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SIerの仕事は、コードの外側へ静かに移っていく

ダリオ・アモデイの言葉を聞いたとき、SIerの会議室に置かれた椅子が、1脚ずつ静かに引かれていく音がした。怖いのは、人月単価が少し下がることではない。長いあいだ「うちに頼めば作れます」と言って守ってきた仕事の入口に、顧客とAIが先に座り始めていることだ。

崩れるのは、見積書の行数でも、稼働率のグラフでも、開発部隊の人数だけでもないのかもしれない。要件を聞き、設計し、作り、納品するというSIerの商売の置き場そのものが、足元から少しずつ移動している。気づいたときには、コードを書く席の隣で、別の誰かがもう机の向きを変えている。


コードの値段が、静かに薄くなる

生成AIとCopilotは、要件の整理から設計の下書き、実装、テストまで入り込んできた。かつて人が時間をかけて積み上げていた工程が、画面の中で静かに短くなっている。

先に値段が薄くなるのは、手を動かした時間に価格をつけてきた仕事なのだと思う。詳細設計から製造、単体テストまでの人月案件ほど、顧客の目には少し軽く見え始める。そこには、作業量で価値を測ってきた時代の終わり方がにじんでいる。

アモデイの言う「ソフトウェアがほぼ無料になる」は、コードが消えるという話ではない。コードを書く行為そのものが、仕事の中心から少し外れていくという話に見える。

顧客の机に、AIが先に座り始めた

顧客はもう、すべてをSIerに渡して待つだけの存在ではなくなりつつある。社内の誰かがAIに頼み、小さなアプリやスクリプトをその場で作り始めている。

「軽い業務ツールを作ってほしい」という相談は、これから少しずつ減っていくかもしれない。M365 Copilotのような道具が広がるほど、現場は自分たちで試すことに慣れていく。会議室の外で、依頼書になる前の仕事がもう動き始めている。

変わっているのは、開発作業の量だけではないように見える。ユーザーが要件を出し、SIerが作るという順番が、ゆっくり別の形に組み替わっている。

案件の入口から、人が静かに離れていく

一番失われやすいのは、コードを書く席ではなく、案件の入口に座る場所かもしれない。そこを手放したままAIだけを使いこなしても、仕事は下流へ流されていく。

顧客がAIに直接話しかけるようになると、相談の最初の言葉がSIerに届かなくなる。何を作るかを決める前の迷いが、画面の中で試され、形になり、消されていく。気づいたときには、SIerに残るのは仕上げと調整だけになることもある。

だから怖いのは、開発工数が減ることだけではない。誰が最初に仕事の形を決めるのか、その席順が変わることの方が大きい。

残る仕事は、画面の外にある

ただし、すべての価値が消えるわけではない。むしろ残る仕事は、以前よりも輪郭がはっきりしてくる。

顧客の仕事を横に並べ、どこで止まり、どこで人が疲れているかを見る力はまだ要る。どこをAIに任せ、どこを人が持つのかを決めるには、現場の匂いを読む目が必要になる。きれいな業務フロー図の外側に、会社ごとの癖が残っている。

セキュリティ、権限、監査、ログ、利用ルールは、デモ画面の外側に残り続ける。AIを入れた瞬間から、会社は便利さだけでなく、責任をどこに置くかも考えなければならない。

Copilotやエージェントは、導入した日よりも、使われ続ける日の方が難しい。研修、運用、業務標準化まで含めて、誰かが隣で歩き続ける仕事になる。ツールが入ったあとに残る沈黙こそ、次の仕事の入口なのかもしれない。

古い画面と新しいAIの間に立つ

AI時代のSIerに残る仕事は、ただシステムをつなぐことだけではない。SaaSとレガシー、現場と経営、AIエージェントと古い業務の間には、まだ細い隙間がある。

その隙間は、ツールを並べただけでは埋まらない。承認で止まる画面、誰も触らない台帳、属人化した手順の前で、人はまだ立ち止まる。そこにAIを挟むには、仕事の順番を一度ほどいて見直す必要がある。

古い画面の前で止まった人と、新しいAIの返事のあいだに、まだ人の立つ余白がある。そこに立てる会社だけが、もう一度、案件の入口へ戻ってくる。

これから強いSIerは、プロダクトを作って配る会社だけではなくなるかもしれない。企業ごとの仕事の形を読み、その上にAIとSaaSとレガシーを重ね直す会社になっていく。

そこで使われるエージェントは、単なる便利な部品では終わらない。業界ごとの癖や、過去の案件で見てきた詰まりを閉じ込めた、自社の知見そのものになる。繰り返し使える仕組みに変えられたとき、経験はようやく資産になる。

人月の向こうで、席を取り直す

次に問われるのは、人月をどう守るかではない。早く作れる会社より、仕事の流れを描き直せる会社に、顧客はもう一度顔を向ける。

提案書づくりは、AIがかなりの部分を引き受けるようになる。人が握るべきなのは、その文章ではなく、どの道を選ぶかを決める場の方だと思う。営業や企画も、案件が決まってから動く役割では足りなくなる。

エンジニア個人の席も、少しずつ書き換わっていく。コードを書く人だけでなく、AIを見張る人、責任の線を引く人、古い仕組みをほどく人が求められる。

アモデイの言葉が怖いのは、ソフトウェアの単価が下がるという話だけではない。開発という仕事が、ユーザー企業とAIの側へ静かに移り始めている点にある。SIerが今見つめるべきなのは、効率よく作る画面ではなく、自分たちがどの入口に座るのかという問いである。

その入口を失った会社は、気づいたときには、もう顧客の会議室に呼ばれなくなっているのかもしれない。

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