見出し画像

ChatGPT Workを使って推測した。受託開発の半分は蒸発する。

少し前、私は1枚の間取り画像をChatGPT Workへ渡し、CADで編集できるDXF図面へ変換する実験を始めた。数時間後、画面には壁や建具を個別に触れるDXFが残り、私は久しぶりにソフトウェアを1本作ったような、不思議な達成感を覚えていた。

だが、作業を振り返ったところで手が止まった。

自分では、ほとんどコードを書いていない。

では、私は何をしたのだろう。

もっと嫌なことにも気づいた。これだけの処理を昔の私が必要としたなら、仕様をまとめ、見積もりを取り、どこかの会社へ発注していた仕事ではないか。


4時間後、図面が残った

実験で行ったのは、画像の輪郭を拾ってDXFへ書き出すだけの単純な変換ではない。ChatGPT WorkはOpenCVによる画像処理、OCRによる文字や寸法の認識、壁や建具の形状抽出を組み合わせ、その結果をFloorPlan JSONという中間データへ構造化した。

そこからPythonとezdxfでDXFを生成し、完成した図面を再び画像としてレンダリングする。元画像と比較して差異を確認し、誤差が大きければDXFを直接直すのではなく、FloorPlan JSONを修正して再生成する仕組みまで組み立てた。

実験には約4時間かかった。私自身の経験では、生成AIを使わずに画像処理、データ構造、DXF生成、差分検証まで一から組み立てていたら、少なくとも5日以上は必要だったと思う。

ただし、これは一般的な生産性調査ではない。対象画像、要求精度、本人の経験によって結果は変わるため、「AIで開発が何倍速くなる」という数字へ広げられる話ではない。

それでも、この4時間には別の意味があった。

時間が短くなっただけではない。開発会社を探すところから始まるはずだった一連の取引が、最初から発生しなかったのである。

私はコードを書いていない

私は20年以上、ソフトウェア開発に関わってきた。昔なら必要なライブラリを調べ、データ構造を考え、試しにコードを書き、エラーを読み、修正し、もう一度動かしていた。

今回も、確かに開発をした感覚はある。どこまでを画像処理に任せるのか、どの情報を中間データとして残すのか、どの誤差を許容するのかを判断しながら、成果物へ近づいていった。

しかし、プログラムを書いたのは生成AIだった。

ここで起きたのは、私が開発者ではなくなったという変化ではない。開発者であるために、自分の指でコードを書く必要が薄くなったという変化だった。

OpenAIはChatGPT Workを、アプリやファイルをまたいで行動し、目的を小さな工程へ分解しながら、数時間かかる作業を完成物へ変えるエージェントと説明している。資料作成だけでなく、Codexの技術を内包し、ローカルファイル、ブラウザ、外部ツールを扱えることが現在の特徴である。OpenAI公式発表

つまり今回の出来事は、単に「AIがコードを書いた」という話ではない。人間が目的と判断を持ち、AIが技術選定、実装、実行、検証をつなぐ、新しい開発分担が成立し始めたという話である。

これは誰の仕事だったのか

今回、AIが行った仕事を並べてみる。

問題を小さな工程へ分け、OpenCVとOCRを選び、中間データの構造を設計し、DXF生成ライブラリを組み込み、検証方法を決め、差異があれば修正して再生成する。

これはプログラミングだけだろうか。

私は、かなりの部分がシステムインテグレーションそのものだったと考えている。SIとは、必ずしも誰も知らない高度なアルゴリズムを発明することではない。多くの現場では、すでに存在する技術、データ、製品、業務知識を組み合わせ、顧客が必要とする成果へ変換することが仕事になる。

これまでその組み合わせは、営業、PM、SE、プログラマー、テスト担当者の間を移動しながら形になってきた。今回、同じ役割のいくつかが、1人の人間とChatGPT Workの間へ圧縮された。

もちろん、1つの実験からSI業界全体を語ることはできない。それでも、AIが入り始めた場所を「コーディング工程」だけだと考えるのは、すでに狭すぎる。

外注する理由が、1つ消えた

従来、業務担当者と動くソフトウェアの間には長い距離があった。

担当者が要望を言葉にし、社内で予算を取り、開発会社を探し、説明し、見積もりを比較し、契約する。そのあとで要件定義、設計、実装、テスト、受け入れが続く。

この長い経路には、開発費だけでなく、説明、調整、待ち時間、認識違い、契約といった取引コストが含まれている。小さなツールほど、実装よりも発注準備のほうが重くなることさえある。

今回は、思いついた本人が、そのままAIと試した。仕様書を完成させてから渡したのではなく、作りながら仕様を見つけ、結果を見ながら判断を変えていった。

企業担当者からAIを経て成果物へ向かう、短い経路が成立したのである。

現在のChatGPT Workが、すでにあらゆる開発案件を完結できるという意味ではない。ただ、OpenAIが公表した利用状況では、非開発職によるCodex利用も増え、データ変換、業務自動化、デバッグ、構造化分析などへ用途が広がっている。OpenAIの2026年調査

これは、顧客企業の中に小さな開発能力が突然生まれ始めた、と見ることもできる。


100万円が10万円になる話ではない

受託開発会社にとって本当に怖いのは、100万円の案件がAIによって10万円になることではない。

100万円の見積依頼そのものが来なくなることである。

Excel自動化、CSV加工、API連携、社内検索、定型帳票、簡単なWebツール、CAD自動化、データ変換、小規模CRM、PoC、プロトタイプ、レポート生成。こうした仕事は、これから「まず開発会社へ相談するもの」ではなく、「まずAIに作らせてみるもの」へ変わっていく可能性がある。

Microsoft Power Appsでも、自然言語で業務要件を説明すると、アプリとデータモデルを生成する機能がすでに提供されている。一部機能には地域、利用上限、プレビュー提供などの制約が残るものの、発注者が自然言語から業務アプリを作る方向は、ChatGPT Workだけの現象ではない。Microsoft公式資料

ここでいう「受託開発の半分は蒸発する」は、会社数についての統計的予測ではない。受託市場へ出てくる仕事量のかなりの部分が、案件になる前に顧客の手元で処理されるのではないか、という私の仮説である。

値下がりなら、まだ競争できる。しかし蒸発した案件は、営業案件一覧に現れない。失注理由さえ残さず、顧客とAIの間で静かに終わる。

先に壊れるのは、人月かもしれない

AIが受託開発会社より先に壊すものがあるとすれば、それは人月という商品かもしれない。

これまでのシステム開発では、5人を3か月投入する、といった人と時間が価格の根拠になってきた。顧客が欲しいのは15人月ではなく動くシステムだが、それを作るために15人月が必要だったため、工数が商品として成立していた。

ところが、AIによって設計、実装、試験、修正の一部が数日から数時間へ圧縮されると、投入人数と成果価値が一致しなくなる。速く作れる会社ほど売上が減るという、従来の価格モデルにとって不自然なことも起きる。

IPAの2026年報告書も、日本のIT投資が慣習的に「人月×単価」で算出されてきた一方、生成AIによって工数依存の評価とソフトウェアの価値が一致しにくくなり、機能価値を基準にした評価が必要になると指摘している。IPA「2025年度ソフトウェアモダナイゼーション委員会報告書」

ただし、AIを使えば必ず速くなるわけでもない。METRが2025年に行った実験では、慣れた既存コードを扱う熟練開発者が当時のAIツールを使うと、作業時間が19%長くなった。同団体は現在、この結果を2025年初期時点の限定的なスナップショットと位置づけているが、AIの生産性効果が対象業務や検証負担によって変わることは忘れてはならない。METRの調査

だから崩れるのは、すべての工数ではない。工数を積み上げれば、そのまま顧客価値と価格を説明できるという前提である。

基幹の扉は、まだ重い

間取り画像をDXFへ変換できたからといって、ChatGPT Workが現在すでにERPや基幹システムを完全自動構築できるわけではない。

今回の図面にも、生成された線が本当に壁なのか、家具との区別は正しいのか、寸法を信用できるのか、設計や施工に使える品質なのかという問題が残る。動くファイルができたことと、その正しさに責任を持てることは別である。

基幹システムでは、さらに権限管理、個人情報、データ移行、既存システム連携、性能、可用性、バックアップ、障害対応、法規制、監査、長期保守が加わる。1つの誤りが会計、在庫、調達、顧客対応へ連鎖するため、「だいたい合っている」では済まない。

SAPも2026年、財務やサプライチェーンを含む基幹業務へのAIエージェント展開を発表したが、その前提として業務データ、知識グラフ、セキュリティ、コンプライアンス、ガバナンスを強調している。同社CEOの説明を要約すれば、重要業務では「ほぼ正しい」だけでは足りないということである。SAP公式発表

したがって、現在確認できる事実は限定される。従来SIerが担当してきた仕事の一部を、1人の人間とAIだけで完結できる範囲が急速に広がっている。ここまでは言える。

その先、販売管理、CRM、在庫管理、生産管理、会計周辺、ERPまで同じ変化が広がるという部分は、私の未来予測である。

最後の20%だけが残る

将来の基幹システム開発は、AIが一晩で全部作って終わる姿にはならないと思う。

企業がAIと業務を整理し、AIがプロトタイプを作り、人間が要件と例外を判断する。その後、AIが実装とテストを進め、専門企業がセキュリティ、移行、統合、監査、運用を担う。

そうなれば、受託開発会社は「最初から最後まで全部作る会社」ではなく、「最後の難しい20%を引き受ける会社」へ変わる。

厳しくなるのは、言われた仕様を人月で作り、コードを書く人数を競争力にし、顧客業務を深く理解しない会社である。多重下請けの中で、作業量だけを提供してきた企業も影響を受けやすい。

一方、顧客の経営課題を理解し、業務自体を再設計できる企業は残る。既存基幹システムを理解し、データ移行、セキュリティ、法務、監査、本番運用まで責任を負える企業も、むしろ重要になる。

AIによってコードが増えるほど、その出自、脆弱性、保守性、設計判断を確認する仕事も増える。安く作る能力より、何を作らないかを判断し、動いたあとまで責任を持つ能力のほうが希少になる可能性がある。

SIerが消えるのではない。

SIという仕事の中から、簡単に生成できる部分が先に抜け落ち、残った責任の重い部分へ価値が集まるのである。

最後の競争相手は、顧客だった

AI時代に受託開発会社の最大の競争相手になるのは、別のSIerでも、海外の開発会社でも、AIスタートアップでもないのかもしれない。

昨日まで発注者だった顧客自身である。

今回、私は誰かへ仕様書を渡していない。自分の中にあった「この画像をCADで触れるようにしたい」という目的を、そのままChatGPT Workへ渡した。

AIが不明点を整理し、技術を選び、コードを書き、ファイルを作る。私は結果を見て、違うと思えば方向を戻し、どこまで使えるかを判断した。

数時間後にはDXFがあった。

私は間取り図を作っていただけだった。けれど作業を終えたあと、画面には図面以外のものも見えていた。

これまで企業とソフトウェアの間にあった、長い距離である。

消えるのは、会社ではないのかもしれない。

最初に蒸発するのは、「誰かに作ってもらわなければならない」という前提なのかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!