間と共に動き続けているのだから、断続的に移動している。つまり時間移動的側面を持っているから、この世に存在する三次元物質は、実は四次元物質だということ。過去から未来に一方通行ではなく、同時に存在する横同士の関係にある。
いやー、サイコーにおもしろすぎるね。難しい風でいてわかりやすく説明してくれてる。これ読んで研究者の道に進む人もいたんじゃないかな。まじワックワクするもん。
そうは言っても、個人的な疑問がどんどん出てくる。
・空気や分子・原子なんかは何次元なのか。
・紙に描いた立方体図形は二次元なのか三次元なのか。
・もしタイムトラベルしたとすると、その空間に物質が置いてあったら身体が爆散するという仮説は一般的だけれども、何も置いてなかろうと空気はあるのだから、酸素や窒素と身体が同化して爆散とは言わないまでも、異常をきたすのではないか。
頼む誰か疑問を解消してくれー。
ただ時間的要素が四次元目だという一般常識は正しくないというのだけは、感じているけど。
終わりに。カッコよすぎるエピローグの感動的な文章で締めようと思う。このエピローグが、バック・トゥ・ザ・フューチャーのあのエンディングになるんだろうな。
人類はまだ人類のままだとしても、今の社会が持てあましている重荷を降ろし、頭の痛い問題もあらかた解決した時代 つまりは人類の壮年期である。
(中略)
これこそは人類の知性が退化し、肉体が衰えて後までも、恩愛の情と相身互いの友愛が人の心に生き続ける証である。
富裕層と労働者層が完璧に二分化を果たし、行き過ぎた平和な世界が広がる80万年後の世界は、平和の恐ろしさを孕むと同時に、友愛で満ちた理想郷が待っている。
机上の空論に頭を抱えて悲観な感想を持ってしまうかもしれないが、なにも悪いことばかりじゃないってこと。たしかに行き過ぎた平和はそれはそれでイヤな世界だけど、少なくとも、戦争で人類が破滅して荒廃した地球が残るよりはマシ。
”愛“という人類最高の本能が残っていれば、それだけで十分じゃないか。
戦争目前なのかもしれなくても、少なくとも平和で、好奇心を満たす挑戦ができる現代の日本に生まれたことを喜ぼう。そして、いつかのタイムトラヴェルを願って。
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