子育てを卒業してカフェを開く。第二の人生で見つけた「出会いをおもしろがる」生き方
子育てがひと段落したあとの、第二の人生。――あなたなら、どう過ごしますか?
50代で子どもが巣立ち二児の母を卒業したikuさんは、夫の早期退職を機に「楽しいことを始めよう!」と一念発起。夫婦で『カフェ ウプパドゥ』をオープンさせました。
気負うことなく自然体で、地域活性化やフェアトレード、資源循環にも貢献している、彼女。お話を伺うと、「出会いをおもしろがる」幸せな生き方のヒントが見えてきました。
ikuさん
1969年生まれ、横浜市出身。二児の母と専業主婦経験を経て、福祉の現場で活躍。その後、子どもの独立を機にカフェ開業を考え、2025年11月『カフェ ウプパドゥ』を夫婦でオープン。開業を機に多摩市に移り住む。趣味は音楽、ものづくり、読書など。
「カフェを開きたい」50代で二児の母を卒業し、長年の妄想を叶えるまで

―― 私は訪れるたびに、『カフェ ウプパドゥ』の魅力にハマっています!二児の子育てが落ち着いて開業されたそうですが、いつからカフェの構想があったのでしょう?
ikuさん:
「カフェを開きたい」そんな妄想は何年も前から、ほんのりと思い描いていました。
妄想が現実に変わりはじめたのは、次男が大学生になったときですね。子育てのゴールが見えてきて、「これからは自分たちのやりたいことをやっていこう」と思ったんです。
さらにカフェ開業の話が現実味を帯びたのは、次男が就職し、家を出たころでした。いよいよ親としての役割は、ほぼ終了。「よし、やろう!」と、本格的に動き出しました。
―― 子育てが終わって、寂しさはなかったですか?
ikuさん:
専業主婦も経験し、子育てにどっぷり浸かったので、寂しさは感じませんでしたね。子育てのせいで社会から孤立…という話も聞くのですが、私はむしろ世界が広がり、社会と深くつながることができたと思っています。
充実した日々を送ったからこそ、子どもたちの独り立ちも「あとは自分たちで頑張れ!私たちはカフェをするから」と、すんなりバトンを渡すことができました。
カフェのことは子どもたちも、応援してくれています。親としては「何かあっても、もう私たちはあなたたちを助けられないし、なんなら私たちがお金を無心するかもしれないよ?」とも冗談まじりに伝えてあります(笑)。
――理想の親子関係ですね…!お店を開くために多摩市へ移り住んだとお聞きしていますが、どういった経緯で多摩市を選びましたか?
ikuさん:
以前は隣街の八王子市に住んでいて、近くの物件を探しましたが、なかなか縁がなくて…。市外までエリアを広げて探したときに、偶然見つけたのが「多摩市落合」にある飲食店の跡地でした。
想定の2~3倍の広さでしたが、「これならバンドも呼べるんじゃない?」とわくわくして飛びついちゃって(笑)。それで、夫婦で多摩市に引っ越してきたというわけなんです。
――実際に多摩市に住んでみて、いかがですか?
ikuさん:
多摩市は本当に、おもしろい街です!お店をやっていると、音楽好きな人はもちろん、作家やアーティスト、本を書く人など、いろいろな才能や背景を持つ人たちと出会います。
自然豊かで、のびのびとした環境も魅力です。東京都内のなかでもローカルな雰囲気があって、この「こじんまり感」が、すごく居心地がいいなと感じています。
「サラリーマンの安定」を手放した先の出会いが価値観を変えた

―― 子育てがほぼ終わったとはいえ、カフェを開くことは、大きな挑戦です。何か後押しする出来事があったのでしょうか?
ikuさん:
当時サラリーマンだった夫から「早期退職したい」と打ち明けられたことが大きかったです。家族のためにずっと働き続けてくれた人なので、気持ちを尊重したくて。
無理して働き続けるよりも心身の健康を大切にして、楽しい時間を過ごせたほうが、きっといい人生になると思ったんです。
――ikuさんのやさしさが伝わってくるお話です。でも、不安はありませんでしたか?お店を開くにはお金もかかりますし、勇気のいる決断だったと思います。
ikuさん:
もちろん、安定した収入がなくなることや、老後資金の不安はありました。でもせっかくなら、「新しいことを始めよう!」と、前向きに考えたくて。
思い切ってお店を開いたら、驚くほど毎日が充実しました。お金があったときよりも今の方が、大抵のことは「なんとかなるだろう」と思っています(笑)。
――「なんとかなる」と思えるまでに、どんな心境の変化があったのでしょう?
ikuさん:
サラリーマンの妻として生きていたころは、周りも似た価値観の人ばかりでした。でもカフェを開いて一歩外に出たら、同じ自営業やフリーランスの方など、これまであまり接点のなかった生き方の人たちとの出会いがあって。
その出会いを通じて「お金がそんなになくても、人は楽しく生きていけるんだ」と、新しい幸せのカタチを知りました。
今は目覚ましをかけずに起き、働く時間も自分で決められます。お金は減りましたが、かつてのストレスが消えたメリットのほうが、はるかに大きかったですね。
『カフェ ウプパドゥ』は子どもからお年寄りまで誰もが「音楽」とつながれる場所

――「“ウプパドゥ”ってどういう意味だろう…?」と気になる方が多いと思うのですが、店名へ込めた想いも教えてください。
ikuさん:
私たち夫婦の好きな「アメリカ南部ニューオーリンズ」のリズム&ブルースの定番曲『Ooh Poo Pah Doo(ウプパドゥ)』が由来です。
『ウプパドゥ』という言葉自体に具体的な意味はなく、ジャズやソウルで使われる「シュビドゥバ」のようなものです。その響きがすごくかわいいなと思って名付けました。
知る人ぞ知る曲名なので、音楽好きのお客さんにとっては“秘密の暗号”みたいに伝わり、機能しているのもおもしろいんですよ。
それに、まだ小さなお子さんたちが「う、ぷ、ぱ、どぅ…?」とたどたどしく話すのも、とってもかわいくて。この店名にして本当によかったと思っています(笑)。
――そのような由来があったんですね!店内には、たくさんの楽器とレコードがあります。やはり音楽好きのお客さんが多いですか…?

ikuさん:
いえ、私たち夫婦が「好きなもの=音楽」に囲まれていたいから、楽器やレコードを置いているだけなんです。「音楽好きでないと入れないお店」にはしたくないと思っています。
実際、コーヒーを飲みにふらっと立ち寄る方、おしゃべりや読書を楽しむ方…音楽好きかどうかは関係なく、幅広いお客さんに親しんでいただいています。
その一方で、楽器があることで、小さなお子さんや近所のおばあちゃんが「ドラムセットの椅子に座って、叩いてみたい!」と興味を持ってくれる瞬間があって。 最近も、未経験の大学生がドラムにハマって叩きに来てくれたり、居合わせた人たちでセッションが始まったり…。
初めて楽器に触れる人もプロのミュージシャンも、誰もがフラットに音楽とつながれる。なるべく敷居の低い場所でありたいと思っています。
――不定期に開催されているライブイベントも、そうした想いから始まったのですか?
ikuさん:
お店を始めて忙しくなり、今まで大好きだったライブに行く機会が減ってしまって…。「行けないなら、お店に呼んじゃおう!」と思ったのがきっかけです(笑)。
今はまだブッキングや告知、チケット管理まですべて手探りでひーひー言いながらやっています。まずは自分たちが心から惚れ込んだミュージシャンをお呼びしているのですが、今後は自分たち以外の方の企画(ワークショップやライブ、イベント)もどんどん取り入れていく予定です。
理想は「ウプパドゥのセレクトしたミュージシャンなら間違いない!行ってみよう!」と、思ってもらえるくらい、信頼されるお店になること。
お店の「好き」をきっかけに、街の人が集まって、新しい人や音楽との出会いも広がったら、最高です。
「第二の人生」は社会貢献も気負わず。おもしろがって人や世界とつながる

――入り口にスロープのある親切なお店づくり、コンポストなどで、地域活性化や資源循環にもさりげなく貢献されていますよね。
ikuさん:
入り口のスロープは、車椅子やベビーカーでも入りやすいように整えています。でも、それをアピールしたいわけではありません。
もともと福祉の仕事をしていたので、「お店に来る」選択肢を、当たり前に誰もが持てるように…という、私なりのスタンスなんです。
生ゴミを堆肥化する「コンポスト」の取り組みも、毎日お店から出るコーヒーかすや野菜くずがもったいない、と思ったのが始まりです。できた堆肥は、オープン当初に出会った常連さんの畑で活用していただいています。
――すてきです!ちなみに最近始められた「シライワリ人形」の販売は、どういったものなのでしょう?
ikuさん:
「シライワリ人形」は、発展途上国の女性が一つひとつを手作りしている一点ものの人形です。正当な対価を交わす「フェアトレード」の仕組みになっていて、現地の支援にもつながっています。
アパレルメーカーのはぎれを使用しているので、デザインがおしゃれで、どれも個性的でしょう…?私はこの人形に初めて出会ったときに、一目惚れしてしまったんです。
それに実は、私自身も裁縫で人形や人形の服・カバンなどを作るのが好きで。シライワリ人形をご購入いただいたお客さんには、ささやかなお礼として、当店オリジナルグッズや、コーヒーチケットをお渡ししています。

――『カフェ ウプパドゥ』は社会貢献もしながら、人や世界とつながっている場所なんですね。
ikuさん:
社会貢献といっても、私たちはおもしろがって、自然体で取り組んでいます。開店からまだ1年足らずですが、「おもしろいことをやっていれば、大丈夫!」そう信じてお店を続け、世界が広がっていくのを実感しているところです。
――「おもしろがる」って、すごくいいですね。ikuさんのような軽やかなマインドで、わたしも第二の人生を楽しめるかっこいい大人になりたいです…!
ikuさん:
ありがとうございます!ひとつひとつのかけがえのない出会いが、わたしたち夫婦にとっては一番の「宝物」です。勇気を出してカフェを開かなければ、『たまもぐ&eco.』のえみさんとも、こうして出会えなかっただろう…と思うと、不思議な気持ちになります。
――最後に、「第二の人生に何をしよう?」と悩む読者の方へメッセージをお願いします。
私たちの第二の人生も、お店の物語も、まだ始まったばかり。メッセージなんて恐縮ですが、もしひとつお伝えできるとするなら、何より「心と体の健康が第一」ということですね。私たちも無理をせず、ストレスをため込まず、これからも健やかに生きていけたら。
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二児の子育てを卒業し、サラリーマンの安定した暮らしを手放したikuさん夫婦。カフェを開いて出会ったのは、さまざまな人や世界とつながり、日々をおもしろがる生き方でした。
第二の人生に「楽しいことを始めよう!」「社会貢献も気負わず自然体で」この軽やかなマインドが、幸せを呼び込んでくれるのだと思いました。
ikuさんの物語が、あなたの幸せな生き方のヒントになりますように。
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カフェ ウプパドゥ
住所:東京都多摩市落合6-12-10
最寄り駅:多摩センター(京王・小田急・多摩都市モノレール)より徒歩30分 / バスあり
営業日:平日12時〜18時、土日祝12時〜19時、火曜定休
※イベント時は変更あり
お問い合わせ:持ち込み企画はInstagramまで
テラス席:あり(ワンちゃん連れOK)
駐車場:4台
◉サステナブルな取り組み
環境や社会に配慮して、サステナブルにお店を営んでいる『カフェ ウプパドゥ』。入り口のスロープ設置によるバリアフリー化をはじめ、コーヒーかすや野菜くずを捨てずに活用するコンポスト、発展途上国の支援につながるフェアトレード雑貨の販売などを、おこなっています。
たまもぐライター 小嶋絵美の著書『捨てないレシピ』とのコラボメニューも、販売しています。ぜひ、味わってみてくださいね。

(取材・文・撮影/小嶋絵美)
