本人から見れば「きちんと物を申す人」vs会社から見れば「協調性がない人」——そのズレを“紛争”にしない労務面談(NLP×弁護士)
先日、あおぞら銀行の行員の方が銀行を相手に損害賠償等を求めた件で、東京高裁が一審(東京地裁)を変更し、銀行側に約840万円の支払いを命じた、というニュースが出ました。労働法弁護士の視点からは是非判決文を読んでみたいのですが、NLPの視点から記事の中で印象的だったのが、代理人弁護士の次のコメントです。
「Aさんは職務怠慢や業務に対して、きちんと物を申すタイプです。それゆえに多少強めに主張することもありましたが、地裁はそうした事象を過大に評価し、客観的な証拠や裏付けなどがないにもかかわらず、あたかもAさんが攻撃性のある人物かのように認定してしまいました」(伊藤弁護士)
使用者側の労務相談でも、これに近い構図は本当に多いです。
会社・上司から見ると:「協調性がない」「周りを振り回す」「扱いづらい問題社員」
本人から見ると:「相手が誰であっても、言うべきことを言っているだけ」「私はなにも間違ったことはしていない」「私は正しいことをしている」
この“見え方のズレ”を放置すると、注意指導・評価・配置・懲戒・退職局面で一気に紛争化します。
今日は、**紛争に発展させないための「調整の型」**を、NLP(特にポジションチェンジ)と、労務実務(記録・手続の設計)をセットでまとめます。
1. まず整理:これは「善悪の争い」ではなく「地図(認知)の衝突」
NLPの前提に「地図は領土ではない(The map is not the territory)」があります。
同じ出来事でも、人はそれぞれの経験・価値基準・役割期待で“地図”を作り、そこで反応します。
本人の地図:
「品質を守る」「不正や怠慢を見逃さない」「言うべきことを言うのが誠実」周囲の地図:
「言い方が強い」「空気を壊す」「チームの心理的安全性が下がる」
ここで大事なのは、“人格評価”に落とさないこと。
「協調性がない」は便利なラベルですが、法的にも実務的にも弱い。争点化しやすいのは、むしろここです。
2. 紛争化のトリガー:会社がやりがちな“3つの地雷”
地雷①:「協調性がない」で説明を終える
本人にはこう聞こえます。
「要するに、黙って従えってこと?」「正しい指摘が嫌なんでしょ?」
地雷②:事実(行動)ではなく“印象”で詰める
本人は防衛モードに入ります。
すると、証拠・記録・第三者評価がないまま対立が深まる。
地雷③:「言うことを聞かせる面談」になっている
面談の目的が「同意の強制」だと、本人はさらに硬化します。
(この局面で“録音”が始まるのも、あるあるです)
3. ポジションチェンジで“ズレ”を見える化する
ポジションチェンジ(知覚ポジション)は、ざっくり言うと次の3視点(+発展形)を行き来するワークです。
第1ポジション(自分):私は何を見て、何を守ろうとしていた?
第2ポジション(相手):相手は何を見て、どう受け取った?
第3ポジション(第三者):中立の観察者なら、何が起きていると言う?
(発展)第4ポジション(組織・システム):チーム全体にはどんな影響が出ている?
ポイントは、“反省させる”ためではなく、選択肢を増やすために使うことです。
4. 進め方
Step0:面談のゴールを合意する(主導権争いを防ぐ)
「今日は“正しい/間違い”を決める場ではなく、仕事が前に進む形を一緒に作りたい」
「結論は、①事実整理、②周囲への影響、③次に同じ場面が来た時の“言い方・手順”の合意、の3つ」
→ これだけで、本人の防衛が下がりやすいです。
Step1:バックトラッキングで“意図”を先に受け止める
(※同意ではなく“理解の表明”)
「品質やリスクの観点で見過ごせないと思ったんだね」
「自分が嫌われても、言うべきことを言うのが誠実だ、という感覚がある?」
→ 意図と行動を分離します(NLPの定番)。
意図を承認すると、行動の調整が可能になります。
Step2:事実を“感覚ベース”で確認する(曖昧語を削る)
「協調性がない」ではなく、SBIで詰めます。
S(状況):いつ/どこで
B(行動):具体的に何を言った・書いた・した
I(影響):周囲の業務・心理・関係に何が起きた
ここはNLP的にも重要で、**名詞化(nominalization)**を崩します。
「協調性がない」→「会議で〇〇と言った/Slackで〇〇と書いた」へ。
Step3:ポジションチェンジ
第1:その時、あなたは何を守ろうとしてた?
第2:相手の立場なら、どう聞こえたと思う?
第3:第三者なら、“何が起きている”と表現する?
第4:チーム全体にはどんなコストが出てる?(時間・離職・心理)
ここでの狙いは、本人に「黙れ」と言うことではなく、
“目的(正しさ)”は保ちつつ、“手段(伝え方・手順)”を変えること。
Step4:行動ルールを「選択肢」として合意する(ダブルバインド)
たとえば、本人が「指摘したい」タイプなら、指摘を封じると爆発します。
なので、ルートと形式を設計します。
口頭で言うなら:「結論→根拠→提案(次の一手)」の順にする
文面で言うなら:「事実/推測/要望」を分けて書く
いきなり相手を刺さずに:「一次は上司に共有→必要なら会議で」など手順化
そして選択肢を出す:
「次からは、①私に先に共有してから相手に伝える、②相手に伝えるならこの型で伝える、どっちがやりやすい?」
→ これで本人は「奪われた」ではなく「自分で選んだ」になる。
Step5:最後に“TOTE”でテストする(再発防止に向けて)
Test(現状):今までのやり方だと何が起きた?
Operate(新行動):次から何をどう変える?
Test(確認):そのやり方なら何が改善しそう?
Exit(終了条件):どんな状態になったら“OK”?
この「テスト→調整」の思考が入ると、再燃しにくいです。
5. 使えるNLP手法
ここからが本題。現場で効くやつです。
(1) バックトラッキング(受容+要約)で反発を下げる
最初の5分は、説得しない。評価もしない。
まず「理解された」という体験を作る。
例(本人が強い口調のタイプほど効きます)
「あなたとしては、リスクを放置したくなくて、言うべきことを言っている感覚なんですね」
「“黙っていた方が問題だ”という価値観が強いんですね」
ここでのコツ:
**“同意”ではなく“理解”**を返すこと。
(2) メタモデル質問で「協調性がない」を分解する
次に、抽象語を“検証可能な形”にします。
尋問じゃなく、共同編集のイメージで。
「“協調性がない”と言われた場面、具体的にいつのことですか?」
「そのとき、あなたは“何を言った/書いた”ですか?言葉を再現できますか?」
「相手は“どう受け取った”ように見えました?」
「そのやり取りで、業務上どんな支障が出ましたか?」(会社側も同様に具体化)
ここで“事実”が揃うと、紛争の火種がかなり消えます。
(3) リフレーミング:「長所の暴走」として扱う
私はこのタイプを、こう定義することが多いです。
強めに言う=正確さ/正義感/危機感度が高い
協調性がない=“目的より正しさが先”になっている瞬間がある
つまり、人格の問題にしない。
**「資質は活かす、運用を整える」**が落としどころです。
(4) アウトカムフレーム:「で、どうなればOK?」へ戻す
揉める会話は、過去の審理になりがちです。
未来の設計に戻します。
「この件、あなたとして“どうなれば納得”ですか?」
「会社としては“こうなれば安全に回る”がゴールです。両方満たす形を作りたい」
6. まとめ:調整のコツは「正しさを潰さず、手段を増やす」
「きちんと物を申す」こと自体は、組織にとって資産にもなり得ます。
ただし、表現・順番・ルートが荒いと、周囲は疲弊し、本人も孤立し、最後は紛争になります。
だからこそ、
意図は承認(バックトラッキング)
行動は具体化(曖昧ラベルを外す)
視点を移動(ポジションチェンジ)
選択肢で合意(健全な主導権設計)
TOTEで再発防止(テスト→調整)
このセットで、「協調性がない問題社員」だったはずの人が、
“言うべきことを言える健全なブレーキ役”に変わることも、実際にあります。
