#266 | ぼくの事件簿 file:25〜天狗様とつらら〜
📘この物語は、中林堂_手描き本舗(Instagram @chu_rin_do)さんの描き下ろしイラストから生まれた、オリジナルショートストーリーです。
📖 ぼくの町の神社には、天狗様が祀られている。天狗なんているわけないのに。

うちの町の神社には、狛犬がいない。
代わりに、猫が二匹、社殿の前に座っている。祀られているのは、天狗様。
学校ではこう噂されている。
「夜に参拝すると鼻が伸びる」
「天狗様は三輪車に乗っているらしい」
意味が分からない。
雪が降った翌日、
神社の前を通りかかると、三輪車があった。
――天狗様?
そのとき背後から低い声。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……」
振り向く。
赤ら顔。
長い鼻。
エビフライの衣みたいな肌。
完全に、天狗様だ。
天狗様は手に持った何かを振っている。
「急急如律令――」
空気が凍る。
「キェーーい!」
ぽとり。
冷たい。
つららだ。
屋根を見る。
ない。
もう一度、ぽとり。
天狗様が言った。
「はい、忘れ物」
差し出されたのはハンカチ。
それはつららじゃない。
寒さで垂れていた、ぼくの鼻水だった。
天狗様は三輪車を脇に寄せる。
「道の真ん中にあったら危ないぞ」
――いい人じゃん。
猫が二匹、静かにこちらを見ていた。
翌日から、噂は更新された。
「急急如律令で鼻水を凍らせる」
ちょっと違う。
そして、ぼくのあだ名はしばらく
“つらら”になった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
初めて、はらとけいさんの「せりふ三題噺」にチャレンジしてみました。 めちゃめちゃ難しかったですが、楽しくもありました。
