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異国 × 無名 × 翻訳 × Kindle四重ハンデの場所で、物語は成立するのか


昨日の記事、沢山の方に読んで頂きましてありがとうございます。

それにしても、「多言語出版のむずかしさ」です。


──売れない。でも、やる意味はある。

現地にいる無名の人が、
母語でKindleをやっても微妙。

これは、たぶん世界共通の事実だと思う。

日本のKindleだって、そうでしょう。
日本語で、日本人が、日本向けに小説を書いても、
ほとんどは静かに埋もれていく。

これは才能の問題というより、
プラットフォームの構造と、可視性の問題だ。

書店には並ばない。
レビューは集まりにくい。
メディアに取り上げられることも、ほとんどない。
SNSは、もうずいぶん前から飽和している。

つまり、最初から土俵が過密なのだ。

そんな場所に、ある日ふと私は思った。

多言語Kindleって、
ロシア人が日本語でロシア文学を書くくらいの勢いじゃない?

……雑な例えかもしれない。
でも、意外と本質を突いている気がする。

言語は合っている。
内容も真面目だ。
文化的にも、筋は通っている。

それなのに、

誰が読むのか。
どこで見つけられるのか。
なぜ「その人」を選ぶのか。

この部分が、ぽっかり空いてしまう。

現地の無名作家ですら伸びにくい場所に、
異国 × 無名 × 翻訳 × Kindle
という四重ハンデで飛び込む。

そりゃ、伸びない。
むしろ数冊でも読まれたら、それはもう異常値だ。

だから今なら、はっきり言える。

多言語Kindleは、魔法じゃない。

でも——
だからといって、意味がないとは思っていない。

むしろ、ここからが面白い。

ロシア人が、日本語でロシア文学を書く。
──売れない。でも、やる意味はある。

だって、知ったらちょっと覗いてみたくならない?

たとえば、
雪の降るキッチン。
ボルシチの湯気。
サワークリームの白。

伏し目がちに、日本語で綴られる一文。

「愛とは、耐えることだと、母は言っていた。」

……これは、もう読むでしょう。

完璧じゃない日本語だからこそ、
言い回しが少し硬くて、
比喩がどこか異国で、
感情の置き方が、ほんの少しズレている。

そのズレが、「翻訳文学」ではなく、
“人の声”として立ち上がってくる。

売れるものは、たいていわかりやすい。
期待通りで、安心して消費できる。

でも、
知りたいものは違う。

わからない。
少し怖い。
生活の匂いがする。

ボルシチを食べながら、
日本語で愛を語るロシア人。

これはもう、商品というより、覗き穴だ。

私がやってきた多言語出版も、たぶん同じだと思う。
完璧な現地作家には勝てないし、
王道ジャンルでもない。
アルゴリズム的にも、決して強くない。

それでも、

「日本人がドイツ語で、
こんな静かな恋愛小説を書いている」

そう知ったら、
読みたくなる人は、確実にいる。

数は少ない。
でも、濃い。

だから今は思う。

多言語出版は、
市場を取りに行く行為じゃない。

覗きたい窓を、そっと作る行為なのだ。

売れなくても、
ランキングに入らなくても、

「あ、こんな世界もあるんだ」

そう思わせた時点で、
創作としては、もう成立している。

……正直に言うと、
私もそのボルシチ、食べたい。

翻訳文学って、よく考えると不思議だ。


言葉も文化も違うはずなのに、
読んでいるうちに、ふと自分のことのように感じてしまう。

異国の人というだけで、
「自分とは違う世界の人」
そんなステレオタイプを、
私たちは無意識に当てはめてしまう。

でも、翻訳された文章の中に現れるのは、
とても普遍的な悩みだったりする。

愛が足りないこと。
誰にも必要とされていないと感じる瞬間。
人としての尊厳を、静かに傷つけられたときの悲しみ。
老いと向き合うときの戸惑い。

それは、日本人だけのものじゃない。
どこの国の人でも、同じように感じ、同じように傷つく。

言葉のかたちは違っても、
感情の輪郭は、驚くほど似ている。

翻訳文学の面白さは、
「違い」を知ること以上に、
「同じだった」と気づくことなのかもしれない。

そこに、国籍は関係ない。

人が人として生きる限り、
悩み、迷い、
それでも誰かを求める気持ちは、変わらない。

だから私は、翻訳された物語を読むたびに思う。

──ああ、ここにも、
私と同じ場所で立ち止まっている人がいるんだ、と。

追記(観察メモ)


昨日、出版したばかりの本のランキング。
• World Literature(Kindleストア)20位
• 洋書 全体 4,530位
• Education & Reference 1,176位
• 97ページ
• 出版して間もないタイミング

大きな数字ではない。
でも、実験として見れば、かなり正直な反応だと思っている。

静かに。
地味に。
また少し、続きを観察していくつもりだ。



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