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記号化されるオタクと、アイドル消費時代


■ アイドル戦国時代と自我つよオタク

かつて「アイドル戦国時代」と呼ばれた時代がありました
そこは「ライブパフォーマンスがよければ売れる」とか「曲がよければ売れる」とか「奇抜なことやれば売れる」とか「コントが面白ければ売れる」とか、とにかく「なにか一個でも飛び抜けたところがあれば売れるだろ!」という安易な意識と野望に満ちたブルーオーシャン。それぞれのプロデューサー(大体がおっさん)が自分の得意とすることをアイドルに落とし込み、次々と新しいアイドルが生まれ、そして実際に売れていった時代。
自己主張、エゴ、ルサンチマン……おっさんプロデューサーたちの精神性に、彼らの培ってきた政治力や音楽性、娯楽性、サブカル度などがトッピングされ、そこにキッラキラピュアッピュアな少女たちの希望や若さが乗算されて、伝説的なアイドルたちが文字通り星のように無数に産み落とされていきました。
そんな動乱の時代。
当然、「オタク」も一筋縄ではいきません
文化系オタクでは宇多丸、掟ポルシェ、ロマン優光、吉田豪、南波一海などのいわゆる「サブカル」の人達が「バニラビーンズ」などを通してTIFと邂逅し、アイドル戦国時代の礎を築いていきました。その隅っこで、自分こと「チカカラ山本」も現場にしかない情報を拾い上げて共有したり、途中からは関東に移住して現地を取材・密着なんかもしたりしていました。その他にも社会学者・濱野智史は自らアイドルグループを立ち上げたり、故・モーリーロバートソンは地下アイドルグループのメンバーになったりもしていました。

そんな文化系とは真逆の存在。
体育会系オタク
ステージ上もステージ裏もしっちゃかめっちゃかだった時代。当たり前のようにフロアもぐちゃぐちゃでした。裸になってシャンプーしてる人、花火を口に咥えてリフトする人、木に登る人、天井を歩く人、高いところに登って落っこちて死にかける人、ディアステ界隈から次々と飛び出してくる呪文のような謎MIX、神輿もサーフされるし、自転車ごとリフトされるし、でっかい旗を振ってる人はいるし、万札ばら撒いている人もいる。ツーステ、ナマステスネーク、マサイ、セキュリティーBONDSとの喧嘩、はてには最前管理……。そんな予測もつかない新たな現象が毎日のように起きていたのが、アイドル戦国時代のフロアでした。そんな現象を巻き起こしてた現場系体育会系オタクたち……自我つよです自我つよつよです
ステージ上でアイドルが「私が一番輝いてる!」と思ってる裏で
舞台袖のプロデューサーが「俺が一番おもろいこと仕掛けてる!」と思ってる前で
フロアのオタクたちが「俺たちが一番新しいことをしてる!」と思っている。
そんな時代が「アイドル戦国時代」だったわけです。
前置き終わり。

■ 記号化されるオタク

・宴T

さぁ……目をつぶって「今のオタクの背中」を、ゆ~っくりと思い浮かべてください……そうです、ぼんやりと頭に浮かんできましたね……?
そう、「宴」の文字が
これがメンタリスト……ではなく、現代令和8年のオタクの象徴。
今のオタクのメイン層は「宴Tオタク」。もしくは「ビブス着用オタク」。そんな印象を自分は受けています。他にもHEROINESや指原系、きゅるして系、KAWAII LAB.系の「キラキラ系オタク」と呼ばれる女性オタの層もありますが、【アイドルフェス】で目立つのは、断然この「宴T」を着たオタク集団の姿。(「フロアは安全第一T」含む)

https://x.com/akihirohiro2/status/2083848819549290498

2024年から3年間でTIFを通して計9,000枚の「宴T」を配布した「UtaGe!」。配布の効果もあってこのTシャツは「UtaGe!」の出演していないイベントや、アイドルに関係ない街中でも見かけるようになっていきました。そんな中、宴Tを着て暴れるオタクなどがいると「また宴Tか……」と言われ、いつの間にか【宴Tを着てるオタク=アイドルフェスで暴れる連中】という風潮がアイドルファンの中で共有されていきました。(これは単に「宴T」が目立つからそう思われるようになった、という部分が大きいです)
これが最初の記号化。
「現代の体育会系オタク=宴Tを着てる人」
これは、あくまで一例です。ただ、そういった記号としての認識(「宴Tを着てる人は暴れる体育会系オタク」という印象)がアイドルファンたちの間に(特にここ1年で)広まっていったのは事実です。

逆に考えてみましょう。
みなさん、ブランドの服はお好きですか? 自分は好きです。「CABANE de ZUCCa」や「Salomon」が好きで、それらの服に袖を通しているとすごく満たされた気持ちになります。これは、それらの「ブランド」という記号と一体化することによって得られる感覚だと思います。若い方だと「バレンシアガ」や「ロエベ」に対して同じような気持ちを抱く方も多いのではないでしょうか。そんな感覚を、この「宴T」を着てる人達は感じてるのではないかな、と思います。
「宴T」という記号(ブランド・広く周知されている印象)との一体化「推しの名前の書かれたビブスを着る」という行為にしてもそうですよね。「推しという記号の一体化」そう取ることができるかもしれません。

https://x.com/FESTIVEofficial/status/1773683659867845115/photo/1

元々「推しメンカラーのTシャツやグッズ」というものはあったのですが、それがより先鋭化され、わかりやすく記号化されてきた印象です。これは決して「個性的だった昔の体育会系オタクよりも劣化してる」などと言いたいわけではありません。現在の豊穣すぎるアイドルフェス環境に適応した進化であると感じています。つまり、より効率的に。よりデフォルメチックに。よりわかりやすく。そんな「今を楽しむための記号化」を体育会系オタクたちは自然と選択していったのではないでしょうか。その点を、以下で詳しく分析していきます。

・オタ芸(みんなでする)

「オタ芸」と呼ばれる行為についても記号化の傾向を見出すことが出来ます。10年前の「厄介オタ」「ピンチケ」と呼ばれた現場系体育会系オタクたちはそれぞれが「どこまで馬鹿なことを出来るか」みたいなノリで現場で遊んだり、荒らしたりしていました。その行為自体は今でも嫌悪されてる方も多いのですが、彼らは基本的に10人程度かそれ以下の集団で行動し、過激なオタ芸を開拓していたような気がします。というか「個」個人が目立っていました。一人ひとりにキャラクターがあり、全員が他より目立ってやろうとか、無茶やってやろうとか、「これがおもろいやろ」とか、これがエモい(そういえば「エモい」って10年前くらいからよく使われ出した気がする)とか、そういう反骨精神(反社精神とも言う)が根底にあった気がします。言い方を変えると「ロック」そうも呼べるかもしれません

対して、令和8年のオタ芸は集団でするものが多いです。「宴砲」「アイアイ」「サークルスクワット」「肩組み」「山切りカット」などなど。そこに見られるのは個人のエゴなどではなく、「調和」と「一体化」。【フロアコーディネーター】と呼ばれる人物たちに求められるのも「場を仕切る力」であり、それはエゴとは正反対のものです。
ここでも注意したいのは、決して「今のオタクは日和ってる」などと言いたいわけではなく、「フロアに求められているものが昔とは違う」ということです。そもそも【フロアコーディネーター】にしても「大勢の人間を仕切る」ってすごく大変なことじゃないですか? それは、社会人を経験してる皆さんのほうが身にしみるのではないかと思います。そうです、これはこれですごい能力を求められる役割なのです。ちなみに自分は「博多祇園山笠」という祭りに参加していたのですが「神輿の上に乗って的確に指示を出し、仲間も鼓舞する」という行為にはかなりの能力が必要となります。特に周囲からの信頼も強く求められます。そういった意味で、令和8年の現場は、より本当の意味での「お祭り」に近づいている。そんな印象を受けます。

・ロックからポップへ

さっき、昔の体育会系現場オタ(もうめんどくさいのでピンチケと呼びます)はロックである。と言いました。これに対し、今のピンチケはポップです。まず、カラーTシャツを着てる時点でポップ。昔のピンチケの自作Tは黒などのロックな基調のものが多かったです。そもそも流行っていた音楽がロック。地上では「BiSH」「ベビメタ」「PassCode」「ぜんぶ君のせいだ。」、地下でも「偶想Drop」「BELLRING少女ハート」「十四代目トイレの花子さん」「NECRONOMIDOL」「めろん畑a go go」「みんなのこどもちゃん」「XOXO EXTREME」「3776」「sora tob sakana」など、多種多様な「ロック」が各ライブハウスで躍動していました。フロアが荒れるのも当然っちゃ当然

https://natalie.mu/music/news/241613

対する現代、世は「KAWAII LAB.」&「HEROINES」時代。誰も真似できないクオリティーのおしゃかわポップス&MIX特化ドパガキ地雷系キラキラグループ。ロック要素もないことはないのですが、ロックがメインな集団ではありません。フロアが尖る必要もないんです。たまにロックフェスで無規制ライブやったりもするけど、基本はサイリウム振り振り。MIX合唱。そんな応援スタイルです。ポップ。平和。フロアが「俺が一番」なんて思う必要はないんです。

・「情報」が邪魔

TikTokなんかのショート動画でもそうなんですが、「情報」って邪魔なんですよね。「◯◯ってグループの✕✕って子が何かをしている」これ、萎えるんです。「知らん子が何かをしている」こっちのほうがショート動画を構成する要素としては魅力が凝縮されているんです。
例を出すと、

・船の船首で鼻先を仰いでいるどこかの国の子供がバズる
・「電波電波の怪電波~♪」というMVすらない新人歌手の曲がバズる

など。
要素をぎゅっと濃縮。余計な情報を削ぎ落としたもの。これが現代の「気持ちよさ」なんです。だから、近年のKPOP(やアイドル)勢による「手だけの動きでTikTokバズを狙う」という戦略は、ほぼほぼ失敗しています。だって「◯◯ってグループの✕✕って子」という情報が余計だから。知らん子がやってる変なダンスとかの方が魅力が上なので。「今これダンス」と言って膝を左右に振るダンス(ナルトダンスの一部に前フリを付けたもの)が一時期めちゃくちゃ流行ってたんですが、これを最初に踊ったのってロコドルなんですよね。でも、そのロコドルの名前は一切広まりませんでした。なぜなら「誰発か」という情報にみんな興味がないから。面白さ、楽しさに必要なのは「そのダンスだけ」だから。これは、記号化された現代のオタクにも当てはまります。
「有名ピンチケの名前」「過激行為」「ロック」「自己主張」「サブカル」「情報」こういったものを排除した結果が、記号化された現代のオタクなんだと思います

■ アイドル消費時代

上記のTikTokの現象と同じ理由で、アイドルも消費されます。しかも「アイドルという存在自体を消費される」のではなく、「曲だけ」「フレーズだけ」「振り付けだけ」をどんどんものすごいスピードで消費されていきます。消費される側は、空っぽにならないようにどんどん発信を続けていきます。新曲、レッスン、打ち合わせ、撮影、ライブ、特典会、配信、通販、SNSでのバズり、コラボ、企画、大型フェスの予選、生誕クラウドファンディング、海外遠征、オフ会、などなど。消費と発信の追いかけっこ。最後は『ちびくろサンボ』のようにバターになって溶けていくのでしょうか。そのスピードについていくためにもオタクの記号化は合理的です

https://fruitszipper.asobisystem.com/

・爆増した大型フェス

大型フェスもそうです。
昔は「TIF」と「@JAM EXPO」が二大フェスでした。けど、今はライム・ライトやHEROINESがどんどん大型フェスを仕掛けていって特に夏は毎週末フェスが実施されています。地方でも「A Villa idol festival HOKKAIDO」や「くさのねアイドルフェスティバル」は、楽曲派出演陣の集うフェスとして都内のフェスとは違う独自の魅力を発信しています。東北でも「東北アイドル初期衝動」という志の高いイベントが始まったり、福岡では「博多どんたく」、大阪では「MAWA LOOP」なども健在です。茨城の「LuckyFes」も音楽フェスの中ではアイドルが大きなウェイトを締めています。
このような大型フェスだらけの現状に対応したのが、オタクの記号化とも言えると思います。オタク側に考える余白がないというか。テンプレ化していく必要があったのではないかと思います。逆に言えば「相次ぐ大型フェスが集団芸を鍛えていった」のかもしれませんね
そして、これほど大型フェスが増えた原因の一端も「アイドル消費時代」でアイドルグループの消費サイクルが上がって業界全体が加速・増殖しているから、と考えることは出来ると思います。

https://iko-yo.net/events/586264

■ まとめ

オタクの記号化は、

・余分な情報の排除(バズ文化の影響)
・加速するアイドルグループたち(バズで消費される影響)
・爆増する大型フェス(アイドルグループが加速した影響)
・それら環境の変化への適合
・宴T

などが原因であると考えられます。
あくまでこういうアングルで見てみたらこう見えた、というだけの話なのですが、それなりに説得力は持たせられたんじゃないでしょうか。
昔、アイドルまとめブロガーとして名を馳せてた時代も「TIF」の後にこういう傾向の総まとめみたいな記事を書いてましたよね、懐かしい。全部消えてしまいましたが。悲しい。それと、「TIF」ってなんだかんだこういう分析的なものを書かせてしまう魔力があるのですよね。熱と言いますか。他の何ものにも代えがたいフェスであると思います。
また、最近、学術雑誌『地球・宇宙・未来』でアイドル特集があったので、私に寄稿を依頼すればこういうの書くのになぁという気持ちで書きました。
どうぞみなさん、これを読んであ~だこ~だ、ズレてるズレてない、お前のような卑しい身分の者が学術誌などおこがましい、などなど言って楽しんでください。あと、頑張って書いたので下の「♡」押していってください。では。


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