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市場の大きさに酔う会社は、遠くへ行けない

市場は大きいのに、なぜか会社は遠くまで行けないことがある。地図は立派に広げているのに、自分の足元だけが少しぼやけている。

経営の怖さは、夢の大きさよりも、取れる場所の曖昧さに出る。大きな数字を見ているつもりで、実は遠くの景色に酔っているだけかもしれない。市場を語る前に、自分の手がどこまで届くのかを見ておきたい。


大きな市場ほど、足元が見えなくなる

TAM・SAM・SOMは、そのぼやけた足元を見るための道具である。夢を語る前に、どこまで届き、どこを取れるかを机に置く。

TAMは、理論上その事業が向き合えるいちばん大きな市場である。全員が買ってくれたら、という少し眩しすぎる数字でもある。だからこそ、その数字だけを見ている経営者ほど、足元の段差に気づきにくい。

夢の数字は、いつも少し眩しい

たとえばオンライン英会話なら、英語を学びたい人全体の市場が見えてくる。世界の学習者を並べると、数字だけはとても頼もしく見える。

けれど、その大きな市場すべてに商品が届くわけではない。国も言葉も決済も習慣も、静かにこちらの手を止めてくる。大きな市場は、近づいてみると意外なほど細かな段差に分かれている。

届く場所まで、地図を折りたたむ

そこで見なければならないのが、実際に届けられる市場である。これがSAMであり、自社が本気で戦える範囲を映している。

日本向けのオンライン英会話なら、日本に住む英語学習者が現実味を帯びる。海外まで広げた夢より、目の前の顧客の顔が少し見えてくる。地図を折りたたむことで、ようやく歩ける道が見え始める。

最初に掴む数字が、会社の呼吸になる

さらに、その中から実際に取れる市場を見なければならない。これがSOMであり、経営の話が急に生活の温度を持ち始める。

競合がいて、広告費があり、営業の手数があり、時間の限界もある。初年度に何人が使い、いくら払うのかが、ここで問われる。夢の話だった市場規模が、急に明日の売上会議の顔つきになる。

投資家は、夢より階段を見ている

投資家が見たいのは、大きな市場の掛け声だけではない。3年後にどれだけ取れるのか、その道筋の手触りを見ている。

ピッチ資料に、日本の教育市場は10兆円です、と大きく書かれることがある。けれど会議室の空気は、そこで少しだけ止まる。聞いている側の頭には、ではあなたはどこを取るのかだけが残る。

良いピッチでは、TAM、SAM、SOMの階段が自然に置かれている。大きな夢から、自社の足場まで、数字が少しずつ降りてくる。

市場の大きさに、会社は酔う

TAMは夢であり、SAMは戦う場所であり、SOMは最初に掴む現実である。この順番を飛ばすと、会社は市場の大きさに酔いやすくなる。

数字は大きく見せればよいものではなく、根拠と一緒に座らせるものだ。調査資料や競合分析がない市場規模は、少し声の大きい願望に見える。特にSOMは、顧客獲得の道筋と一緒でなければ弱く見える。

誰に、どう届け、どれだけ残るのかが、数字の奥から透けてくる。そこが見えない計画は、立派に見えても少し宙に浮いている。

伸びない会社は、努力より場所を間違える

この3つを知らない経営者の会社は、スケールしにくい。努力が足りないのではなく、広げる場所を見誤りやすいからである。

TAMだけを見て走ると、市場は大きいのに天井が早く来ることがある。SAMを見ないまま広告を打つと、予算だけが先に遠くへ行く。SOMを見ない会社は、最初の売上で少し安心してしまうことがある。

けれど次の階段が見えていなければ、数億円の先で足が止まる。売上が伸びたように見える時ほど、次に取る場所が静かに問われている。

遠くへ行く人ほど、数字を静かに直す

スケールしている経営者は、数字を飾りとして使っていない。四半期ごとに現実と見比べ、ずれた場所を静かに直している。

自社が何%取るのかを、競合の動きと一緒に語れる人は強い。話しているだけで、その会社の行き先に少し輪郭が出てくる。数字を語っているのに、不思議と現場の匂いまで伝わってくる。

今日できることは、それほど難しい作業ではない。自分の事業で、TAM、SAM、SOMを紙に3行だけ書いてみればよい。

書けない数字があるなら、そこがいまの事業計画の空白である。弱さではなく、これから詰めるべき場所が見えたということでもある。空白が見えた会社は、まだ地図を描き直すことができる。

足元の地図が、会社を遠くへ運ぶ

TAM・SAM・SOMは、ただのフレームワークではない。経営者が市場を見る時の、目の細かさを映す小さな鏡である。

市場は大きいと言う前に、自分の手がどこまで届くかを見ておきたい。酔いが醒めたあとで残るのは、拍手された市場規模ではなく、自分が本当に歩ける小さな道である。遠くへ行けない会社は、たぶん最初にその道を見落としている。

大きな市場より、小さくても歩ける道のほうが、会社を遠くへ運ぶことがある。

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