事業はなぜ、規模が拡大すると難易度が上がるのか?
事業規模の拡大によって「顧客や業務の量が増えるから難しくなる。」という整理は少し弱い。
本当に量が増えるだけならば、金とコミットで全てが解決するはずである。
当たり前でもある事業の規模と難易度がどういう関係にあるのか、言語化する
はじめに
事業が大きくなる際の難しさ、その本質は量への対応ではなく「非線形」な難易度の発生
規模が2倍になっても、難易度は2倍にならない。
3倍、5倍、時には10倍になる。
この非線形性こそが本質的な難しさであり、体感値や増える売上量と比較しない感覚になる原因。
全体において非線形性が発生する3つの構造
1. 組合せの数が爆発する
顧客の種類、業務の数、従業員の数が増えたときにはその全ての組み合わせ数分、何かが起きる。
2. 閾値の存在
ある規模までは問題にはならなかったことが、閾値や臨界点を超えた結果として対応が必要になる
3. フィードバックループの複雑化
A部門の判断がB部門に影響し、それがC部門を経てA部門に戻る。みたいな影響のループに登場するステップの数が増え、予測のブレが掛け算で影響してくる。
ここからは領域ごとにまとめます。
A.マーケティング領域
◾️規模と連動する構造的変化
1.顧客が本来持つ多様性を無視できなくなる
顧客の人数ではなく、属性としての顧客の種類の数が増えたり、元々の顧客層が持っていた多様性をより具体的に解決する必要が出てくる。
◾️難易度が高まる論点
1. 統一的なコミュニケーション vs セグメント別最適化
一貫性維持 → 刺さりが浅くなる
最適化優先 → ブランドが分裂する
2.単一価格体系 vs セグメント別価格
単一 → シンプル、公平
分化 → 購買率と収益量の最大化
販売形態や内容も含めた統一と分散のトレードオフが付きまとう。
B.サプライチェーン領域
◾️規模と連動する構造的変化
1.確率的事象が確定的事象になる
元々はたまに起きることが安定的に発生してしまう問題や対応となる。
例外対応、属人的判断、暗黙の仕様が、母数の増加により明確なコスト・リスクとして顕在化する
2.マーケの変化による要求変化
顧客セグメント増加により必須な仕様、提供内容、カスタマイズ要求が発生する。
◾️難易度が高まる論点
1. 標準化 vs 柔軟対応
標準化 → スケール可能
柔軟対応 → 顧客満足高い
2. 多様化対応 vs コスト効率
セグメント別対応 → 機会拡大
統一運用 → コスト最適
C.経営領域
◾️規模と連動する構造的変化
1.必須維持項目
規模が拡大すると、提供価値の一貫性、接触量の安定、サプライ量の安定が「理想」ではなく必達となる
2.投資効果の依存関係が複雑化する
小規模なら投資 ≒ プロダクトとなりやすい。
拡大後はブランド投資、獲得投資、システム投資、在庫投資をそれぞれ成功させて成果が出る。
◾️難易度が高まる論点
1. 未来的投資 vs 安全性や生産性投資
拡大による経営の変化項目はこれに尽きる。
また、未来価値と現在スコアの改善の両方に投資が関係してしまう。
プロダクトとマーケティングに関しても同じ予算総額からの捻出がトレードオフになる
D.組織領域
◾️規模と連動する構造的変化
1.関係性の本数
人数は線形に増えるが、関係性は二次関数的に増える。
人数を n とすると、関係数は本数はn(n-1)/2となる。
5人 → 10、10人 → 45、30人 → 435
2.情報の解像度
1人が見通せる人数や深さには限界がある。
判断の階層化、届く情報の圧縮が否応なしに発生する
◾️難易度が高まる論点
1.権限集中 vs 権限分散
分散すると局所最適が増え、集中するとボトルネックが発生する。
2.透明性 vs 情報効率
全情報共有 → 安心感
情報圧縮 → 効率的
3.文化純度 vs 採用拡張
文化適合重視 → 人数の成長遅い
採用優先 → 文化希薄化しやすい
4.柔軟性 vs 再現性
柔軟対応 → 個人依存
再現性設計 → 形式化する
どうしたら突破できるのか
前半に書いた要素は構造的に普遍的ではある。
しかし、難しさを緩和したり突破することはできる。
後半はそこをまとめてみます。
1.商材選定を頑張る
あまり取れない選択肢だけど、構造変化の影響が“緩い”商材を選ぶのが明らかに手っ取り早い。
1.顧客セグメントごとの性質差が小さい商材
2.限界費用が低い商材
3.強いネットワーク効果がある商材
4.高単価で顧客母数が少ない商材
など。
2.技術を非線形性の解消のために使う
テクノロジーを漠然と効率化に使わずに、非線形に複雑化してしまうことを防ぐことにフォーカスして投資する。
運用のモジュール化。サプライチェーンを組み替え可能な単位に少しでも分解していくこと。
運用内容の変更や対応量の追加によって波及効果が起きる項目を減らすこと。
業務を業務量だけで見つめず、チームや部門や業務ごとの最小構成人員数を1人でも減らせる状態に投資しよう。
3.コアな価値の固定化する
何を絶対にやらないかを抽象的にせず具体的に定義する。
各部門での不必要な顧客セグメントや提供サービスの幅の拡大暴走を止める
線引きが永遠に変わらないことよりも、信用可能な方針であることが重要。
必要に応じてその内容は更新をすれば良い。
4.商品や接客を階層化する
売り場や売り物自体を区分けできると、マーケティングにおけるトレードオフ構造はかなり減る。
マーケティングが得意な会社は、ここを「顧客から見てあからさまには分からないやり方」で上手くデザインしている。
デジタルマーケティングとしてのセグメントごとに最適化する技術とはスキルが異なるので要注意。
5.顧客セグメントを広げない勇気を持つ
「顧客セグメントを広げる」これは規模の拡大のために最も簡単に始められることである。
同時に、最も事業難易度に影響を与えることでもあることを自覚する必要があると思う。
規模拡大=必ずしも顧客セグメントの拡大ではない。
深さ、単価、継続率などの拡大選択肢がある。
とある顧客セグメントに売れているからといって、違う顧客セグメントにも愛されると安易に思ってはいけない。
セグメントが違えば、違う国の人間だと思うくらいがちょうど良い。
今のセグメントに対して貢献できることが自分たちにはあるということをもっと信じてみてから、無理だったら広げるくらいがちょうど良い。
終わりに
規模に対応するには量ではなく構造を見つめる。
事業規模の拡大で直面する困難について、事前にその内容や対策を予想することは現実的には出来ないと思う。
しかし、
今の状態から、取引の数が増えたとき、
人数が増えたとき、業務の種類が増えたとき、
全体の複雑性がどれほど非線形に高まるか?
これはいつでも予見でき、具体的な問題点を特定し、次の段階に向けたあるべき構造は設計可能である。
なので、出来ることは、
技術投資、構造設計、戦略的な市場選択。
それにやり非線形的に複雑化してしまうこと自体を予測し、なるべく線形に近づけること。
だと思う。
トレードオフがある時も「意志を持って選ぶ」のではなくトレードオフ性をどうしたら解消出来るのか?を特定することに責任を持つべきである。
個人的には、現れた難しさに頑張って対応するよりも、難しさが現れにくい構造をみんなで守ってみんなで健康に仕事を楽しむのが良いんじゃないかなと思います。
